夢1

 目を開けるとそこは寂れた宿の一室だった。障子は破れふすまは外れ穴が空いており、まるで廃墟のような部屋だった。私はここへ林間学校のような合宿のようなものを来ていた。外から厳しそうな先生が生徒を叱る声が聞こえた。

 私はふと部屋から出て木造の廊下をあてもなく裸足でぺたぺた歩いていた。

 なんだか寒気が体にまとわりつき、鳥肌が立つ。終わりの見えない廊下を無心で歩く私。すると、前方の影から黒い生首が想像を絶する速度で迫ってきた。顔全体が煤を塗ったように黒く、ボロボロと欠片を零しながら。目はくり抜かれ、顔も所々欠けて口は耳元まで裂けていた。

「ぶつかる!」そう思い目をギュッと瞑り衝撃に備えてると、生暖かい風が顔の周りを通り抜けてった。どうやらぶつからなかった……のだろうか?不思議だ。

 そしてまた先程と同じように廊下をぺたぺた進んで行く。今度は廊下の壁から明かりが漏れているのを見つけた。どうやら少し閉め損ねたふすまだったみたいだ。私は中へ入ってみることにした。

 そこでは武士を彷彿とさせる格好をした6人ほどの男たちが賭け事をしていた。サイコロを振り、出た目を予想して賭けをしていた。

 私は「こんばんは」と挨拶をし、その部屋を通り抜けた。ふすまをくぐり抜けようとした時、背中の方から「その先の部屋には、変なやつがいる。気を付けろ」と忠告を貰った。変なやつとはどんなやつだろうか。私は恐ろしさ半分好奇心半分で先に進んだ。

 先程の部屋から出て少し歩いた時、いつの間にか横に同年代くらいの女の子と先生が並んで一緒に歩いていた。顔は見たことない人のはずなのに、どこかで苦楽を共にしてきた親友のような妙な親近感と情を2人に感じていた。まるで、元々そうであったかのように頭に直接刷り込まれているような気分だった。

 私は深く考えることをやめ、廊下を歩いていく。

 3人で時々言葉を交わしながら廊下を歩き続ける。すると、木造だった廊下がコンクリートの廊下へと変わる境目に辿り着いた。ここから野外活動センターの本館だと頭に浮かんだ。どうやら私は野外活動センターに合宿に来ていたようだ。少しずつ知らない記憶が埋め込まれている気がした。

 本館に入る5歩手前ほどで、後ろの方で扉が開く音がした。ふすまではなく扉が。廊下だから沢山のふすまがあったが、扉は見た覚えが無い。ましてや、自ら開いているところは初めて見た。

 私自身同じように扉を開けて廊下に出たはずなのに、自分以外が扉から出てくるのを初めて見たのだ。というか、扉が開くことは無いとどこか深層意識で刷り込まれていたような気分だ。

 開いた扉に3人ともが振り返る。中から生え際が心許ない、まるで温水洋一のような50代前半くらいのおじさんが出てきた。おじさんは「そちら側へ行くのかい?」と粘着的な声でニヤニヤしながら聞いてきた。私たちは反応に困り、言葉が出なかった。するとおじさんの首が180度横にゴキッと回転し、目が忙しなくギョロギョロと動き「君タちイ、そちラがワニもドルのかィ?逃ゲるのカぃ?」と言った。言葉の発音があべこべで、理解しづらかったが、なんとか「飲み物を買うだけですよ」と言った。するとおじさんは「そうかい。そうかい。」と言いながら部屋の中へと戻って行った。相変わらず私たちが先程までいた場所(ここからは別館と称する)は壁や床がボロボロで、昔の建物が一切手入れされず廃墟のように感じられた。まるで、数十年は誰も居ない心霊スポットのようだった。


 そして時は経って合宿最終日。帰る直前に意識は戻った。そこではみな本館の正面玄関で親が迎えに来るのを待っていた。私も親が来るのをスマホをいじりながら待っていた。すると先生と女の子が「ねぇ●●君、この野活センターの噂、知ってる?」と話しかけてきた。私は噂なんて知らなかったから、話の続きを促した。話を要約すると、1泊2日の帰り間際の夕暮れに別館へ戻ると、昔別館で起こった連続失踪事件の真相が知れるというものだった。わざわざトラブルに自分から首を突っ込まなくても良いと思ったが、内心そんな訳ないと考えていたし、日が落ちるまで1時間程度も時間があるからついて行くことにした。

 どうやら日が沈むまでに野外活動センターから出ないと、閉じ込められてしまうという噂もあったため、私たちは小走りで別館へ戻った。

 別館へ戻ると、どこか前居た時と雰囲気が異なっていた。形容しがたいが、空気が血を帯びているようなおぞましい感覚がした。

 私たちは一心不乱に歩みを進め、ある一室の扉の前で足を止めた。何故かそこに何かがあるような感覚がしたのだ。先生が「それじゃあ…あけるよ」と言い、一気に扉を開け放った。中では血溜まりに倒れた男の人。背中に刃物が何回も突き立てられた痕があり、近くに血濡れの刃物が転がっていた。

 まさか失踪事件ではなく、連続殺人事件とは。犯人からしたら日が落ちると勝手に証拠が隠滅されるこの建物は死体を隠す絶好の場所だったのだろう。気持ちが悪くなり私たちはその部屋から逃げた。あと30分もしないで日が落ちる。そろそろ出口へ向かおうと考えていたら、どこからか子供たちが現れて「一緒に遊ぼうよ!」と元気に話しかけてきた。

 本来ならすぐに出口に向かうべきなのだが、何故かその時はこの子供たちと遊んであげねばならないと思考が強制的に持っていかれた。

 そして思考能力が戻る頃にはもうほとんど日が落ちかけており、子供たちがクスクスと笑い、「捕まえた」と口を三日月のように裂き甲高い笑い声が響き回った。

 そこで私たちは意識を手放し、目覚めることは無かった。


 そして夢から覚めた。枕にしているサメのぬいぐるみから頭を上げ、結局どういう夢で何がしたかったのかと、首を傾げるのだった。

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微睡みの中で 餅月。 @titosetsukuyomi44

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