フォー・ザット・レーゾン・アローン

「決闘ですか? 如何言った理由で?」


フェザーが訝し気に尋ねる。


「武人が決闘に理由が居るのか?「要ります、 法治社会ですので」


食い気味に喋るフェザー。


「そもそもの話、 貴方は何方様?」

「セルデン侯爵が長子!! ジョン!!」

「左様ですか、 それでどの様な理由で決闘を?」

「たかが執事如きに剣を止められるのは武人の名折れ

恥を雪がせて貰おう」

「それだけの理由で決闘を?」

「命を賭けるに値する理由だ、 名誉は命よりも重い」

「・・・・・」


サンをちらりと見るフェザー。


「構わないわ、 やっちゃいなさい」

「では役所に行きましょうか」

「そうだな」


読者諸賢にとっては首を傾げるかもしれないが

決闘法が施行されてから早2000年弱、 当初は制度としてあやふやだったが

キチンと法として整備されており、 好き勝手に決闘を行えない様になっている。

EUDMOが適切と判断すれば手続きの簡略化等出来るが

基本的な法として、 決闘には決闘の手続きを役所に併設された

EUDMOの出張所に受理させる必要が有る。


画して役所にて決闘の手続き書を書くジョンとフェザー。


「・・・こんなに書く事多いのか?」


手続き書を見て困惑するジョン。


「手続き書のテンプレートは地方地方で異なっていますから」

「まぁそうだが・・・」

「ジョンさん、 名前書く欄間違ってます、 そこハンコ押す所です」

「実印持って来ていて良かった※1」



※1:署名の代わりとして判子が用いられたのは支配階級の識字率の低さが原因である為

識字率が上がった昨今では実印無しの書類も珍しくなくなった。

とは言え忘れた頃に実印が必要な書類はやって来るので実印は懐に入れても問題無いだろう。



「・・・・・ちょっと待て、 色々とおかしい」

「何がです?」

「決闘のルールだ」


決闘には当然ながらルールがある。

ルールに沿った決闘を行うの決闘を行う者の義務である。

決闘には様々なルールがある。


「デスマッチ※2 が無い」



※2:敵の死、 のみが勝利方法と言う最初期から存在する乱暴なルール。

死んだ相手の首を刎ねて、 首級として持ち帰り飾ると言う古い伝統から

トロフィーという別称もある。

現在は廃れたルールで採用している領地も稀。

両者の合意が有っても決闘の許可を下ろさない地域もある。



「当たり前でしょ、 今の時代そんな事する馬鹿は居ないわ

大人しく選択肢から選びなさい」


サンが促す。


「選択肢か、 ポイント※3 にフォール※4 にダウン※5

軟弱としか言いようがない」



※3:決闘のルールの1つ。

既定の回数相手に攻撃を入れる若しくは相手を意識不明か降伏させる事が勝利条件のルール。


※4:決闘のルールの1つ。

相手の武器を落とす事がが勝利条件のルール。

その為、 徒手空拳での決闘には使用出来ないルール。


※5:決闘のルールの1つ。

相手を物理的に倒す事が勝利条件のルール。

相撲と酷似している事からスモースタイルとも呼ばれる。



「いやいや、 デスマッチが至高と言う人は多いですが

他のルールにもデスマッチとは違う戦略が有りますし」

「戦略か・・・!」


ここでジョン、 本来の目的を思い出す。


「萎えるわ」

「じゃあ止めます?」

「いやいや、 モチベーションの問題だ

そうだな、 俺が勝ったらサンを娶らせて貰おう」


どさくさに紛れてサンを娶ろうとするジョン。


「本格的に狂気を感じますね、 何で私と貴方の決闘に御嬢様が出て来るのか・・・」

「・・・・・別に良いわよ」


フェザーの言葉に割って入るサン。


「正気ですか?」

「二人の男が私を求めて決闘する、 女冥利に尽きる※6 わ」



※6:その立場における最高に幸せな気持ちであること。



「えー、 ちょっと引きますね」

「うるさい、 それにどうせアンタの勝ちでしょ」

「まぁ、 勝負の世界に絶対は無いですが・・・」

「自信過剰だな」

「そうですか? 失礼ですがさっきの一合で実力の差は明らかでしょう」

「・・・・・そうでもない、 良いだろう

俺が勝ったらサンは貰う、 ルールはポイント、 3点先取」

「OKです」

「次は武器のルールだな・・・見せ合い1※7 で良いか?」



※7:見せ合いとは決闘が始まる前にこの武器を使うと言う宣言。

見せた武器以外の武器の使用はポイント制なら敵にポイント1加点。

フォール、 ダウンなら即時敗北。

但し靴等の衣服での攻撃は認められる、 しかしあまり褒められた物ではない。

1は使用武器の個数、 この数が複数ならば複数個武器を持ち込める。

尚、 今回はフォールルールでは無いので武器を使わないと言う事も認められる。



「OKです」

「次は場所か」

「あ、 ベルモンド伯爵領での決闘場所は用意されている

そこでやるのがルールだ」

「ふむ・・・」


決闘を行う時に決める物はルールと決闘を行う場所、 そして決闘を行う時間である。


「決闘を行う日付は4日後以降?」

「えぇ、 ベルモンド伯爵領ルールだとそう決められている」


サンの言葉に首を傾げるジョン。

決闘のルールで日時指定でこの日は祝日だから駄目、 とかは有るが

こんな形の指定をする所は余り無い。


「何故?」

「決闘場所の清掃と頭を冷やす為のクールダウン期間

4日経ってまだ決闘がしたいのならばやろう、 と言う事よ」

「・・・じゃあ5日後の1時で」

「フェザーもそれで良い?」

「OKです」

「じゃあジョン、 これも書いて」


サンがジョンの前に更に2枚の用紙と封筒を置く。


「何だコレ?」

「決闘の理由を書く紙と遺書」

「遺書ぉ?」

「当たり前じゃないデスマッチじゃなくても万が一死ぬ事は有るんだから」

「ハッ、 武人を舐めるな、 常に遺書は用意してある4枚」

「4枚?」

「自分用、 家族用、 鑑賞用、 保存用」

「・・・・・うん、 まぁ覚悟は決まっているのは良い事ね」


画して全ての用紙を準備したジョンとフェザーは役所内のEUDMOの出張所に書類を提出した。


「『執事如きに剣を止められるのは武人の名折れで恥を雪ぐ為』ですか」


EUDMOから派遣されている立会人№707はマジマジと内容を見つめていた。


「最近無い理由ですねぇ」

「悪いか?」

「あ、 別に悪い理由じゃないですよ

男の決闘はこれ位の理由が良いと私は思っています

当日の決闘は私が立会人を務めさせて頂きますのでよろしくお願いします」


ぺこりと挨拶する立会人№707。


「しかしながら、 アンタ、 ベルモンド伯爵領の決闘の手続きもしているのか?」

「え?」

「あぁ、 ジョンさん、 違いますよ、 立会人は皆こういう感じなんです」

「スーツ、 白い肌、 黒髪ロング、 紅眼、 高身長女は制服みたいな物です」

「どんな制服だよ・・・」


頭を抱えるジョンだった。

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