第16話ご報告

名古屋トランスコーポレーションの朝。

自社ビルのエントランスにはガードマンが立ち、入館証をタッチして社員は出勤する。

業務課は7階。

山崎はエレベーターの前に立っていた。すると、背後からお尻を触られる感触を味わい振り向くと、

「変質者の気持ちが分かるだろ?山崎?おはよう」

山崎はこんな事しても、係長として君臨する藤岡に驚き、

「お、おはようございます。藤岡さん、朝からご機嫌ですね」

「ちょっと、昨日、パチンコで儲けてよ。今夜は、新卒の2人組中村と石神とを誘って飲まないかい?」

エレベーターが到着して、数名で満員になった。

7階へ到着すると、2人はまた話し出した。

「藤岡さん、珍しいですね。新人を誘うなんて」

真っ直ぐ、喫煙所に向かう。藤岡はハイライトに火をつけると、

「LINEで伝えたんだ。飲み会で、若い子らがどんな感じで仕事と向き合っているのか聴きたいって」

山崎はマルメンに火をつけた。

「反応は?」

「2人ともOKだって!」

「最近の子らは、上司の誘いを嫌いますがね」

藤岡はフーッと煙を吐き、缶コーヒーのプルタブを引いた。

「藤岡さん、キスしました!」


ブッー!!


「な、なんだ、山崎!いきなり。キスしましたって、誰にだよ?」

山崎は笑いを隠せず、

「ウフッ、ち、千紗ちゃんと」

「なんですって!」

「昨日、彼女の家で。まだ、エッチはしていません」

「やるじゃないか!今日はクソ真面目に仕事の話しでは無く、山崎の次の一手を皆で考えよう」

藤岡の鼻の息は荒かった。

「新人にエッチの仕方尋ねたら、主任としての僕の立場が……」

「ま、オレに任せろ。中村と石神に定時であがるように伝えておく」

「何から何まで、ありがとうございます」

「なぁ~に、礼には及ばん」

2人は喫煙所を後にした。


5時。

キーンコーンカーンコーン

チャイムが鳴った。

「さっ、中村君、石神ちゃん、タクシー呼んであるから、オレの後を付いてきなさい。山崎君も」

3人はタクシーに乗り、居酒屋千代に向かった。

「あら、いらっしゃ~い。藤岡さん。また、かわいい子たちを率いて」

看板娘の凛は、4人を奥座敷に案内した。

千代婆さんは、調理場で煮物の番をしていた。

「皆、先ずは何飲みたい?石神ちゃんは?」

「わたしは生で」

「中村君は?」

「ハイボールで」

「山崎君は?」

「僕もハイボールで」

藤岡はバイトの折田を呼んだ。

「生2つ、ハイボール2つ。枝豆と冷やっこ、その他は後から注文する」


4人は乾杯した。

「係長、新人歓迎会以来のお酒のお誘いありがとうございます」

と、中村が生真面目にお礼を述べた。

「わたしも同じです」

石神は正座していた。

「最近、我々の仕事ぶりが評価されていてねぇ。皆で勝ち取った評価だ。冬のボーナスは期待できるね。な~に、石神ちゃん、足は崩しなさい。今日は、皆の意見が聴きたいんだ」

藤岡は、戻りガツオのタタキを食べながら、

「実は、知り合いの子が最近、彼女が出来てキスまではしたんだけど、そこから先が難しくてねぇ。中村君、君の意見はどうだい?」

中村は、

「僕は時間をかけていけばいいと思います。焦らなくても。そういう雰囲気になれば、逆らわず任せるしかないです」

中村は、ハイボールをお代わりした。

「……わたしも同意見です。ガツガツしているのは、どうせチェリーだけです」

山崎の顔色が段々悪くなってきた。だって、チェリーボーイなんだもの。

「石神ちゃん、君の意見は的確だね」

「藤岡さん、誰ですか?そんなエッチの事しか考えていないチェリーは?」

と、山崎は保身の為に言った。藤岡は、ムッとしたが、

「まぁまぁ、単なる知人の悩み事なんだ」


中村は石神の目を見て、石神は頷いた。

「係長、ご報告があります」

「なんだい?」

「僕は今、石神さんとお付き合いしています」


ブッー!!


「え?本当に?石神ちゃん」

石神は酔いなのか照れなのか、頬を紅くして頷いた。

「もしかして、2人はもう結ばれたの?」

と、山崎が食い付くと、

「はい」

と、中村が言った。

「藤岡さん、やってらんねぇーよ。バイト君、泡盛。ロックで!」

藤岡は、山崎の肩に手を置いた。そして、言った。

「時間を掛けよう」

「……はい」

その晩は、23時まで4人で飲んだ。山崎は、珍しく悪酔いせず帰宅した。

最近、酒を飲み過ぎで強くなっていたのだが、彼は知らない。


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