❅9.僕の血統は紫月の姫の伝説

紫月の姫の伝説。

それは、この魔界に住むヴァンパイアならだれでも知っているだろう歴史。

何故紫月の姫がここまで知れ渡ってしまったのか。

何故紫月の姫がこんなにも祭り上げられているのか。

それは、紫月の姫の起源にある。



今ではもう何千年前にもなる大昔。

魔界と人間界が分断して何度目かの夜だった。

ある時、紫色の月が夜空にまたたいた。

その月は大層美しかったらしい。

月に気付いたヴァンパイア達はその月を見ながら夜酒よざけにしけこんだ。

それから数週間がたったころ一人の若いヴァンパイアが精神に異常をきたし他のヴァンパイアを襲ったりヴァンパイアの血肉を喰らったりし始めた。

これはおかしいと周囲のヴァンパイアは彼女を縛り上げ医者に見せた。

でも、異常はどこにも見当たらなかった。

彼女を縛り上げたヴァンパイア達は何か新種の病気ではないかと怖くなり彼女を幽閉ゆうへいした。

だが、彼女はそこを抜け出し殺害を繰り返してしまった。

近くに住んでいたヴァンパイア達は怖くなり彼女をもう一度縛り上げはりつけにした。

そして、その下に火をくべ焼き殺してしまった。

新種の病気、医者にもわからないとなれば治療法はない。

仕方のないことだった。

だけど、悪夢はこれでは終わらなかった。

焼き殺されたその若いヴァンパイアには両親がいた。

そして、娘が近所の親しかったヴァンパイアに焼き殺されるところを目撃してしまった。

娘が焼き殺された次の夜、両親は娘と同じように発狂してしまった。

だが、それだけではなかった。

その夜、娘の両親だけでなく他の数人のヴァンパイア達が各地で同じように発狂していた。

さらに、長寿を持つというヴァンパイアが襲われたわけでもないのに不審に衰弱し死亡してしまった。

その次もその次も同じようにその紫の月を見たヴァンパイア達が謎の発狂を起こしたり突然衰弱していくという事件がおきた。

死体を調べてみるとそのものらは決まって身体に刻印が浮かび上がっていた。

初めヴァンパイア達はそれを流行病だと悪魔の仕業だと認識した。

そこでヴァンパイア達はそのものら、悪魔の刻印が出たものらを恐れた。

突然発狂する彼らに怯えたヴァンパイアたちは、刻印を探して魔女裁判にかけ刻印のあるものを片っ端から火あぶりにした。

ずっと仲間だったヴァンパイアが明日には悪魔の刻印をおされるかもしれないと警戒していた。

しかし、捜査が進むにつれてやがて悪魔の刻印が出たものは決まって、紫色の月を見たと嬉しそうに語っていたと裏付けされ、

紫色の月はヴァンパイアを狂わす月=ルナティックとして名付けられた。







ヴァンパイア達はその月を見ることを禁じた。

しかし紫色の月はそれ以来現れることは無く

やがて、その現象とヴァンプ達の認識は風化し伝説となった。

あるとき、ヴァンパイアの世界で抗争が起こり1人の女ヴァンパイアがヴァンパイアの世界をその能力で救い英雄となった。

彼女が持つその能力とは血の契約を解除する力や共感、共感覚。

その女ヴァンパイアは英雄として名を知らしめ、いつしかヴァンパイア界では知らぬものがいなくなり伝説の姫と呼ばれた。


―――――そして、その伝説の姫はあの紫色の月の悪魔の刻印を持っていた。


彼女の生い立ちは貧しく隠れて生活していた。

彼女の母親にもこの刻印があり好奇心で幼き伝説の姫が話題に出したときも大層怒られた。実は伝説の姫の母親はあのルナティックで唯一生き残ったヴァンプであり紫色の月をみた時、既に伝説の姫を身ごもっていた。

生まれた赤子にも刻印があったため母親は自身の死と赤子の死に怯えながらも隠れて育てた。

赤子はすくすく成長し、幸いなことに母親もその子も刻印が見つかることはなかった。

そうして、無事伝説の姫が15歳になった頃突然伝説の姫の母親は死んでしまった。


そう隠して生きてきたが風化して居たその当時、刻印を見られてしまったがそれは逆に伝説として勇者の証としてヴァンパイア達にに祭り上げられた。


伝説の姫がやがて結婚し子を身ごもり、産み落とした赤子にも刻印は受け継がれた。


赤子は女だった。

そして、伝説の姫もまた伝説の姫の母親のようにその赤子が伝説の姫と全く同じ年齢になった頃突然死んでしまった。


そして、その次の世代もまたその次の世代もずっと赤子は女で刻印と能力は引き継がれ赤子がある年になると、母親が死ぬというサイクルが何千年も続いた。大体は15歳くらいだと書かれていたりもした。


そして、はじまりのルナティックから何千年かの今、母親から生まれたのは男の赤子だった。その赤子にも刻印と能力は受け継がれていたがその能力は他より色濃く現れていた。

それが、紫月の姫でありミハイルである紫月凛弥しづきりんやだ。

凛弥は紫月の姫の能力と言われる共感、共感覚、精神系、1番寿命が短いほどの毒物と化した血は他人に植え付けられたDNA配列を壊す。

しかし、DNA配列を壊せるのは他人の配列だけではなく対象者本人のDNA配列をも壊せる力だけでなく嗅覚と視覚が特に鋭かった。

凛弥の母親もまた同じように凛弥が15歳になった数日前死んでしまった。


ただ1つここで疑問が残った。

刻印も能力も健在。けれど、生まれおちたのは男の赤子。

男は子供をみごもれない。

凛弥は子を作れない。

そして、この凛弥も例外ではない。

男のヴァンパイアは子をなさない。


医者や側仕そばづかい(傍遣そばづかい)、そしてヴァンパイアのお偉いがた…ヴァンパイア協会は戦慄せんりつした。

歴史研究員を集め伝説の姫と呼ばれる家系や歴史も調べられルナティックも対象になった。

そして彼らはある仮説を立てた。

この家系が途絶える時、ルナティックが再来すると。

彼らは、今回の伝説の姫の赤子が男だったことに改めて戦慄せんりつし、

かつてルナティックに怯えこんなことになったのはお前のせいだ、お前が女だったら、お前が生まれなければと伝説の姫の男をみ子としてさげすみ始めた。


しかし、能力だけは失う訳には行かなかった。


そして、お偉いがたは伝説の姫の男の能力に目をつけた。どうにかして伝説の能力のみを男から引き剥がし誰か正常な女ヴァンプに移せないかと。


研究員たちはそれを実行するための研究に励み、お偉いがたはここでもし過去のように発狂されるのもあのような下賎げせんみ子がいることもあってはならないとさげすむ罪悪感をみ子をかくまうのは大衆たいしゅうしめしがつかないという建前を使い代々守ってきた天上てんじょう、伝説の姫の屋敷から追い出した。


その先は、ヴァンパイアのなかでも不安定になってしまった異端児いたんじと呼ばれるヴァンパイアの子達の収容施設しゅうようしせつ。表向きはヴァンパイア更生育成施設。

お偉いがたとされるヴァンパイア協会はそのヴァンパイアをヴァンパイアの異端いたん、ヴァンパイアをけがすものとして認識していてみ子には丁度いいと嘲笑あざわらった。


貴族の出もヴァンパイア更生育成施設にいたがお偉いがたは特段きにすることは無かった。

紫色の月。

もうすぐルナティックがくる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る