第8話山崎暴走モード

3人が割烹居酒屋早水に到着したのは、3時半であった。

「2人とも生中でいいか?」

と、藤岡が尋ねると、三浦はあぁ、と答え、山崎はお願いします。と、言った。

まだ、早水は客がまばらだった。

この、居酒屋は午前11時から開店している。夕方になると立ち飲み客も多くなる。

「お待たせしました~」

と、オバサン店員が生中を3つ運んできた。

「山崎君の成功を祈り、乾杯」

藤岡の音頭で、ささやかな飲み会が始まった。

アテは、戻りガツオのタタキ。

早くも、山崎が生中をお代わりした。

「山崎君、この後、千紗ちゃん達とお見合いで飲むから、飛ばし過ぎはいけないよ」

と、三浦が心配すると、

「大丈夫です。ビールはいくらでも入りますから」

「それならいいが……」

山崎はガブガブ、生中を飲み既に頬が紅くなっている。

「秋と言えばギンナンだな。山崎、食うか?」

と、藤岡が尋ねると、

「はい。食べまふ」

「おいおい、呂律が変だぞ!まだ、開始、15分だぞ」

「藤岡主任、僕は酔拳の達人ですから。アハハハハ」

「こりゃ、ダメだ。今夜のお見合いが心配になってきた、な?三浦」

「もしかして、山崎君は酒乱じゃないよな?」

「山崎が入社して、歓迎会を開いた時はそうでもなかった様な気がするけど」

「それなら、安心だ」

藤岡はタバコに火をつけた。

「店員さん、ハイボール」

山崎が追加注文する。藤岡は、タバコの煙を飲み込み、ゲホゲホ咳き込んだ。


山崎は運ばれたハイボールを、

「ゴクッゴクッゴクッ、うめぇじゃねえか!このスットコどっこい!」

「だ、誰に向かってはなしてるんだ?山崎」

山崎はあたかも、汚物を見るような目付きで、

「藤岡主任にです」

藤岡はビックリして、

「山崎、言いたい事があれば全部吐き出しちまえ!」

タバコを灰皿に押し付けながら!山崎に言った。

「じゃあ、遠慮なく。藤岡さんよぅ、毎日コキ使いやがって何様なんだ?」

「なっ…!君は、中川、石神の先輩じゃないか。新卒より仕事が多いのは当たり前じゃない。それに、結構、お前らの分の仕事してんだぞ。俺はもう、90時間も残業してるし」

藤岡は、心外の言葉にムキになった。

「まぁまぁ、2人とも熱くならないで」

「三浦さんよぅ、あんたは毎日定時で上がれていいよなぁ~」

三浦は、カチンと来た。

「総務課全員が定時上がれるわけないだろ。いつも、最後に帰社してるのを知らんのか?」

山崎は、ニヤリと笑みを浮かべ、

「知りましぇ~ん」

藤岡と三浦は、酒乱の山崎にボロクソ言われた。ちょっと、お見合いが不安になってきている。

すると、山崎が、

「ウップ!吐きそう」

藤岡は山崎をトイレに連れて行った。

山崎は、思いっきりリバースした。藤岡が腕時計を見ると、17時ジャスト。千紗に15分ほど遅刻する事をLINEで送った。

山崎が酒乱と知った藤岡は、今夜のお見合いは絶対失敗すると、苦悩した。

トイレから戻ると、三浦はタバコを吸っていた。

「お会計、済ませたから。タクシーで千代に向かおう」

3人は、千紗らが待つ居酒屋千代に向かった。

途中、タクシーを停め、山崎はコンビニのトイレで盛大にリバースを3回ほどした。

三浦も、山崎の様子を見て、お見合いを心配した。

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