3:10

「まさか」


鼻で嗤うジュン。


「善悪、 正誤の判断は頭の良い連中にやらせればいい

殺し合いにはそんな物は不要

寧ろ名誉を捨ててでも勝とうとするお前のやり方には尊敬すら覚える」

「貴方に褒められてもな」

「言ってろ」


距離を取るジュン。


(とカッコいい事を言ってもなぁ・・・)


自分もここにある道具を使って戦うと言う事も出来る

が、 ここにある道具は全部エルカーラの物である。

当然何かしらの罠も用意してあるだろう。


(剣の類もあるが・・・)


だとしたら片手斧での攻撃は無意味だ。

武器破壊してもそこらに剣が有っては意味がない。

事実、 この考えは正しい。

剣の類は全てダミー、 柄と鞘だけ、 折れた剣、 竹光※1、 ジョークグッズの類である。



※1:竹を削ったものを刀身にして刀のように見せかけた物である。

殺傷能力は本物に劣るが良い素材ならば武器としても使用出来る。

当然ここにある物の性能はお察しである。



「まぁ良い」


折れた刀を構えるジュン。


「その玩具で戦うつもりですか?」

「『刀が折れたから戦えません』なんて軟弱な事を言ったら兄上や父上に殺される」

「厳しいご家族だ」

「だな、 だが折れてる・・・・程度ならまぁ良いだろう

無くなったとかなら兎も角」

「?」


首を傾げるエルカーラ。


「大分致命的だと思いますが・・・」

「リーチが短くなっただけだろ」

「だから大分致命的だと思いますよ? 近付いたら斧で腹割れますよ」

「・・・・・相打ちで良いだろ・・・・・・・

「!!」


驚愕するエルカーラ。

次の瞬間には笑みを浮かべている。


「ならば殿下の身の安全は保障出来るな!!」

「イェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!」


叫びながら突進してくるジュン。

エルカーラも構えながら向かう。

ジュンが折れた刀を振り下ろしぶん投げた!!


「っ!!」


エルカーラの脳内は全力でアクセルを踏み込み周囲のスピードが鈍化し

何とかジュンの刀を回避する!! が!!


「あ」


ジュンの拳がエルカーラの脳天にツッコんで来た!!

ジュンの投げた刀の回避に集中してエルカーラは向かって来るジュンに対して

無防備になってしまったのだった!!

正に『へぼ将棋、玉より飛車を可愛がり』※2の構図!!



※2:初心者は強い駒である飛車を大事にしすぎて

肝心の玉を寄せられてしまう場合がある。

優先順位を意識して行動しなければならないという事である。



「く、 あ・・・」


エルカーラは倒れてしまい立てなかった。

チンピラの喧嘩の拳では無い、 武人の殴り殺す拳。


「素手は未経験だった・・・だが!! 終わりだ!!」


ジュンの背後で火種が落ちる、 だがしかし

からんと落ちただけだった。


「・・・・・」


エルカーラは悟った。

本来なら有った油缶に引火して爆発する筈だった。

しかしジュンはエルカーラが火種の時限仕掛けを作動させる前に

居なくなっていた時から既にこの展開を読んでいたのだ。


「・・・騙せてなかった、 と言う事ですか・・・」


エルカーラはジュンを見上げる。

ジュンはエルカーラの両手を踏みつける。

その手には投げた折れた刀が握られていた。


「そうだな、 お前は確かに強い

何でもアリならA級決闘者でも太刀打ちできるかどうかだろう

だがこういう仕掛けに対して相手がどう出るかとか考えなかったのが不味かった」

「示現流は脳筋だと思っていたんですがね・・・」

「小手先潰せば最強なら小手先をさせない為に警戒はするだろう」

「・・・そりゃそうですね・・・罠を仕掛けずに

もっと人と向き合うべきでした・・・」

「だな、 最後に言い残す言葉は?」

「・・・・・最後にこの屋敷を燃やして下さい

全て何もかも私が未練無くこの世から去れる様に」

「あぁ、 分かった」


エルカーラの首を刎ねるジュン。

エルカーラの首が転がる。


「勝者、 ジュン」


立会人№715の言葉を無視して修練場の外に出る、 そして油缶を燃えている火種に投げ込む。

すると油に引火して爆発が起こり修練場全体が燃え広がる。

この勢いならば屋敷も直ぐに燃え尽きるだろう。

ジュンと立会人№715はその場を直ぐに立ち去った。




が、 しかしジュンは少し考えが足らなかった。

『全て何もかも私が未練無くこの世から去れる様に屋敷を燃やせ』

単体ならばまぁ分からなくもない言葉だが、 レオポルドに忠義を持っている男の

最期の台詞としては奇妙である。

普通はレオポルド殿下の助命等を願うのではないか?

即ち、 屋敷を燃やすのはフェイクである。

実態は・・・・・


「・・・・・エルカーラがやられたか・・・・・」

「・・・」


ベルクスタイン伯爵家のブリュッセルハウスが燃えるのを見るレオポルドとポニカ。

ベルクスタイン伯爵家のブリュッセルハウスにエルカーラと共に逃げて

隠し通路から逃げたのだ。

燃やす事でベルクスタイン伯爵家のブリュッセルハウスはもう調べた。

ならばもうベルクスタイン伯爵家のブリュッセルハウスは調べる必要が無い。

こうすればレオポルドとポニカを隠す事が出来るのだ。


「行くぞ」

「え、 隠れるのでは無いのですか?」

「隠れていても仕方ないだろう、 エルカーラは隠れて皆が忘れた頃に王都から出ろと言ったが

父上に言上すれば全て解決する事だ」

「エルカーラは命を賭けて私達を隠したんですよ!? それなのに」

「私の為に命を賭けるのは当然だろう」


レオポルドはポニカを連れて立ち去った。

ポニカの信じられないという顔を見ずに。

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