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再誕歴7531年マーチ25日。


ベネルクス王国首都国王直轄領ブリュッセル。

内側インナーエリア、 ベネルクス王立学園。

学園内併設の大ホールにて王立学園の卒業パーティが行われていた。


「卒業パーティと言っても卒業生だけでは無いんだな」


スクイドが隅っこでくっちゃくっちゃと食事をしながら呟いた。

卒業パーティには卒業生だけでは無く在校生、 生徒の父兄も参加している。


「卒業生を送り出すパーティなのに卒業生だけでは問題があるでしょう

それよりスクイドさん、 呑んでいるんですか?」


キュレイが尋ねる。


「こう見えて成人は迎えているぞ?」

「いや、 そうでは無く、 何か起こるかもしれないじゃないですか?」

「既に起こっているだろう・・・」


溜息を吐くスクイド。

パーティでは通常ペアでのダンスが行われる。

ペアの相手は婚約者など近しい間柄が選ばれる。

アリストッドの相手は当然ながらレオポルドだが・・・


「まさかの欠席とはな」

「何を考えているのやら・・・」


ぐいーっとグラスを傾けるスクイド。


「呑み過ぎでは?」

「呑みたくもなるわ、 ハウバリン公爵が土壇場でケチって

想定よりも規模が小さくなる」

「規模? スクイドさんが以前から提唱していた【賭博都市理論】ですか?」

「そう、 賭博区画になりそうな規模の縮小だよ」

「そりゃあ仕方ないでしょう、 賭博で街の経営が成り立つのですか?

私にはそんな不道徳で街が成り立つ訳無いと思うのですが」

悪徳ヴァイスファンドとノリは同じだ」

「何ですか、 それ?」

「煙草、 酒、 カジノに積極的に投資するファンドだよ

何だかんだ言っても投資先として鉄板なんだよ」

「そうなんですかねぇ・・・」

「お前さん、 あんまり理解できてないな?

【賭博都市理論】が成立できればカジノ街を作って産業に出来る

つまり何処でも金とノウハウが有れば観光地を作れるって訳だ

ひょっとしたら砂漠にもカジノ街が建てられるかもしれないぞ」

「そんなヴァカな・・・カジノも良いですが、 目の前の問題ですよ」

「アリストッド嬢に特になんも言われてないからな、 今日は呑む」

「そうですか・・・」


溜息を吐くキュレイ。

この前の集まりから皆の空気が腑抜けていると感じるのは自分だけだろうか。


「キュレイ様」


キュレイの騎士であるカスムンドがやって来た。


「カスムンド、 どうだ? 様子は?」

「平凡過ぎる程平凡ですね、 警備の数が少ないようですが・・・」

「それは慣例らしいぞ」

「そうですか・・・あまり感心出来ませんね」

「私も同意だが卒業パーティの気分を削ぎたく無いんだろう」

「そうですか・・・しかし平和そのものですね」

「だな、 セルデン伯爵のリャク氏ものんきに飲んで

踊っている奴も居る」

「アレは・・・メリーとシャン? シャンはてっきりジュン氏と出来ているかと」

「彼は張りつめているな・・・警戒をしている様だ」

「楽しむ事に腐心しているんですかね」

「まぁ私の方が少数派だろうな・・・すまないな、 折角の卒業パーティなのに」

「いえいえ、 キュレイ様はご立派です

私の様な平民を騎士に取り立てて頂き、 子々孫々、 永の忠誠を誓います」

「ありがとう、 君の様な忠臣を持てて私も嬉しいよ」


画して呑んだり踊ったり警戒したり様々に過ごしていた。

そしてそろそろパーティもお開きか、 と思った時にレオポルド達がやって来た。

ぞろぞろと側近と兵隊を引き連れて。


「アリストッド!! お前との婚約を破棄する!!」


アリストッドは意味が分からなくて呆気に取られた。

当然ながら周囲の者達も『なにいってんだこいつ』と呆然とした。


「ハウバリン公爵家が行っている不正を私は看過する事が出来ない!!」


更なる言葉で理解不能は加速した。

それならば裁判所か警邏に言うべきでは無いのか?

あまりにも唐突過ぎる言葉に皆固まった。


「王家の名において捕縛しろ!!」


兵隊たちがアリストッドに触れるか触れないかの瞬間に

兵隊の顔面にテーブルが投げ込まれた。


「げば」


兵隊の顔面は砕け、 更に二つの人影が現れた。


「アリストッド様、 御無事で」


兵隊から剣を抜き取りながらジュンが尋ねる。

指で合図を送りながら起き上がろうとする兵隊を蹴り飛ばすポール。


「え、 えぇ・・・」

「貴様等!! 何をしているのか分かっべふ!?」


顔面に白手袋をポールとジュンに投げられるレオポルド。


「何をするんだ!!」

「決闘をするんだよ!!」

「はぁ!? 何言ってんだ!?」

「何を言っているかは貴様の方だ!!」

「ジュンさん、 レオポルド殿下はどうやら白手袋を投げられる意味が分かっていない様だ

ヴァカだから」

「何だと!?」


ポールの言葉に激昂するレオポルド。


「あぁ、 なるほど、 そうだな、 コイツがヴァカだと忘れていたよ」

「何だと!? 貴様等ふざけているのか!!」

「「こっちの台詞だ大ヴァカ野郎」」


シンクロするジュンとポール。


「・・・白手袋を投げると言う行為は決闘の申し込みと言う事

古風だけど正当な作法ね、 つまり貴方達は殿下に決闘を申し込もうと言うの?」


ナンナが尋ねた。


「これ以上の恥を重ねる前に死んでおいた方が殿下の為だ」


ポールが断言した。


「公爵家のお姫様を侮辱したら門閥貴族に殺されるのは当然だよなぁ!?」


ジュンが剣を振り上げた。

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