❅11. サマエルのその当たり前がどれだけ僕を救っているかなんてきっとこれっぽっちもわかってはいないんだろう

中庭を抜けた先の屋根の上、僕らのかくは風が気持ちよくそよいでポカポカと温かい。

空は青くみ渡っていてふわあぁっとあくびを溢す。

昼寝日和ひるねびよりだといわんばかりにサマエルと2人寝転がっている。

ふと思い立って隣のサマエルへ

「なぁ、サマエル。」

と声を掛ければ

「なんだ。」と小さな声がかえって来た。

それでも、返事はするくせに目を開けようとしない所がサマエルらしい。

「サマエルは俺のこと、紫月しづきの姫って呼ばないよね。」

僕の言葉に少し眉を寄せたサマエルが

「おまえはミハイル。俺は俺の意思で呼ぶ、それだけだ。」

そう言って身じろぐ。

「あのさ、サマエル…。その…嬉しかった。」

恥ずかしさに少しどもってしまった僕をちらっと見て「なにが。」なんてサマエルは言う。

その視線はすぐ伏せられて隠れてしまったけど。

「僕を見てくれて。」

「別に。おまえが俺の前にいつもいるだけだ。」

「でも、嬉しかったんだ。初めて会ったときかr…あっ!!サマエル!!」

急に声を張り上げサマエルをすり起こす僕にサマエルは鬱陶うっとうしそうに起き上がる。

「俺の安眠あんみん妨害ぼうがいできるのはおまえくらいだ。」

なんて不貞腐ふてくされながらもちゃんと起き上がって話を聞こうと僕を見てくれる。

「サマエルは優しいね。」

はぁと呆れ顔で「おまえは俺を買いかぶりすぎだ。」

なんてまるでなにごともないかのように言ってのける。

そんなところに僕はいつも救われている。

サマエルのその当たり前がどれだけ僕を救っているかなんてきっとこれっぽっちもわかってはいないんだろう。

サマエルはいつも買いかぶりすぎだという。そんなことなんて少しもないのに。

「で、なんだ。」と物思いにふける僕を現実に連れ戻した。

「あ、そうだ。あのさ、僕…まだサマエルの真名まな聞いてないなって。…いや!大事な物だってことはわかってるよ!でも、ちょっと知りたいなって。…ほら、僕の真名まな、サマエルは知ってるわけだし。」

「おまえのはミハイルが勝手にしゃべっただけだろ。」

「んー。そう、そうなんだけどさ!!」

「だめだ。今は。」

「え、なんで教えてよ…え?今は?、じゃあいつかは教えてくれる?」

「まぁ、その時が来たら。いつか。」

「うーん、それなら今は我慢する。だから、絶対教えてよね。」

「いつかな。」



そよいだ風がサマエルの漆黒しっこくに見える紺髪をさらって笑うその顔を引き立てていた。

「絵画みたい。」

思わずつぶやいた僕にサマエルはもう一度

「買いかぶりすぎだ。」と言って小さく鼻をスンと慣らした。

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