3:00

ベルクスタイン伯爵家のブリュッセルハウスに辿り着いたジュンと立会人№715。


「・・・・・」


ジュンは異様さを感じた。

庭も屋敷内も荒れているというよりも荒廃と言う言葉が似合う有様だった。

散らかっているか否かで言うと、 綺麗にされている。

しかし何も無い、 虚無である。

庭には雑草所か柵も無い、 花壇すら無い、 貴族の家でこれは異常である。

荒れて雑草だらけの方がまだ分かり易さすらある。


「この匂い・・・除草剤ですね」

「だな、 自棄やけになっているのか?

こんなに匂いがきつくなる位に撒くとは・・・」


邸内に入るジュン、 しかし内部もガランとしている。

綺麗にはなっているが何も無い、 ランプすら無い、 絨毯も無い。


「・・・・・ここに本当にエルカーラが居るのか?」

「間違い無いです」

「・・・エルカーラ!! 神妙に出て来い!!」


ジュンが叫ぶとたったったと走って来る音が聞こえる。


「申し訳無い、 今掃除中でして」


割烹着かっぽうぎ姿のエルカーラが走って来た。


「・・・・・何だその恰好は」

「掃除をしていました」

「この時に?」

「えぇ、 私はもう命運が尽きました、 それ故にもう既に諦めています」

「・・・・・だったらこんな事するなよ」


呆れるジュン。


「私もそう思いますが殿下がそう願われたので」

「レオポルド殿下を止めていればお前の命運も殿下の命運も尽きなかったと思うが」

「そうでしたね・・・・・この度は本当にご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」


エルカーラは頭を下げた。


「・・・悪いと思っているなら最初からするな」

「私はこのつらですから、 人付き合いが苦手でした

もっと要領が良ければ殿下を誘導も出来たでしょうが・・・」

「そうか、 では着替えろ」

「はい?」

「その姿では無く、 ちゃんとした格好で戦ってやる

決闘で華々しく武人として散れ」

「でしたら場所も変えて貰っても宜しいでしょうか?」

「構わない、 何処だ?」

「修練場です、 併設されてますから案内します・・・」


歩き始めるエルカーラ、 ついて行くジュンと立会人№715。


「・・・斬らないんですか?」

「立会人、 セルデン伯爵領の人間を戦闘狂の様に言うのを止めて貰おう

不誠実な輩なら兎も角、 ここまで礼節を払う人間に如何して非礼な真似が出来ようか」

「非礼なのは彼等だと思いますけどね、 婚約破棄したし」

「さっき非礼を詫びただろう、 それにこの屋敷を見ろ

行き過ぎているが綺麗に掃除されている、 既に死を覚悟しているのだろう」

「使用人も居ませんしね」

「使用人は早急に紹介状を出して辞めさせましたよ」


エルカーラが述べる。


「それは此方にも情報が入っている、 つくづく殺すのが惜しい」

「そう言って頂けると助かります」


修練場にやって来た3人。

修練場には様々な物品が置かれていた。


「・・・これは?」

「整理しようとして処分しようとしたんですが捨てられなかった物です

最期には好きだった物に囲まれて死にたいんです」

「・・・・・ランプもか?」


照明器具のランプも大量に置かれていた。


「・・・・・安心するんですよ、 あかりって

このランプは私の地元の工芸職人が作った物でして・・・末期には故郷に」

「そうか、 では着替えて来い」

「・・・はい」


着替えに出かけるエルカーラ。

ジュンは周囲の確認を行った。


「・・・・・あった」


油の缶を探して外に出すジュン。


「お待たせしました」


エルカーラは鎧姿で現れた。


「・・・・・それで良いのか?」

「卑怯とお思いか?」

「違う、 鎧程度で私の刀は止められないぞ」

「貴方の刀が逸品物だとしてもこの鎧も逸話がある代物、 負けはしません」


ジュンとエルカーラ、 互いに武器を持って睨み合った。


「そうか、 重くて動きが鈍ると思うが・・・それなら始めるか」

「では両者名乗りを」

「セルデン伯爵の十七男、 ジュン、 いざ参る!!」

「ベルクスタイン伯爵長男、 エルカーラ、 来ませい!!」


その声と同時にエルカーラは剣を投げた。

頬を掠めながらもジュンは前身しエルカーラに剣を振り下ろす。


「イェエエエエエエエエエエエエエエエ!!」

「っ!! 少しは怯め!!」


ジュンの懐に素早く入りジュンの腕を止めてエルカーラは直撃を避けた。


「退けぇ!!」

「ぐは」


ジュンに思い切り腹を蹴られ吹き飛ばされるエルカーラ。


(自力に差があるな、 だが!!)



置いてあった花瓶を投げるエルカーラ。

回避しながらエルカーラに肉薄するジュン。

ついで投げられたのは丸まったハンカチ、 投げられている内にハンカチは広がる。


「っ!!」


ハンカチの中には砂鉄が入っていた。


「目晦ましか!!」

「その通り!!」

「っ!!」


横薙ぎの攻撃に直観で刀をかざしてジュンはガードした。


ガキィン!!


「・・・・・」


放射線を描きながら折れた刃が地面に落ちる。


「卑怯とお思いか?」


エルカーラの手には片手斧が握られていた。

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