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この男からは、何か不穏な気配を感じる。魔物、ひいては魔王にとって良くない、神聖な気配が。あくまで勘のようなものだが、殺すことは容易なことなので、さっさと殺して後顧の憂いを断っておく。
魔力を練り上げる。
中空に、30センチ程度の魔法陣が浮かび上がる。
使用する魔法は、火の玉。先ほど、冒険者の胸を貫いた魔法だ。
魔法陣から出た、火に包まれた岩はゴウッという音を立てながら、凄い速度で人間へと向かう。
人間の男は、笑っていた。
笑いながらこちらの攻撃を避け、こちらに一太刀浴びせようと、攻撃を仕掛けてくる。距離を詰められると、魔法使いであるこちらが不利だ。思ったより動きが鋭く、意表を突かれた。
魔力を練り、位置をずらす。人間の剣は先ほどまで居た場所を斬り割き、剣は空を切る。
「は、ははっ!」
「……なぜ、笑っているんですか?」
攻撃は、こちらに届いていない。未だに圧倒的な差があるはずだ。
「……魔法の可能性を、見れたからだ」
「それを知ったところで、今あなたが死ぬことは変わらないんですよ」
「だとしたらいつか、俺の代わりにお前を殺す奴が行くだろう」
「戯言を」
もう容赦はしない。先ほどの火球を10個、中空に浮かび上がり狙いを定める。人間の男は残念ながら、空中への攻撃方法を持っていないため、こちらを鋭く睨みつけている。
「では、いつか私を殺すだろう人間をお待ちしております」
火球は男に向かい、連続して男に当たり、10個の弾がそれぞれ爆発していく。爆発が終わり、そこには火球によって抉れた地面だけが残っていた。
「……流石に死にましたね。先ほどまでの、嫌な感覚がありません。勇者の剣は見つかりませんでしたが、とんだ拾い物をしました」
魔物は、満足して帰っていった。
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