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再誕歴7531年マーチ26日。


ベネルクス王国首都国王直轄領ブリュッセル。

外側アウターエリア、 ブリュッセル馬車駅、 通称ブリュッセル・ターミナル。

辻馬車を始め、 定期運行馬車、 貨物馬車等、 ブリュッセルの馬車は全てここに集まる。

普段はここは多くの馬車で行きかう場所なのだが・・・


「おい!! どうなってんだよ!?」

「緊急運休!? 何で!?」

「どうするんだよ!!」


臨時的に全休となっていた。

戦時下でもない限りはこんな事は無い筈なのだが一体何が起こっているのか?


「すげぇな」

「だね」


見張りをしているメリーとシャン。


「あのブリュッセル・ターミナルがまさか閉鎖とは・・・ハイメ様は凄いな・・・」

「一体どんなコネを使ったのやら・・・」

「まぁ色々と有るのさ」


ぬっ、 と出て来たハイネ。


「ハイネ様、 何故ココに?」

「いや確認さ、 ブリュッセル・ターミナルはルクセンブルグ公爵直轄の事業

馬車駅はかなりデカい財源で更に免税されているが、 それ故に縛りも大きい

レオポルドが婚約破棄してから即座に携帯モノリスで連絡して

何とか止めて貰ったが24時間閉鎖するのが精一杯だった」

「と言う事は24時間以内に側近全員を始末しなければならないという事ですか?」

「そうなるね、 今は4時間と30分過ぎたから19時間と30分か」

「厳しいのでは?」

「EUDMOが協力しているから問題無いだろう」

「しかしポール様とジュン様の二人だけと言うのは

・・・リャク様も出された方が良いのでは?」


メリーの言葉に軽く溜息を吐くハイネ。


「彼等二人が最初に出て来たからだよ、 リャクは確かに強いがあの場面で

出ずに出口を抑えてしまった、 その判断自体は間違いでは無いが

ここぞという時の判断ミスはデカイ」

「リャク様の勘は当たると評判でしたが・・・」

「それは私も知っているが、 結果としてこうなっているのだから

私はリャクの勘は信じない方が良いと判断した、 では私は行くぞ」

「何方に?」

「各方面への根回し、 ブリュッセル・ターミナルを止めるにしても

ルクセンブルグ公爵だけに話を通せば良いという訳では無いのだよ」


そう言ってハイメは立ち去った。


「・・・・・大人しそうな顔してやり手だな」

「そうね・・・」


残されたメリーとシャンはポツりと言った。




一方その頃、 外側アウターエリアの倉庫の一室では

ポールとモモレードの殴り合いが行われていた。


「・・・・・」

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」


互いに怪我を負っており顔に青痣、 歯が2,3本無くなっていた。

しかしポールは悠然と立ち、 モモレードは焦燥していた。


「痛覚無いのかよ・・・この不感症野郎が!!」


モモレードの拳をいなしカウンターを叩き込むポール。

最初の内は互角の勝負だったが疲労も負傷のダメージを見せないポールに

焦ったモモレードの攻撃は徐々に雑になっていった。


「がはっ!!」


ふらつき始めるモモレード、 顔面に喰らい、 既にポールの顔は二重三重に見えていた。


「畜生、 何でダメージが無いんだ!!」

「・・・・・」


ただ黙ってモモレードを殴り続けるポール。

怪我をしている所を重点的に殴り続けていた。


「げふ、 がふ・・・」


血を吐き続けるモモレード、 倒れたモモレードの頭に踵落としをして頭蓋を潰した。


「勝者ポール」

「・・・・・」


立会人№266の宣言にポールはモモレードに一瞥してから倒れた。


「はぁ・・・」

「圧勝でしたね」

「何を言っている、 もう2時間は時間が経って居るだろう」

「3時間と少しですね」

「そんな時間殴り合いしていて圧勝な訳無いだろう・・・折れてはいないが

骨に罅は入っている」

「その様には見えませんが・・・」

「平気な様にしているんだよ、 茶道の基本だ」

「凄いな茶道」


息を整えるポール。


「しかしこの男、 普通に強かったな、 一端の騎士にはなれていただろうに・・・」

「確かに、 しかし残念ながら高い身体能力を活かせていないと言わざるを得ませんね」

「全くだ、 全てが我流の拳、 喧嘩殺法と言うべきか

そんな物で武術教育を受けた貴族の拳を倒せる訳はないだろうに・・・」


もしもちゃんとした教育をこの男が受けられていたらこんなヴァカげた戦いをせずに

立派な騎士となって国に仕えただろうと考えると涙が出るポールだった。


「さてと、 行くか」


ふらりと立ち上がるポール。


「一番近場の相手は?」

「ラーカーですね」

「ルクセンブルク公爵家の七男か・・・相手にとって不足無し」


倉庫から去るポールと立会人№266。

残されたモモレードの遺体からは一筋の涙がこぼれるのだった。

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