第11話居酒屋にて

山崎は居酒屋千代で、千紗を待っていた。

時計の針は20時前だ。

月曜日は、千紗が勤める学習塾で教壇に立っているので、20時過ぎにならないと上がれない。

千紗は、仕事場からタクシーで千代に向かった。


ピコーン


山崎のスマホにLINEの通知音が鳴る。

『今から、タクシーで千代に向かいます』

山崎は、

『待ってます』

と、返信した。

山崎は今日は残業を2時間した。主任の仕事はなかなかハードである。あの、飲んべえの藤岡係長がよくこの仕事をこなしていたな?と自分が主任の仕事を引き継いで初めて藤岡のエリート性を感じた。

W大学卒だからだろうか?

山崎は、カウンターで1人で何も注文せずに千紗を待っていた。

「山崎さん、お連れさん遅いですね。先に飲みます?」

と、凛が尋ねると、

「いや、後10分くらいでここに着くから、待っているよ」

「真面目なんですね。山崎さんは」

山崎は照れて、

「僕は、お酒弱いから……」


ガラガラガラ


扉を開いたのは、千紗だった。

「あら、千紗さん。お連れさんお待ちしてますよ。噂をすればなんとやら」

「あっ、カウンター席ね」

「はい」

千紗が、山崎に近付いた。

「こんばんは。山崎さん。今夜はありがとうございます。わたしに付き合ってもらって」

「僕も、同じ年代のお友達が欲しかったので、こちらこそ嬉しいです」

2人はカウンターに並んだ。

「先ずは、生中ですよね。まだ、9月は暑いですから」

山崎が、

「僕は、ウーロン……」

「凛ちゃん、生中2つ!」


押しの弱い山崎は、酒は飲まないでウーロン茶をオーダーしようとしたが、結局、ビールを飲んでしまった。

山崎はチビリチビリと生中を飲み、千紗はゴクッゴクッと豪快に飲んだ。

「プファー、やっぱり生が一番ですね」

と、付きだしの枝豆を口に運びながら山崎に語りかける。

「そ、そうですね。やはり、生が一番かと……」

山崎は、内心焦っていた。女の子とどう話せばいいのか?

彼女は、ウルトラセブンに興味があるだろうか?

「千紗さん、僕のネクタイの絵柄なんだけど……」

千紗が山崎のネクタイを見つめる。

「メトロン星人ですね?」

「そ、そうだけど。君もウルトラセブン好きかい?」

「最終回は泣きました。ダンがウルトラセブンだと告白するシーンが美しくて、悲しくて」

山崎は、天にも昇る思いだった。

千紗は、生中のお代わりと戻りガツオのタタキを注文しながら、思っていた。


“土日、ウルトラセブンのDVD全巻見ていて良かった。この、イケメンで名古屋トランスの山崎を逃したらもう、三十路だ。20代の内に結婚するのが目標だし。山崎さんは優しそうな目付きしてるし、頑張れわたし!“


山崎が、あまりの嬉しさに生中を一気飲みして、ハイボールを注文した。

「最終回の怪獣はパンドンなんだけど、ゴース星人の操り怪獣なんだよ」

「へぇー、わたしはチブル星人に興味があります。IQが高いと殆ど脳ミソの体型になるのが、面白くて」

2人は23時まで飲み、次は金曜日に飲む約束をした。

結局、山崎は生中とハイボールそれぞれ1杯しか飲まずに星人の話をした。

今夜は、無事に終了した。

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