第3話女子は居酒屋に行く

ラージスロープ学習塾で働く、2人の女講師、小林千紗と神田ひとみ。年齢の事を書くと失礼だが、千紗は28歳でひとみは26歳だ。

彼氏はお互いにいない。土日の夜に飲めない学習塾講師達は、OLとは違い男友達を作るのさえ難しい。

今日は、夕方からの授業はせず、中間テスト対策の問題集を作っていた。

朝の9時から。夕方5時になるとラージスロープ学習塾長の広坂竜一が、

「千紗ちゃん、ひとみちゃん、今日は帰っていいよ」

「いいんですか?塾長」

「いつも、頑張ってるからね。しかも、超過勤務になるから」

「ありがとうございます」

と、千紗はお礼を言ってひとみと塾を後にした。

「千紗さん、千代行きませんか?」

「居酒屋千代?」

「はい。この前、広坂塾長と授業の後に行ったんですよ。外見は幽霊屋敷ですけど、店内はスッゴく清潔感があって、きれいなんです。しかも、安い」

「じゃ、いってみようかな」

2人はタクシーを捕まえた。


「お客様、どちらまで」

「居酒屋千代までお願いします」

「お姉さん達は、飲んべえだねぇ」

「はいっ」

タクシーは居酒屋千代まで向かった。ワンメーターだったが、千紗が運転手に千円札を渡し、お釣りは受け取らなかった。

運転手は、

「ありがとうございました。たくさん飲んでね」


2人は暖簾をくぐった。

「いらっしゃいませ~」

「こんばんは」

「あっ、ひとみ先生、お久しぶり」

「今日は、世界史の先生を連れてきたのだ」

ひとみは数学担当だ。

「初めまして、居酒屋千代の凛と申します」

「初めまして、小林千紗です。よろしく」

2人は先ず、おしぼりで手を拭いてから、付きだしの枝豆を見て、生ビールを注文した。

「お待たせしました~」

バイト君が生ビールを運んできた。

「あらっ、折田君?」

「こ、小林先生」

「ここで、バイトしてたの?」

「はい」

「ま、秘密にしといてあげるから」

「ありがとうございます」

折田は逃げるように、調理場へ戻った。


「かんぱ~い」

2人は喉を鳴らして、生ビールを飲んだ。もう、男に興味無いのか、いちいち所作が荒い。

「ねぇ、千紗さん、結婚諦めてない?」

「男なんて面倒くさい。ひとみちゃんこそ、わたしより若いくせに」

「わたしは、もう男にはこりごりなんです」

「空いてるカウンター席に男座らないかなぁ~」

「そう、都合良く出来ていないの世の中は」


ガラガラガラ


「やぁ、凛ちゃん」

「いらっいませ~、あっ藤岡さんと三浦さん」



「千紗さん、男の声してますよ。こっちに来た。2人はとも、サラリーマンですよ」

「座るかな~?」

「あっ、座った」

「なんだよ~、中年のオッサン2人組だよ」

「ブッブー、今夜はハズレでした」

「見てよ、千紗さん。オッサンって、おしぼりで何で顔拭くのかな~、あーあー首筋まで拭いてる」


1人の中年がこっちを見てにらんだ。

2人は直ぐに視線を外した。

かわいそうに、折田君はオッサンに説教され、何故か最後に千円札を渡している。

この、オッサン2人組は一体、何者なのか彼女は興味を持った。

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