聖夜のリグレット ~俺の嫁が可愛すぎる~

九月のカルル

始まりは突如消え、また消える




「こんなの…」



こんなのって……



今日は楽しいクリスマス…のはずだった。



辺りは煌びやかな景色に、キラキラと輝きを放つイルミネーション。



そんな中、膝から崩れ落ちる場違いな私。



目の前には幸せそうに腕を組んで歩く若い男女や夫婦の中に、、


2人の男女の姿。



信じられない。


隣の女性は…だれ、?



きょう、は……今日はあそこで待ち合わせをしようって約束したのに…。


ずっとしてきた片想いを終わらせようって決めてたのに……。



「嘘つき……うぅっ、ひっく…っ」



待ち合わせ時間よりも早く出て、可愛くオシャレした。

お金を掛けた新しいお洋服。


両手には、スーツを着る彼に似合うようなネクタイと、ネックレスが丁寧に包装されたプレゼント。



やっと片想いが終わるんだって、もう前みたいに辛い思いしなくてもいいってほっとしてた。


そんな努力が一瞬で泡のようになるなんて、思ってもいなかった。


自然と手に力が入る。

シワ一つ付けず大切に持ってきたプレゼントが涙でシワシワになっていた。



なんで、?明日が楽しみって言ってたじゃん…。


私だって楽しみでよく眠れなかったのに、あれは嘘だったの…?



私の時間を返してよ…、

いつも貴方のことを考えて、好みになるように努力して……。


あんなに一生懸命だった自分が馬鹿みたい。

全てが無駄だったみたい…。



最低…。ほんっとに最低!



なんであんな人を好きになったんだろう。


どこから間違えてたのだろう。


何故こんなにも努力してたんだろう。




……なんで貴方の横は私じゃないの…?




どれだけ貴方のことが好きで、好みになっても、貴方は私には振り向いてくれないんだね……。




こんなにも好きになった君が大嫌いだ。




私を視界にも入れず、ただ陽気な笑い声を響かせ過ぎ去っていく聖夜の夜。


この世界が私を取り残して、楽しんでいるみたい。



悲しい。寂しい。なんで望んでることが叶わないの…。今までいっぱい我慢したのに…。



頬が冷たい何かで濡れた。



「あ……雪…」



ホワイトクリスマスだ……。


私が何も知らなかったら、彼が私のこと好きだったら、今日は特別な日になったんだろうか。


考えれば考えるほど無駄よね…。



寒い…。

でも動く気には到底なれない。

彼がいなくなるだけで、私はこんなにも気力を無くしてしまうんだ…。


彼に依存してたんだ…、。



白銀に輝きながら降り注ぐ雪が、私の周りをくるくると回り、慰めてくれているみたい。



綺麗な雪に囲まれながら私は静かに涙を流した。


多分、この出来事も想いも一生忘れられないけど、せめて少しだけでも洗い流せたら……



この心は、温かくなるかな…。





ずっと座り込んで泣いていた私に影が差した。



「氷緒-ヒオ-…」



この声は…。



私の目の前に心配そうな、辛そうな顔をした人がいた。



見慣れない顔。

でも、どこか見知っている面影があるような気がする、。



「…おいで」



腕を引っ張られ、無理矢理立たされる。


温かくて大きな手…。



「あっ…ほっといてください、、迷惑かけるから」



なんて余裕がないんだろう…。



「………」



私の言葉を無視し、無言で私の腕を引いたまま、何処かに向かっている。



この人は私のことを知ってる…?


何で助けてくれるんだろ…。



あまりにも歩くのが速すぎて息があがってきた。


足が縺れても彼がしっかり手を握ってくれているから、転けないで済む。



繋いでいるのは手だけなのに包まれてるみたいに身体が温かい…。

引いたはずの涙がぶり返してきた。


もう、泣きたくないのに…止まらない。

こんなに弱い姿見せたくなかった……。



急に手がぎゅっとキツく握られた。



「…ごめんな」



……え、?


思わず涙が止まった。



「なん、で」



声が震えて上手く出ない。



「…何でもない」



なに…。変なの、。




速歩で進む彼の背中には大きな翼が付いていた。


到底私には届かない存在のようで…。



私は助けてくれる人にすら、恋が叶わない運命なのかも……。





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「どこかに座ってて」



リビングに通された私を置いて、どこかへ姿を消した彼。



気付いたら、見知らぬ人の家の中へと入っていた。


逃げるなら、今しかない。私が安全でいられる保証はない。


でも、今までただ手を引かれるだけだったし…なにより、温かさをまた感じたい…。


な、何を考えてるの私…!

絶対に信用なんかしないから。



この汚れた姿でソファに座れる訳でもなく、入り口にずっと立って観察を始めた。


意外にもシンプルな内装だった。

黒と色で統一され、清潔感のある綺麗な雰囲気で過ごしやすいイメージ。



しばらくして姿を現した彼。



少し気まずい。



「座ってよかったのに。まあいいや。まず、お風呂に入って」



どうやら、お風呂を溜めてくれたよう…?



「えっ、いや、自分の家に帰ります」



相手が私のことを知っていても、私は知らない。


危険。それは何度も痛感したから…。



「それで?」



顔をジロジロと見ながら言われた。


それでって…?

えっ…!もしかして顔が不細工…!?


だから私はフラれたの…?



いやいやそんな訳…。あるのかな、、。



「とりあえずお風呂に入って、鏡を見て」



洋服は洗濯して乾燥機に入れておくから~と、お風呂場に押し込まれた。



女の子に顔が不細工なんて言う男は最低よ!



でも、心配だから鏡の前に立つ。



「わっ……すごい顔…」



涙でマスカラが剥がれ落ち、目は真っ黒。


鼻水で顔はぐちゃぐちゃ。


唇は知らないうちに歯が食い込んでいたみたいで、血が滲んでいた。



そりゃあ、鏡を見た方がいいよね…。



服を脱いで洗濯機に入れさせてもらう。

でも、警戒心は忘れずに…。



ジャーっと流れるお湯が冷たい身体には丁度良い。



さっきのことが夢のようで夢じゃなかった。

実感が上手く湧かない。でも、何かが無くなった感じがする。



私は都合の良い女だったんだよね…。



大きな生き甲斐を失った今、心にぽっかりと大きな穴が空いている。


中に溜め続けていたものは全て流れ出し、他の何かで埋めようと藻掻いてる。



「大嫌い。もう二度と好きになったりなんかしない」



嫌い、嫌い、嫌い。



「でも……好き…?」



好き。そう口を動かす度、乾ききった響きがする。



もうっ…わかんない…。



ぽたぽたっと浴室にこだまする。

水滴と、涙。



泣いてばっかり…。



ほんとはこんなつもりじゃなかったんだけどな…。


こんなことになるって知ってたら、わかってたら、私はこんな風にならなかったよ、、、



きっと……。



ガラガラッ



洗面所に誰かが来て何かガサゴソとしている。


恐らくあの人。この家には多分彼一人だけだろうから。


もしかして、彼女さんがいたり…はないよね。あんなに接触して、お家に上げさせてもらってるなんて…。


こんなこと考えるのやめよう。



「氷緒…」



「は、はい…ぃっ、」



急に声を掛けられて裏返ってしまった、、



「着替え、置いておくから」



「あ、ぁ、ありがとうございます…」



やばい、声が変じゃないかな、?

泣いたってバレちゃうかな、、?


……面倒くさい、って思われちゃうよね、…。



洗濯機が起動する音と、再びガラガラっと扉が閉まる音が聞こえた。



もう行ったかな…。



顔を合わせたくないけど、そろそろ上がらなきゃ、長居する訳にはいかない。



そろそろと浴室の扉を開ける。


いないね。



えっと…洋服…。



え、これ…?


大きい…。



もう少し太ってた方が良かったかな。





「あの…」



「ん…?あ、、」



え?どうしたのかな。固まっちゃった。



「えっと…」



「あっ、ごめんごめん。上がったんだね」



「はい…ありがとうございます」



ここにおいでとソファに呼ばれ、少し間を空けて浅く座る。



「はい、これ」



渡されたのは、タオルに包まれた保冷剤とマグカップだった。



「これで目冷やしてね。これはココアだよ」



「…ありがとうございます」



受け取るのを躊躇ったけど、このまま受け取らないのもむしゃくしゃして受け取ってしまった。



保冷剤を当てながらマグカップを眺める。


それは私には似合わないようなピンク色でキャラクターが載っている可愛らしいマグカップだった。



……何故彼がこんなものを持っているのかは気にしないことにする。



手のひらをマグカップで温め、口を付けた。

甘い香りにコクのある深い味わい。


身体が芯から温まっていく。



一息付いたタイミングで、彼が口を開いた。



「俺のこと、わかる?」



「いや…」



考えてみたけど、よく思い出せなかった。



「敬語はやめて?同級生だよ」



「え…?」



ど、同級生…?



「高校のときから、今の大学も」



「ごめん、知らないかも…」



わかりそうだったのに、急にわからなくなった。



「いいよ別に。名前は、高橋 亜門-タカハシ アモン-」



「……」



高橋亜門…。

どこかで聞いたことがある。上手く思い出せないけど、どこかで……。



「氷緒」



そういえば。



「…何で私の名前、知ってるの?」



「聞いたことがある」



「誰に」



バツの悪そうな顔をして、あからさまに視線が泳いでいる。


何か言えないことでもあるってこと?



「……秘密だよ」



いくら同級生でも、何の接点もない私の名前を知ってて、存在もわかる…?


ストーカーなの?

私はこの人を信用できない。



「あなたは私のこと知ってるかもしれないけど、私は知らない。干渉するのやめてください」



思い切って言っちゃった…。


でも、仕方がないもん。これ以上、私のことに手を出されると嫌だから、。



「私に構わないで、、助けてくれたのは嬉しかったけど…」



でも……



「今日のことは見なかったことにして」



もうこれからは違う道を歩くつもりだから。


好きな人のいない、世界で。



私はみんなに迷惑かけるから。



「何であそこにいたの?」



「関係ないでしょ」



私は優しくないから冷たく突き放しちゃう。


ごめんね。今だけだから…。



「あるよ」



「、例えば?」



やけに強気だから、少し引いちゃう。



「俺氷緒のこと助けただろ。俺にも知る権利はある」



ずるい。


全くのもって正論だ。でも干渉されたくない。



「助けなくても大丈夫だった」



「は?」



ひどい言葉ばかりが口から溢れ出る。



「大丈夫じゃなかったから助けたんだよ」



「助けられても何も変わらないんだもん」



むしろ…思い出させられて辛くなっていくばかり。


そんなの何が良いって言うの…。



急に亜門が黙り込んだ。



「彰人-アキト-に遊ばれたんだろ」



「!!」



何だろう…この感情は……


腹の底から熱い何かが湧き上がってくる感じ…。



「彰人が言ってた。あいつは、氷緒は扱いやすいって。くそ野郎だよ、それにまんまと引っかかったんだよ氷緒は」



遊ばれてた…。


わかってる。でも…何であなたなんかに言われなきゃならないの!


私の何を知ってるって言うのよ…!!



何かがプツリと切れた。



「あの人を悪く言わないで!」



咄嗟に声が出た。



「……知ってる…都合がいい女だったってことも全部知ってるよそんなの!!どれだけひどいことされても諦めきれないの…っ…まだ、、きっと…好きだから、」



なみだが、涙が止まらない。



「あなたになんかわかるはずない!私の辛さなんて、あの人への気持ちなんて……!」



なんで私はこんな中途半端なの…。諦めたいよ、、嫌いになりたい…。


でも、もう我慢はしたくないの……。

自分の思うように生きたい、。


気持ちに人生を左右されたくない…、。



恋に溺れるともう二度と抜け出せない。

私はもう終わった。




自分のことで精一杯で、亜門が辛そうな顔をしたのも知らなかった。



「…彰人はやめた方がいい。それだけを言いたかった…。ひどいこと言ってごめん…、、」



亜門が落ち着きを取り戻し、静かに語った。



「彰人は氷緒のこと色々話してた……」



私は黙って亜門の話に耳を傾けた。










「そっか…ごめん……」



ごめん。自分が情けすぎて、可哀想で、お馬鹿で…その言葉しか出てこない。



彰人くん、貴方は自己中すぎるよ…。お友達が貴方のせいで傷付いてる。

早く気づいてあげて……お願い…。


私はもう捨てたんでしょ。でも、友達はだめだよ。



お願いだから、もう苦しめないで……。

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