スペシャルランク・グリーンティー・アドベント

再誕歴7700年ノーベンバー27日。


ベルモンド伯爵邸3階ベルモンド伯爵の執務室。

ベルモンド伯爵は自分の椅子に座る。

机を挟んでフェザーとサン、 そしてキャタラとピラ。

フローラ、 アンテイア、 クローリス、 マルガレーテが並んでいた。


「役所から連絡は来たから大体の事情は知って居る、 が決闘の前に一言欲しかった」

「それは申し訳ありませんでした父上

ですが挑発されたのです誇りの為にも決闘を受けましょう」

「そうだな・・・最近はジョンの弟のジャンが何やら悪だくみをしているようだから牽制になるだろう

フェザー、 殺さない程度に力を見せつけてやれ」

「了解しました、 所で何だか人が多く無いですか?」

「それか・・・まぁ私も色々と考えている訳だよ」

「?」


首を傾げるフェザー。


「我が家の誇りを守ってくれる者に対して何もしないと言うのも罰が悪い

それ故にだな、 その・・・何だ・・・私の口はよう言えん

マルガレーテ、 言ってやれ」

「あれですよ、 この地方に伝わる女を突くとツキが上がるって言う

言い伝え? 習わし? があるんですよ」

「女を突く?※1」



※1:言わせんな恥ずかしい



「えぇ、 まぁ言って見れば女と一晩を共にするって奴ですね

ここに居る女達は貴方と一晩を共にしても良いかなぁって思っています、 私を含めて

キャタラさんは付き添いです」

「・・・・・うーん、 何をするか分かってここにいるんですか?」

「【女性が言ってはいけない単語】ですよね!!」


ぺしり、 と叫んだフローラの両サイドに居たメイド二人が額を叩く。


「私としても君は凄い男だし、 そういう男の子供が生まれるのは良いと思う」

「伯爵、 優生学※2は今時流行りませんよ」



※2:凄い人間は生まれから凄く、 生まれた子も凄いと言う考え方。



「そもそも、 私はショートカットは好きじゃない

髪型じゃなくて、 もう少し段階を踏んだ方が良いでしょう」

「私の娘が気に食わんと言うのか!!」


ダン、 と机を叩くベルモンド。


「そうじゃないんですよ、 そもそも『女を突くとツキが上がる』と言う事ならば

尚更断らないといけない状況なんですよ」

「ツキが上がると不味いのか? ツキとは運の事だぞ?

運が良くなるのは良いんじゃないのか?」

「私はS級決闘者の腕前を持つんですよ、 失礼ながら貴族の子弟

武家の家柄であっても腕に差があり過ぎる

勝ちは確定的に明らか、 そこに運が追加されればやり過ぎて殺してしまう」

「・・・・・」


ちらり、 とサンを見るベルモンド。


『完璧な理論武装だ、 最早どうにもならん』

『女を突くとツキが上がる、 と言うのは無理がありましたかね』


サンとベルモンドはアイコンタクトで会話を始めた。※3



※3:ベルモンド伯爵家に伝わる目線のみの会話手法

他の貴族でもこういう暗号符丁は存在する。 



『だから私の命令でお前を抱かせればよかったんだ』

『いや、 それは流石に私のプライドが許さない』

『妙なプライドを持ちおって・・・』


『女を突くとツキが上がる』と言うのは半ばでっち上げである。

そういう風習は有るがほぼ有名無実化している。

今回のこの集まりはフェザーしゅきしゅき状態のサンが

合法的にキャッキャウフフ出来る口実作りでもある。

態々フェザーに好意を持って居る面々を入れたのは

フェザーが自分を選んで欲しいと言うサンのプライドだった。


「ん-・・・だがこのままと言うのもバツが悪い

何か欲しい物とかないか?」


話題を逸らすベルモンド。


「それだったら宇治の特級茶を一杯」

「!!?」


フェザーの言葉に驚愕し目を見開くベルモンド。


「特級!? ば、 馬鹿な実在するのか!?」


驚愕するキャタラ。


「・・・何故この家に宇治の特級茶が有ると知って居る」


真剣な表情になるベルモンド。


「4階から凄い圧を感じます」

「この圧を感じられるのか・・・」


瞑目するベルモンド。


「あのー・・・うじのとっきゅうちゃって何です?」


空気に耐えられずにフローラが尋ねる。


「宇治と言うのは地名だ、 日本の茶の名産地、 そして特級茶と言うのは

茶葉の等級だ、 特級は一番良い茶葉だ」

「え、 じゃあ私達お茶1杯に負けてると!?」

「1杯に数万ユーロ※4 だとしてもか?」



※4:ヨーロッパ連合の通貨単位。

1ユーロは大体レートの変動もあるが100円程である。



「お茶一杯に!?」

「あぁ、 だからこそ秘匿していたのだが・・・まさか茶圧※5を感じられるとは」



※5:お茶が発する力場の圧の事。

茶道の心得が無い者には感知出来ない。



「世話になった人に何度かお茶を御馳走になりまして」

「・・・・・」


ベルモンドは茶を飲んだだけで茶道の心を知ったのかとフェザーを再評価した、 だが。


「だがしかし、 お前は特級を味わった事が無いだろう」

「えぇ、 まだ早い、 と」

「止めて置け、 死ぬぞ」

「覚悟の上です」

「いや、 お茶を飲むだけで死ぬ訳無いでしょ」


ぺしり、 とフローラの両サイドに居たメイド二人が額を叩く。


「良いだろう!! フェザーよ、 お前はまだ若い!!

お前の無謀を茶道ファイブ・マスターである私が受けてたとう!!」

「ありがとうございます」


ぺこりと頭を下げるフェザー。


「ちょっと待った」


そこに待ったをかけるキャタラ。


「ここで特級茶葉で茶を点てるのは危険でしょう」

「安心したまえ、 4階は茶室になっている

特級茶葉にも耐えられる様に宮大工にも施工して貰った」

「・・・・・大丈夫ですね?」

「くどい」






画して4階の入り口にやって来た一同。

入口の鍵を開けるベルモンド。


「ここからは付いて来れる物だけ付いて来い」

「いや、 お茶を飲むだけでこんな」


ぺしり、 とフローラの両サイドに居たメイド二人が額を叩く。


「フローラよ、 これを見てから言うのだな」


ベルモンドが入口のドアを開けた。

瞬間、 まるで森の中に迷い込んだかの様な感覚に襲われる。


「こ、 これは!?」

「特級茶葉の香り・・・!? 馬鹿な・・・」

「う、 うぅ・・・」


ばたりと倒れるピラ。


「くっ、 耐えられなかったか!! 外の空気吸わせて来る!!」


ピラを抱えてキャタラが避難する。


「階層を跨いでもこの圧倒的な香り・・・!! これが特級・・・!!」

「名物※6 と名高い 二十茄子※7 に入れているのにこの香りよ、 お前に特級が飲めるか?」



※6:茶道具においては格付けの一種類。

茶道のマスター階位で無ければ購入所か見る事すら不可能とされ

特級茶葉で茶を点てる際には名物以上の茶道具で無ければ茶圧に耐え兼ね

木端微塵になってしまう。


※7:天下三茄子と謳われる最大名物級茶器の一つ九十九髪茄子を作る迄に作られた九十八の習作の一つ。

二十番目に作られた作品だがそれでも並の茶器とは一線を隔する。



「飲みましょう」

「ならば付いて来い」


ベルモンドが階段を上がる、 フェザーも後に続く。


「う!?」


クローリスが後に続こうとするも異変に気が付く。


「ど、 どうしたの?」

「す、 進めない・・・」

「え・・・」


クローリスが前に進もうとしてもまるで動かない。


「お父様が言っていた特級茶葉の茶圧と言う事ね」


サンがクローリスの横を通ろうとする、 まるで鉛の海を横切るかの様な重圧を感じる。


「お、 お嬢様・・・大丈夫ですか?」

「これも経験よ・・・行ってみる!!」


サンが階段を上る。


「ぐ、 ぐっ!!」


階段を上る度にまるで万力で押し潰されるような感覚を味わうサン。


「お嬢様!! 危険です!! 帰って来て下さい!!」


マルガレーテが叫ぶ。


「・・・・・すぅー、 はぁー・・・」


息を一息するサン。


「たかが圧!! 乗り切れずにどうするか!! たあああああああああああああああ!!!」


全力で階段を上るサンだった。






サンの叫び声を後ろに聞きながら登るフェザーとベルモンド。


「愚女※8 がすまんな」



※8:娘をへりくだっていう言葉。



「いえ」

「まぁこんな事を言うのもなんだが、 どうだサンとは上手くやっていけてるか?」

「最初は少し苦手でしたが慣れて来ましたよ」

「そうか・・・」


階段を上る二人。


「正直な話、 サンに御付きを付けるのは5度目なんだ」

「あのメイド3人娘は?」

「彼女等は・・・まぁここを追い出されたら行く所が無いからな

結構長い事やってくれているよ」

「?」

「ところで君は娘の事を如何思っている?」

「確かに性格は少し変ですがそれも個性ですよ」

「そうじゃなくて女性として如何かと言う話だよ」

「女性として?」

「S級決闘者ならば貴族令嬢の嫁を貰っても可笑しく無いだろう?」

「まだ結婚とか考えてませんから」

「そうか、 娘と交際するのならば私は喜んで許可するぞ」

「御冗談を」

「・・・・・」


これは娘の恋路は険しそうだな、 と思うベルモンドだった。


「さてと、 着いたぞ」


4階に辿り着いた二人。


「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」


サンも後からやって来た。


「大丈夫ですか?」

「平気よ・・・・・!?」


4階は宮大工が作った階層、 その階層のど真ん中に庵※9 。



※9:質素な佇まいの小屋を指す言葉だが”サウザンドマスター”利休が茶の席に庵を多用した事から

茶を点てる小屋と言う意味合いが強くなっている。



「これは・・・この庵は・・・!?」

「感じるか、 この圧力・・・この庵は彼の大茶人利休その人が建てた庵だ」

「な、 なんと!?」

「嘗て利休は”豊国大明神”秀吉に迫害された際に大量に庵を建築し上空に射出し

風に乗って世界中に飛ばして3階を建て終わり、 4階建築中のこの邸に辿り着いた

と言う事だ」


庵は普通の建築物よりも素材を使わないから軽量である。

そこまで計算に入れているとは恐るべし利休!!


「なるほど・・・この庵ならば特級茶葉にも耐えられる・・・」

「そう言う事だ、 それでは中に入ろう」


フェザーとベルモンドは庵の中に進む。


「はぁ・・・はぁ・・・」


ふるふると震えるサン。


「この私が・・・あの庵に完全に屈服していると!?」


前に進めない、 利休が作りし庵の圧倒的侘び寂び※10 の前に屈服している!!



※10:解説するには筆者の語彙が足りない。



「はぁ・・・はぁ・・・」


必死に前に進もうとするが動けないサンであった。





庵の中の二人は圧倒的侘び寂びに包まれていた。


「・・・・・」

「・・・・・」


特級茶葉が入っている二十茄子を前にする二人。

例えるならばドラゴンの前に立って炎を吹きかけられている状態に等しい。

彼等の身体は茶葉に含まれるカテキンにより完全に殺菌されている。


「覚悟は良いか?」

「勿論です」


二十茄子を開けるベルモンド。

瞬間、 緑の宇宙が展開される。

フェザーの脳内に叩き込まれるカテキン、 カフェイン、 テアニン、 ビタミン、 ミネラル

まさに脳内に流星群が叩き込まれるかの如く。


「はぁ・・・はぁ・・・」

「流石、 と言う所か・・・」


ベルモンドも辛い、 しかしながら茶道ファイブマスター、 情けない姿は見せない。

因みに庵により特級茶葉の効力は庵内に留まっているので庵の外のサンには害は無かった。


「それでは行くぞ」


ここからが本番である。

特級茶葉粉末を茶碗に入れる、 そして超高温の熱湯を湧かす。

水は湧き水を使用している、 特級茶葉の傍に置いてある為、 劣化どころか寧ろ新鮮になっている。


「・・・・・」


茶釜に水を注ぎ火を付ける。

特級茶葉は100℃では融解しない。

その為茶道マスターの技術と茶釜のパワーにより水の沸点を超えた温度まで湯を沸かすのだ。

その温度、 軽く500℃を越す、 茶道、 恐るべし。

そして茶碗に湯を注ぐ、 そして茶筅で茶をかき混ぜる。

特級茶葉を混ぜるとなるとその重量は計り知れない、 感覚的にはまるで岩をかき混ぜている感触である。

しかしながら茶道マスター階位ともなるとこの程度の事は簡単に出来る


訳が無い、 まるでフルマラソンを走り切るが如き苦行!!

だがしかしその辛さを見せない!! 何と言う奥ゆかしさか!! まさに侘び寂び!!

出来上がったお茶をフェザーに渡すベルモンド。


「お点前ちょうだいいたします」


御辞儀の後に右手で茶碗を取り左手の上に乗せる

茶碗を90度ほど回し正面を避けてお茶を飲む。

先程混ぜた事により熱も逃げて温度は下がった、 とは言え100℃前後である。

その状態でもきちんと礼儀作法が出来るとは・・・


「素晴らしい・・・」


思わず感嘆の声を挙げるベルモンド。

そしてフェザーは最後の一口では、泡を残さず飲み切る。

完全な茶道の作法に沿っている。

飲み終わった後に茶碗を畳の上に置き、 低い位置から鑑賞する事も忘れない。


「・・・・・」


体の中で特級茶葉の成分が染み渡る。

体の中で宇宙が構築され崩壊するまでの超体験がフェザーを襲う。

通常の人間ならば自我が崩壊するがフェザーは茶を満喫したのだった。


「大変美味しゅうございました」

「特級茶葉を飲み干すか・・・見事!!」

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