理由
窓を閉めながら彼は寒いとペラペラな言葉を続けた。さっきまで窓全開にしていた人が良く言うよ。ペタペタとスリッパが床を叩く。すんすんという音が気になり少し見やるとぎょっと目を見開いてしまった。ラスト一枚というところで彼は寒風に吹かれながら泣き出していた。結局。さっきまでのひょうひょうとしたフリもどこへやら、鍵から手を離し学ランのパリッとした袖口で目を擦り切れるほど擦る。
ただ何も言わず私から窓一枚分離れた距離に私にすら目もくれない。私はただそばにいた。理由を話してくれずただ泣き続ける人気者の彼もきっと泣きたくなるそんな事情もあると一旦そこで落ち着かせ、ビクつく彼の男らしい背中に手を当てゆっくりと摩る。オレンジ色の生暖かい光に照らされる私たちははたから見たらどう思われるのだろう。そう思った瞬間頭に浮かぶ彼氏の存在。
「どうして泣いてるのか聞いてほしい?」
と少し和まそうと言ったがそこからは何も言わないし動こうとしない。
「胸が痛ぇ」
呻きながらもようやく聞こえたそんな一言は少し揺らぐものがあった。慰めてあげたい。抱きしめて大丈夫だと声をかけたい。が、大切な彼氏のこともある。そこはぐっと耐え、続けて彼のそばにいた。
先の言葉がストッパーだったらしい。今度は両手で顔を覆い本格的に泣き出した。こういう事には慣れていない。やっぱり大丈夫?と声をかけるべき?逆に情けなく戸惑ってみる?最善策が思いつくことなど無く、彼の呼吸が落ち着くまでそれに耳を傾けながら一緒に冷たい風に叩かれた。多くを語らず何をするにも今はつらそうな彼のそばに立つことしかできない。そんな私の頭の中は、正直、焦りと若干の気まずさ、彼氏への罪悪感でいっぱいだった。
夕日が沈み切り残光が教室を照らす頃、彼は目から零れ落ちた感情の跡を擦り上げ私の方へ向きぎこちなく笑いこう言った。
「ナイショな!」
その言葉に「分かった」とたった一言、まんま思ったことを伝えた。少し安心したような彼は、大急ぎで荷物をまとめ手を振りながら
「じゃあな荒田」
と教室を出て行った。置いて行かれた私は少し感覚が残る手のひらを少し眺めた後、チャイムに背中を押され早急に家へと帰宅した。
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