ヒューマン・キャノット・ビート・カウ

再誕歴7700年マーチ7日。

フェザーは流されていたが流石に空腹感を覚えた。


「そろそろ街に着かないかなぁ・・・」


防風林※1 が見えて来ているので街は近い筈である。



※1:風に備える災害防止林の一種。

ヨーロッパ連合制定の『市街建設に関する欧州評議会条約』にも

暴風対策はしなければならないと定められており

市街を統治する貴族の義務とされている。

防風林の伐採を防ぐ為に警告看板や見張りが存在する為

防風林か野生林かを見分けるのは容易い。



「起きたばっかりだからなぁ・・・寝るのも厳しいか」


また暫くボーっとしていた。

その為、 桟橋に激突した。


「・・・・・」


激突した桟橋にのそのそとよじ登る、 川辺に洗濯場※2 が見え

そして少し離れた所に街が見える。



※2:中世ヨーロッパでは共同の洗濯場で洗濯を行う。

洗濯を生業とする洗濯婦が各家庭から洗濯物を請け負い洗濯を行う。

社会的行事であり洗濯婦は役人として雇われる事も多い。



のびをしながら起き上がりとりあえず街に向かう。


「うーん、 びしょびしょだなぁ」


フェザーは飛び跳ねてトリプルアクセル※3 をして水を飛ばして乾かした。



※3:"アイス・ファステスト・マン"アクセルが考案した回転する技アクセルジャンプ。

アクセルジャンプは1回転だがトリプルアクセルは3回転半である。

半分の回転はアクセルの取り分として捧げられる。

本当は氷上で助走をつけて行う技だが無理すれば行ける。



「さてと、 適当に街に行くかな」


てくてくと街に向かうフェザー。


「うん?」


何やら賑やかな雰囲気である。


「何かのお祭りか?」


わーわーと騒いでいる。

街の中にはウィッカーマン※4 ねぶた※5 トロイの木馬※6 がひしめいている。



※4:木の編み細工で出来た人型の中に肉を詰め込んで焼いた料理。

元々は物騒な儀式だったらしいが現在は作り方が派手で祭事に良く食べられる。

時代を経る度に小型化され、 現在は30Cm程の物が主流である。


※5:巨大な紙製の人形、 祭の時に引いたり担いだりする山車の一種である。

日本の物だったが台風で吹き飛ばされてしまい世界各国に存在が確認されている。


※6:トロイの山車、 祭りの終わりには木っ端微塵に爆破される。

トロイア戦争においてギリシア側が使った決戦兵器が元になっているらしい。

日本で言う所の花火と似た感覚である。



「ふーむ・・・」


街中の飾りを見ると『祝!!勇者※7 マモルの魔王※8 討伐パレード』



※7:欧州勇者組合連合(European Hero Union Confederation 略称EHUC)所属の組合員。

嘗ては自分勝手に勇者を名乗っていた為、 法律として規定される。

組合員は反社会的魔族を討伐し儀礼的な手段で弔う。

給料は高いとは言えないが各種保険や労災、 住居手当等の手厚い福祉が受けられる。


※8:極めて著しい反社会的行動を取る魔物に対してEHUCが規定する特級犯罪魔族。

討伐した際には報奨金が発生し、 討伐した近辺の街では勇者とのタイアップで観光資源になる。



「へぇー、 意外と景気が良さそうな所に来た、 これは再就職は楽かな?」

「君、 ちょっと良いか?」


ブロンドのロングヘア―が美しい金髪の騎士がフェザーに声をかけた。


「はい?」

「私はこの街を治める領主のベルモンド伯爵に仕える騎士マルガレーテ

其方は見かけない顔だが何者だ?」

「あぁ、 すみません、 私はフェザーと言います

仕事を首になったので仕事を求めてここに来ました」

「身分を証明できるものは」

「こちらを」


EUDRが発行した身分証明カード※9 を出す。



※9:EUDRが発行する決闘者の身分を保証するカード。

決闘者のランク毎に材質が変わる。



「ふむ決闘者か、 殴って良いか?※10」

「どうぞ」



※10:実力を試して良いか?と言う隠語。



ぼごっ、 と殴り飛ばされるフェザー。


「ぬぐわ!?」

「ぎゃあ!!」


人ごみに叩き込まれる。


「お、 おいおい、 大丈夫か?」

「ウィるって殴ります?※11 普通?」



※11:ウィルパワー使って殴ります?の略語



フェザーに手を伸ばして起こすマルガレーテ。


「いやぁ、 てっきりガードするかと」

「ガードしてもいきなりウィるのは無いでしょ」


起き上がるフェザー。


「ちょ、 ちょっとマルガレーテさん!! 何してくれてるだ!!」


少し古いフードを被った青年と中年の間の男が指を指しながら怒る。


「キャタラさん、 すまないな」

「すまんじゃないでしょ!! ウチの娘に何してくれる!!」


キャタラと呼ばれた男が村娘風の服を着た紺色のストレートヘアの少女を抱える。


「う、 うーん・・・」

「ピラ!! しっかり!!」

「だ、 大丈夫ですよ」


ピラが起き上がる。


「嫁入り前の娘に男をぶつけるとは何を考えてる!!」

「す、 すまない」

「すまんで済むかぁ!!」


激怒するキャタラ。


「お、 お父さん、 私は大丈夫だから」

「むむむ・・・」

「何事かね」


立派な髭を蓄えた華美では無いが貴族と分かる位の服装の中年男性と

派手な黄色いドレスを着たハーフアップの金髪少女がやって来た。


「キャタラさん、 マルガレーテが何か?」

「そこの奴をぶっ飛ばして吹き飛ばされてピラが倒された!!」

「お、 お父さん、 私は良いから!!」

「ウチの騎士がすみません、 給料に色と付けておきます」

「結構!! マルガレーテさんにはきちんとした謝罪文を書かせてくれ!!」

「謝罪文って・・・」

「すまないですむか!! もっとちゃんと謝りなさい!!」

「それは確かに・・・では始末書と共に謝罪文を彼女に書かせます」

「頼みますよ!!」

「本当にすみません」


頭を下げるマルガレーテ。

刹那、 周囲に影が差す。


「うん?」

「何だ?」


ジース!!※12 天から巨大な牛が降って来た!! ゼウス※13 か!?



※12:めっちゃ吃驚。


※13:女性を誘惑するために自身を白い牡牛に変えた近寄った経験がある。



否!! これはスペイン帝国から送り込まれたICBC※14 だ!!



※14:intercontinental ballistic cowの略。

大陸間弾道牛、 牛を追いかけて坂道を登らせその勢いで飛ばす生物兵器の一種。



「15tクラス※15 ・・・!! 逃げろ!!」



※15:ICBCの破壊力等級。

15tクラスは人間の大人200人分は軽く超える巨体である。



逃げ惑う民衆。


「ふはははは!! 安心しろ!! この勇者マモル様に任せな!!」


ICBCの前に立ち塞がる勇者マモル。

ヨーロッパでは珍しい黒髪、 そして煌く大剣を掲げている。


「さぁ!! 来い!!」


大剣からウィルパワーが迸る!!

そのウィルパワーに呼応する様にICBCが走る!!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


巨体にマモルの剣が振り下ろされる!!

だが牛が人間に勝てる道理は無い!!※16 大剣は圧し折れマモルは吹き飛ばされたのだった!!



※16:真理。



そしてICBCはフェザー達の元に向かって来るのだった!!

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