アバブ・ザ・クラウド

再誕歴7700年マーチ10日。


スペイン帝国国王フェリペ2世は自身の居城の執務室にある通信モノリス※1 の前で脂汗を流している。



※1:モノリスとは謎の素材で出来た謎の長方体。

モノリスに魔術的技巧で様々な効果を付与できる。



「オジカンデス」


彼の傍には秘書のイザヨイが片言で喋る。

黒い髪がエキゾチックな女性である。

明らかにスペイン人では無い。


「ちぃ・・・」


苦々しそうにイザヨイと共に通信モノリスに手を乗せる。

フェリペ2世とイザヨイの意識は空を超え、 雲の上を行き、 星の海に入った。

足元には地球、 通信モノリスの通信ルームに入ったのだ。



>>スペイン帝国国王フェリペ2世 さんが入室しました

>>スペイン帝国国王秘書イザヨイ さんが入室しました



通信ルーム内に居た面々がフェリペ2世とイザヨイを見た。

この通信ルームは通信モノリスを通じて意識だけ入室する事が出来る空間である。


「スペイン国王よ

先日我が国に落としたICBCは一体如何言うつもりか説明願おうか」


ベネルクス王国、 女王ベネルクス95世が尋ねる。

まだまだ少女だが王としての風格がある。


「誠に申し訳無い、 我が国の将軍が勝手にやった事だ

直ぐに将軍は処刑して貴国には御詫びを申し上げたい」

「ふざけないで頂こう」


ベネルクス王国、 ハウバリン公爵、 ベルモンド伯爵は彼の門閥に属する。


「我が盟友たるベルモンド伯爵領を攻撃して申し訳が無い?

そもそもこの40年でICBCがどれだけ誤発射され、 その度に将軍が処刑された?

貴方の言い分には何一つ信憑性が無い」

「そのとーりそのとーり、 貴方は在任中既に4回バンカロータ※2 している」



※2:破産の事である。

フェリペ2世の名誉の為に言うと、 最初の破産は相続した借金であり。

残りの3回は真面目に宗教弾圧していたら金が無くなったのである。



「我がヨーロッパ連合も看過できませんよぉ」


ヨーロッパ連合議長、 リヒャルト・クーデンホーフ=カレルギーがねちっこい口調で言う。


「・・・・・」

「バイショウキンヲシハライマス」


イザヨイが無機質な声を発する。


「またこの流れですか」


溜息を吐くリヒャルト。


「相変わらず金で解決ですか、 だから破産するんだよ」

「・・・・・」


ギリッ、 と歯軋りをするフェリペ2世。


「詳しい事は直接会って詰めましょうか、 それでは解散」



>>ベネルクス王国ハウバリン公爵 が退室しました。

>>スペイン帝国国王フェリペ2世 さんが退室しました

>>スペイン帝国国王秘書イザヨイ さんが退室しました



「ジャアフェリペ『さん』ホンシャニバイショウキンヲツケトキマスネ」

「ぐっ!! ぐっ!!」


必死に怒りを堪えているフェリペ2世。

何故こんな事になっているのだろうか?

苛烈な宗教弾圧による財政の悪化が最たる原因だろう

フェリペ2世は旧派※3 を信仰し

血の純潔規定と言う極めて厳しい※4 規定に乗っ取った弾圧を行った

人心が離れ、 国民自体が逃げるか殺されるかされたので国民が減った事で国力が低下。

だがこれだけならばまだ救いは有った。

アメリカ大陸から銀の採掘ビジネス、 これにより莫大な富を得ていたのだが

銀が増えすぎた為、 銀の価値が暴落、 銀本位制※5 を取っていた為インフレが加速。

貴族達地主階級は超々期間の土地の賃貸収入により利益を得ていた。

この賃貸収入の譜面通りの金額を支払っていた。

当然インフレなのでお金の価値は下がっているのに額は変わらないので貴族達の収入は減り

貴族達の影響力が下がった、 代わって台頭してきたのは外国の商人たちである。



※3:聖人クライストを崇める宗派の一つ。


※4:先祖、 親類に旧派以外の信徒が居たら死刑。


※5:貨幣価値の基準を銀にする事。



この何処かから来た商人達は狡猾だった。

人材不足、 財政難に漬け込み、 爵位を買い漁り

貴族の家を乗っ取り、 太陽が沈まない国と呼ばれたスペインは既にフェリペ2世の手から離れて

イザヨイが所属する『商会』に半ば乗っ取られている。

ICBCを定期的に勝手に発射し、 ヨーロッパに着弾する度にフェリペ2世が

選んだ将軍は責任を負わされ殺され『商会』からの借金が増えると言う悪循環に陥っていた。


「精々好きに国を乗っ取ったと思い込んでおれ!!」


イザヨイが通信モノリスを持って去った後にFワードを口にしながらそう言った。


「銀の価値さえ・・・銀の価値さえ上がれば全ては元通りだ!!

再び太陽は登る!! ご先祖様にも面目が立つ!! ハプスブルグ家※6 の栄光を取り戻せる!!」



※6:フェリペ2世の家系、 顎が特徴的。



銀の価値が上がれば全ては元通りなのか?

それは難しい所だ、 国力が減っている上に既に『商会』に

国の半分以上の貴族の家は爵位を持っていかれているのだ。

まともな神経ならばもう詰んでいると分かるだろう。

加えて国に有る全ての通信モノリスは『商会』に握られている。

入ってくる情報の真偽が分からない。

いやそもそも真偽すら『商会』が決めていると言って良い。※7



※7:血の純潔規定には国民全員引っかかるので

『商会』の手下の戸籍偽造屋に頼まないと異端審問官に殺されてしまう。



そもそもフェリペ2世はどの様にして銀の価値を上げようとしているのか?

余りにも冒涜的な企みである為に皆さんには心の準備をしておいて頂きたい。













よろしいだろうか?

それではフェリペ2世の企みをここに記そう。








フェリペ2世の企み、 それは銀の主な産出地であるアメリカ大陸の物理的な破壊である。

ジース!! コロンブスが卵を叩き壊した逸話的発想※8!!



※8:”コンキスタドール”コロンブスが貴族達のパーティで馬鹿にされた際に

卵を叩き潰した、 貴族達は困惑しながらもコロンブスが言わんとしていることを理解した。

この事から物事は暴力で解決出来ると言う意味。



彼は怪しげな団体【VVV団】に多額の資金を投資し

アメリカ大陸を破壊すると言う野望に憑りつかれている!!

最早狂気の沙汰である!!


「ふっーふっー!! スペインを滅ぼすのは神の敵!! つまりアメリカは敵!!

VVVと出会えた事は神の思し召し!!※9」



※9:思うの尊敬語である思し召すの名詞形。



興奮を冷ます為に暫く身勝手な言葉を吐くフェリペだった。





しかしながら勘のいい読者諸賢はもう既に違和感を感じているだろう!!

『アメリカ大陸を物理的に壊したがるようなヴァカな奴が地球上に2人も居るかよ!!』と!!

読者の方々の疑問は正しい!!




>>IZAYOI さんが入室しました

>>VVV-BOSS さんが入室しました


「ハロー」

「お疲れ様ですー」


ジース!! フェリペ2世を窮地に追い込んでいる者と

フェリペ2世を助けようとしている者がグルになっているとは!!

まさに泣き面に鉢※10 !!



※10:泣いている時に鉢を投げられる。

普通に考えれば酷い目に遭った時に更に酷い目に遭わされると言う意味だが

鉢を売った金でチャンスを得ると言う隠しメッセージもある。



メキシコ帝国は『商会』とVVV団に食い物にされようとしている!!

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