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孤児たちと、何度か一緒に狩りに行った。行くたびに彼らは成長するため、もう既に俺よりも魔物狩りに関していえば、上級者だろう。
(もうついていけないな……)
子供の成長は早いというが、あまりにも早い。弓を使う冒険者を、講師としてつけたのが良かったのだろうか。今は、前衛と後衛のバランスが良く、スムーズに狩りを行えている。
一週間しかない俺は、どうしたって成長に限界がある。こうして子供の成長を見ていると、少しだけ悲しくなる。
(貴族で良かった……)
もしこれが平民だった場合、俺はいつまで経っても成長しない、中級冒険者の域を抜けなかっただろう。今世の生まれに感謝だな。
助けてくれっ!
遠くで、叫び声が聞こえる。チラリと子供たちをみると、こちらに視線を向けていた。声をかけ、叫び声が上がった方角へ走り出す。辿り着いた先では、胸に大きな穴があき、倒れている冒険者2名と、その前に立つ2足歩行の魔物がいた。
魔物はローブを纏い、大きな杖を持ち初老の人間のように腰を曲げ、杖を地面についている。そして頭からは、二本の角が生え山羊のような見た目をしていた。
「なんですか、あれ……」
「……」
知らん。少なくとも、俺が読んだ本には載っていなかった。この辺には、生息しない魔物だろうか。チラリと、倒れた冒険者をみる、体の真ん中にあいた穴から、相手の力量の高さを伺える。
(まずいな……)
勝てるだろうか。まさか、異世界に転生して初めてのピンチが、こんな急に訪れるとは。
「……あなた、何か不思議な気配がしますね」
「――驚いた。魔物って、人間の言葉を話せるんだな」
昔読んだ内容で、戦時中に相手の国の言語を覚える、という内容を見たことがある。相手の国の言語を覚えることで、相手の作戦が分かったり、潜入捜査ができるといった内容だった。魔物が、人間の言葉を理解できるということは、そういったことも今後加味していかないといけない。
「んー……まあ、殺してしまえば関係ないですね」
まずいな、勝てそうになさそうだ。
「――全員、全力で逃げろ!」
子供全員に、声をかける。狩りに慣れてきたからと、最近は護衛を連れてこなかったのは不幸中の幸いか。犠牲になるのが、俺だけで良かった。
「貴族様を置いて逃げれません!」
「そうです、僕たちも戦います」
嬉しいことを言ってるくれるのはありがたいが、今はそういう茶番をしているような余裕はない。
「いいからさっさと、ここは俺に任せて先にいけ」
一度は、言ってみたかったセリフだ。死ぬ前に言えてよかった。
「領主の館に行って、援軍を呼んでこい。それまで、俺が食い止める」
「ですが……」
「これは、貴族の命令だ。大人しく従え」
「……」
ようやく折れてくれたのか、街に向かって走り出す。律儀に、こちらを待ってくれていた魔物にお礼をいう。
「待たせて悪いな」
「いえいえ、別に狙いは貴方だけでしたから」
いったいどこで、魔物の恨みなんて買ったんだろうか。
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