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「ハッ!! 決闘だと!? ヴァカかこの数を見ろよ!! この兵達で押せば圧勝だろ!!」


ダーロングが嘲りながら言った。


「騎士団長の息子とは思えない恥知らずな発言ですね」


ポールは蔑んだ。


「・・・・・そいつ等騎士じゃないよな? 騎士服は何処から調達した?」

「コネで手に入れた」

「騎士を用意できないあたり、 みじめだな」


ダーロングの答えに憐れむジュン。


「騎士でも何でもこの人数に勝てるか?」

「このまま数を頼っても良いが最初に来た奴は殺す、 刺し違えても殺す」


ジュンの言葉に周囲が沈んだ。

殺す、 という言葉をここまで重く出来るのかと言う声色だった。


「・・・・・言ってろ、 行け、 お前達」

「・・・・・」

「おい、 如何した? 行けよ」


ダーロングが兵隊達に声をかけるも微動だにしない。


「おい!! 何で動かないんだ!!」

「ダーロングさん、 アンタの部下じゃないからアンタの命令聞く必要無いのよ」


ナンナがダーロングを諫める。


「なっ!?」

「アリストッドを捕えられない以上、 セルデンの人間が何人も居るしここは引いた方が良いわね」

「おい、 引いた方が良いとは如何いう事だ!? 儀は此方に有る!!」


レオポルドが叫ぶ。


「そもそも逃げられると思っているのか?」


ジュンが問いかける。


「逃げられるわ」


バッ、 とセンスを拡げるナンナ。

意匠は東洋だろうか? いずれにせよこの国ともナンナとも関係が無い意匠である。

なんにせよ、 この局面で出て来たという事はただの扇子では無い。


御免仕ごめんつかまつる!!」


ジュンは即座にアリストッドを抱えて飛び、 ポールはアリストッドとナンナの間に割って入る。

ナンナが扇子を振うと地面がまるで水面の様に波立、 ポールを飲み込んだ。

続いてナンナはホールの壁に向かって扇子を振うと壁はミルククラウン※1 の様に

波立、 穴が開いた、 ナンナと兵達はその穴から逃げ去った。



※1:若干の粘性を持つ液体が満ちた容器にその液体を一滴落とすと美しい王冠状の形を形成する現象。



「っ、 おい待て!! ナンナ!!」


ナンナを追いかけるレオポルドとポニカ、 そして側近達。






「アリストッド様、 お怪我は?」

「問題無い、 それよりもさっき埋まった彼を!!」


ジュンがアリストッドに問い、 アリストッドはポールの救出を指示した。

波に埋まったポールは幸いにも直ぐに掘り起こす事が出来、 特に怪我は無かった。

卒業パーティは騒然となったが、 それぞれの門閥同士で集まって

何とか秩序を保つ事が出来た。


「この中で年齢と家格を考慮して私が指示を出します」


ハウバリン公爵門閥の者達を集めて【旗国50家】のハートレス侯爵の長子ハイメが皆に問う。


「貴方ならば異論有りません」

「私もだ」


レーラレラとリャクは賛同する。


「次期当主と名高い貴方ならば異論は有りませんわ、 しかしながらハイメさん

貴方は父上との交信手段を持っているのでは?」


アリストッドは尋ねた。


「えぇ、 携帯用通信モノリスを」

「父上は何と?」

「『レオポルド王子にケジメを付けさせろ』と」

「なるほど、 父上らしい」

「ではまず公爵令嬢殿にはこのまま公爵家の緊急避難先セーフハウスにて待機をして貰います

護衛はリャク君を付けましょう、 リャク君、 連れていきたい人は居ますか?」

「ではアンポールを」

「分かりました、 では次にジュン君とポール君

貴方達二人はレオポルドの側近7人を始末して来て下さい」

「え? ジュンとポールに行かせるのですか?」


リャクが驚く。


「あの場で直ぐに動けたのは彼等二人だけですからね」

「確かにそうですが、 ナンナの隠し玉が無ければジャンだけで充分でした」

「隠し玉が有ったから問題なんでしょう」

「はい・・・逃がさないように出口を塞ぐのではなく私も出るべきでした」


反省するリャク。


「あのぉー失礼しますぅー」

「?」


現れたのは二人の立会人だった。


「決闘立会人? 何故ここに?」

「先程、 ベネルクス93世陛下からの報せが有りまして

特例での決闘が認められました」

「特例での決闘? 何ですかそれは?」

「レオポルド殿下、 以下側近7人に対して決闘を申し込む場合は

彼等の意志とは無関係に決闘を行えるという特例です

当然ながら我々EUDMOが全力で決闘迄のお膳立てをします」

「・・・・・?」


みょうちくりんな提案である。

意図が読めない。

EUDMOがお膳立てをするのならば確実に決闘は行える。

決闘を行えば勝てるだろう。

だが態々名言する理由とは?


「端的に言って陛下はブチギレているという事です」

「なるほど、 端的に分かり易い・・・ならポール君、 ジュン君

お膳立てが出来ているというのならば決闘で7人を倒してレオポルド殿下を引き摺り出しなさい」

「真っ先に殿下を叩くと言うのは?」

「いやポール君、 それだとナンナの様な隠し玉が他に居た時に邪魔されるかもしれない」

「なるほど」

「始末しても良いですか?」

「聞くまでも無いだろうジュン君」


こうして【レオポルド王子人生最悪の24時間】は始まるのだった。

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