第6話ダークホース

木曜日の昼休みの、名古屋トランスコーポレーションの社員食堂で藤岡は山崎純也を探した。

すると、食堂の窓際に山崎は座っていた。

そこは、モンロー効果で女性のスカートが舞い捲れる姿が見えるベストポジションであった。

酢豚定食を食べながら、チラチラと外を眺める。

山崎が味噌汁を飲んでいると、

「山崎、パンチラに夢中だね?」


ブッ!ゴホッ、ゴホッ!


「ふ、藤岡主任……」

「隣いいか?」

「ど、どうぞ」

藤岡は、ラーメン定食だった。食卓のコショウをたっぷりラーメンの上にまぶして、ズルズルと麺をすすった。

「山崎、明日は用事あるか?」

山崎は、訝しげに、

「い、いいえ」

「今日さぁ~、山崎の明日の午後の分の仕事をオレが終わらせてやるから、明日の午後、ちょっとオレに付き合ってもらえないかな?」

「何のお手伝いですか?」

「君は、この女性をどう思う?」

と、藤岡は山崎の質問には答えず、スマホの写真を見せた。

「……きれいな女性ですね。それと、ボクに何の関係があるんでしょうか?」

「……この女性が、君と一緒にお酒を飲みたいらしい。一回くらい、飲んでみないか?」

山崎の顔が一瞬、緩んだ。

「ま、まぁ~、一回くらいなら」

「おぉー、我が同志よ!その前に君に変身して貰う。明日はコンタクトにしなさい。そして、総務課の三浦主任の知り合いの美容室でヘアスタイルを変えて貰う。君は、いつも寝癖のついた髪の毛で出勤しているから、スタイリストさんに協力してもらうんだ。もちろん、金はいらない」

山崎は、話しの殆んどを聴いていなかったが、取り敢えず、

「お願いします」

と、言った。藤岡はうんうん頷き、また、ラーメンをすすった。


金曜日。

昼休みのチャイムが鳴ると、藤岡と山崎は帰宅の準備をした。

同じく、総務課の三浦も会社の正門で待っていた。

「おっ、山崎君、お久し振り」

「お久し振りです」

「今夜は、心の悔いの無いように、居酒屋を楽しみなさい」

山崎は小さな声で、はい。と、言った。

3人はタクシーに乗り、美容室リリーへ向かった。到着し、リリーの扉を開くと、

「あら、待ってたわよ、三浦ちゃん」

「彼が、今回、君のヘアスタイルを担当する、牧野君だ」

山崎は、ずっとうつ向いている。

「あらっ、恥ずかしがりやのボーヤね。さっ、こちらへ」

と、牧野は山崎の手を引いて奥へ連れて行った。


「オレらも、整えてもらおうか?三浦」

「そうだな。今日はお見合いみたいなもんだからな。切ろう切ろう」

3人は、リリーでヘアスタイルを整えてもらった。

40分後。

「キャー、かわいい。ワタシの腕の良さと彼の元々のカッコ良さで、否の打ちどころがないわ」

藤岡と三浦は、うわぁ~と漏らした。

「か、かっこいいですか?」

「もちろんだよ、山崎君。見違えるようだ」

「そうですか。良かった」

山崎は、はにかんだ。

「あら、オジサマ2人も髪整えたのね。素敵。とても、43には見えないわ。40くらいに思える」

「殆んど、実年齢じゃねえか!」

「お会計は、こちらです」

「ゲッ、4万近くじゃねえか。藤岡2万くれ。お釣りは渡すから」

3人はリリーを後にした。

「今、何時だ?」

「3時15分です」

「じゃ、軽く割烹居酒屋早水に行くか?」

「いいねぇ、三浦」

「山崎は、結構飲むのか?」

と、藤岡がタバコに火をつけながら、問いかけると、

「お酒とウルトラセブンに関しては、大好きです」

山崎は、ニヤリとした。

「よし、早水はやみずで決まりだな」

三浦はタクシーを拾い、3人は早水へ向かった。

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