第13話山崎先走り

金曜日、山崎と千紗は6時に待ち合わせして、割烹居酒屋早水に入った。

山崎は、職場でキスの練習をして自信満々である。ブレスケアも考え、歯磨きセットを準備していた。

「千紗さん、今日は暑いですね。9月の終わりだと言うのに」

山崎が千紗に声を掛けると、千紗は、「そうですね。ちょっと残暑がキツいです。上を一枚脱ごうかな」

「どうぞ、どうぞ」

千紗は上着を一枚脱ぐと、胸の谷間が強調される格好になった。

山崎は、それに気付くと、

「ぶっー!ゴホン、ゴホン。ち、千紗さん。まぁ~大胆な」

ビールを吹き出してしまった。

「え?」

「いえ、何も」

千紗は、確信犯なので、『もらった!』と、思った。


「山崎さん。昨日は、『湖のひみつ』を見たのですが、エレキングの地球防衛隊への攻撃は痺れました」

山崎は、あまり、千紗の方を見ないで、

「ピット星人の操り怪獣だからね。尻尾は80mなんだ」

「へぇ~、さすがマニア」

「当たり前さ」

2人は旬のサンマの塩焼きを黒ビールで流し込んだ。

山崎は、腕時計を見た。

07:15。

まだだ。21時を回らないとキスには早い。

「山崎さん。オールド・クロック行きませんか?」

「え?バー?いいよ。歩いて行こう。20分で着くから」

山崎は、しめしめと思い、お勘定を済まし2人で並んで歩いた。

「山崎さん、こうして2人で歩いていると、カップルみたいですね」

「か、カップルみたいだいね。僕は実は千紗さんの事がす、す、……」

「す?何ですか?」

「……ちょっと、オシッコしたい」

「オシッコ?」

「我慢出来ない!オールド・クロックまでダッシュだ!」

「わ、分かりました」

2人は走り出した。5分後、店に到着すると山崎はトイレに駆け込んだ。

「なんじゃこりゃ?」

山崎は、トイレで驚愕した。イチモツが、はち切れんばかりになっていた。このまま、千紗の隣に座る事は出来ない。

イチモツをスラックスの左ポケットから手で掴んで横に倒した。


「お、お待たせ」

「間に合って良かったですね」

「う、うん。テキーラでもどうだい?」

「いいですね。明日は土曜日だから、おもいっきり飲めますね」

「そうだね」

2人はショットをパンパンあおっていく。

飲めば飲むほど、山崎のイチモツは本気を出してくる。どうしたものか?

「山崎さん、さっきから左手をポケットに入れてカッコいいですね」

「う、うん。どうだい?」

「何が?」

「……ウルトラセブンマニアは、片手で飲む酒が似合うのさ」

「今夜、わたしの家に来ませんか?」

「な、何で?」

「えっ、三次会ですよ」

「まっ、それも悪くないね」

千紗は、しめしめと考えていた。

2人はタクシーを店まで呼んだ。支払いは千紗が払い、タクシーで千紗宅へ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る