リバーサイド・オン・ザ・二―

河原にて起き上がるフェザー「おやっさん!! すいっませんでしたぁ!!」

そして即座に対岸に土下寝※1 をした。



※1:ナイジェリアの謝罪方法。

相手の前で俯せになる事で殺されても構わないと言う意思表示である。



対岸で一人の男が立っている彼はシンゲツ・バロッグ。

決闘代行業【ブラック・シンゲツ・コーポレーション】の前身

【ブラック・シンゲツ・デュエルエージェンシー】創業者でヴォイドの父親。

伝説の傭兵部隊【サテライツ】を率いてスペイン帝国との半島戦争

イギリス帝国とのヨーロッパ戦役を戦い抜き

【ブラック・シンゲツ・デュエルエージェンシー】を設立したのだった。


バロッグの戦闘能力は並では無い。

空手・トリプルブラックベルト※2

柔道・グリムゾンベルト※3

茶道・ハンドレットマスター※4

漢検・二級、 数検・三級、 英検・二級etcetc

文武両道、 心技体揃った漢の中の漢である。



※2:達人が締められる事を許されるのがシングルブラックベルト

その三倍なので熟練度は推して知るべし


※3:柔道のグランドマスターは赤い帯を渡される。

この時点で歴史上20人も居ない偉業だが、 熟練度に応じて帯の色が濃くなる。

ヨーロッパでグリムゾンまで赤が濃くなった男はバロックのみ。


※4:最高位茶人”サウザンドマスター”利休の10/1の熟練度とされる。



そして孤児のフェザーを育て上げたフェザーにとっては親にも値する恩人である。

何より特筆すべき事は彼が故人であると言う事である。

まさかフェザーは死んでしまったのか? それとも妄想なのか?


「若を外道に走らせてしまい申し訳ありません!!」


真偽はともあれフェザーには関係無い。

申し訳無さで一杯なのだ。


「若造が思い上がるな」


バロッグが重々しくぶっきらぼうに言う。


「お前はS級決闘者だがまだガキだ、 女すら知らん

そんなお前が何もかもうまくいくと思うのは傲慢だ

まぁ、 お前達を置いて先に逝った俺が説教出来るかと言えば怪しい所だが」

「そんな事は無いです!! おやっさんが俺を鍛えてくれたからこそ今の俺が有ります!!」

「お前の努力の結果だ、 S級決闘者になったから全てオールOKと言う訳では無いが

一人前の決闘者に育てる事が出来たと思う

心残りと言えばお前とバカ息子が喧嘩別れした事か・・・」

「本当に申し訳ありません・・・」

「愛は憎しみで始まった場合の方がより大きくなる※5

中が悪い分、 良いコンビに慣れると思っていたが・・・見当違いだったか・・・

もっと仲良く出来る様にすべきだった。」



※5:哲学者スピノザの言葉



「すみません!! 俺がもっと!!」

「その考えが間違っている

与えようとばかりして貰おうとしなかった

なんと愚かな間違った誇張された高慢な短気な愛ではなかったか

ただ相手に与えるだけではいけない、 相手からも貰わなくてはならない※6」



※6:画家ゴッホの言葉



「もっと言いたい事が有るんだが・・・

そろそろ起きる時間だぞ」


身体が薄くなっていくフェザー。


「お前の事だからまた無茶をして死にかけるだろうからその時に言おう」

「その時はよろしくお願いします!!」

「最後に一つ、 美しく勝利せよ!※5 己に恥じぬ行いをすれば勝利が得られるだろう!」


※5:サッカー選手ヨハンの言葉






「おやっさ!!」

「ふぎゃ!!」


フェザーが顔を上げると頭同士で激突した。


「ちょっと!! 痛いじゃない!!」


ハーフアップの金髪の少女が怒っていた。


「え、 こ、 ここは・・・」


フェザーは現状を把握しようと努める。

天井、 ベッドの上、 そして膝枕※6



※6:日本の古文書『万葉集』に記載されている儀式の一つ。

正座をして相手の頭部をその上に乗せる事で魂の合一化を図る事で回復力を増強する。

オカルトめいた話だが古代日本ポエマーが侍の奥方が夫にウィルパワーを流し込み

回復を図って様子を指しているのでないか?と言う科学的な説が支配的である。



「もう起きたのか」

「貴方は?」

「この街の領主のベルモンド伯爵です

君に膝枕をしているのは娘のサンです」


立派な服の中年男性がフェザーの横の椅子に座っている。


「俺はどの位寝てました?」

「丸一日ですね、 先程あの牛を倒す事が出来て

後処理をしていたら君を見つけてこの病院に運び込み膝枕をさせて直ぐに起きた」

「そうですか・・・」

「君には驚かされるな

ICBCとぶつかって生きている上にここまで早く回復するとは」

「えぇ、 ふぎゃ」


膝枕を解除されるフェザー。


「起きたし、 私はこれで」


サンはつかつかと立ち去った。


「すまない、 彼女の無礼を許してやってほしい」


頭を下げるベルモンド。


「い、 いえいえ、 こちらこそ病院に連れてきていただきありがとうございます」


頭を下げるフェザー。

共に謙虚、 まるで枯山水※6 だ。



※6:水を用いずに石や白砂で山水を表現した日本庭園。

水が流れない為、 水面の波紋が打ち消し合う事も無い

転じて、 凄まじい存在同士が争わずに互いを尊重する事を指す。



「しかしながら自分の見た物が信じられない、 まさか頭で牛の足を圧し折り

尚且つ生きているとは、 真理※7 を超越している」



※7:人は牛には勝てない。



「いえいえ、 そんな事は」

「君の勇気に聖・ダミアン※8 の姿を見た、 実に勇敢だった

我々を奮い立たせたよ」



※8:偉大なる聖人。

病人達を世話する者が居ないと知った彼は病に犯されようと病人達に寄り添った。



「ICBCの構造的欠陥※9 と勇者マモルのおかげです」



※9:当然の事ながらICBCは戦略的効果

即ち敵地へのダメージを与える為に敵地に着地する必要が有る。

その為、 着地の衝撃にダメージを受ける。

着地によるダメージはICBCの重量が大きい程、 大きい為

一定の重さを超えるとICBCは機能しなくなる。



「マモル? 彼は吹っ飛ばされて返り討ちに遭ったと見えるが」

「頭部への攻撃で頭蓋にダメージが入った筈です

多少の攻撃力の減衰は有った筈、 まさに紙一重でしたね」

「ルーブ・ゴールドバーグ・マシン※10・・・」



※10:無駄な工程を多量に含んだ機械。

転じて何かが食い違えば全てがご破算になる事を指す。



「・・・マルガレーテに聞いたが君は職を探しているらしいね」

「えぇ」

「この街を救った英雄を無職のままにする事は出来ん

君が良ければだが私の娘の御付き執事になってくれないだろうか?」


唐突な申し出に面食らうフェザー。


「願ったり叶ったりですが・・・良いんですか?」

「君は高位の決闘者の様だ、 身分も確かだし問題は無いだろう

逆に私の娘の方に問題がある」

「問題?」

「私の娘は性格に難があり過ぎる、 好意をストレートに表現出来ない

恥ずかしながら※11 娘は心の病かもしれない」



※11:まだメンタルヘルスに対しての理解が進んでいない。



「決闘者として戦っていた頃に比べればマシですよ、 喜んでお受けします」

「そうか、 ありがとう、 怪我は大丈夫か?」

「後、 二日も寝れば大丈夫だと思います」

「凄い回復力だ・・・」

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