第5話 配信者野郎をわからせる
「もっ、妄想だ……俺はただ香月さんの為を思って」
「香月さんの為だと思った実際の行動が、クラス内の女子達に伝わったらどうなるだろうな」
「ど、どうやって友達もそういない浅丘にそんなこと――」
ああ、確かに教室内で避けられている俺が噂を広めようとしても無駄だろう。
その点に関して、もし俺に出来たとしても磯崎が嘘偽りだろ叫べば簡単に覆されてしまう事も認める。
だが――。
「簡単じゃないか。鈴芽を通して伝えればいい」
「つっ、告げ口とか、情けねぇと思わねーのかよ」
「情けない? だったらそりゃ、俺の台詞にもなるんだが」
「は? 俺は告げ口なんてしねぇぞ」
「まっ、そうだな。告げ口すらも……手下を引き連れないと威勢を張れないからだろ?」
「なっ!?」
他人を頼って何が悪い……一人では睨むことしかできなかった磯崎がこうして威勢を張れているのは、後ろの二人がいるからに違いないだろ。
だから俺はさっき磯崎が口にした台詞を一言一句違わずそのまま返す。
「香月さんはお前が話しかけていい存在じゃねえんだよ……なあ」
「……っ! 煽ってんじゃねぇ!!」
「おいおい、そんな怒るなよ」
「おい! てめぇらも何か――」
すると、磯崎の後ろにいた男子二人が動揺を見せ始めていた。
なるほど……磯崎と違って彼らは以前と違うらしい。
「も、もう辞めようよ、磯崎くん」
「カッコ悪いって……言い負かされるくらいなら俺達だって付いて来なかった」
この腰巾着二人もまあ質が悪い。
嘲笑を我慢する顔から察するに、最初からあわよくば裏切る気満々だったみたいだ。
それもそうだ……吸えない蜜に寄っていく必要性がない。
しかし、そうと決まっても以前から磯崎に従っていたイメージは残っている。
この二人はイメージを取り去り、磯崎にマウントを取れるチャンスを待っていたという訳だ。
バンドワゴンに乗るタイプはカースト意識の強いMクラスに結構多い。
特に俺と同じ二軍。
加えて磯崎がそんな発想には至れなかった事も一因だ。
以前まで一軍だった頃の意識が抜き切れていないからこそ、危機的状況になってまで言う事を聞くと思い込んでいたのだ。
でなければ、こうして足を掬われることもなかっただろうに。
プライドなんて無駄なものに幻想を抱いているから挫折するんだ…………かつての俺のように。
「お前ら……」
「残念だね、磯崎くん。君の友達は三軍にまで落ちたくはないそうだ」
「ひっ、何を言って……」
「ややっ、やっぱり浅丘が黒幕と繋がっていたんだっ」
すると、付き添いの二人が妙に怯えを見せ始める。
加えて、一方が口にした『黒幕』というワードに磯崎も動揺を見せ始めた。
「おいおい、そんな訳ないだろ……ハッタリだぜ、お前ら」
「でも、磯崎くんが降格したのは本当じゃんか。僕はやだよっ」
「というか、浅丘の言う通りじゃん。磯崎、お前もう終わったんだよ……霜鳥くんとかと同列だった時代は終わったんだよ!」
「は?」
元々磯崎とこの二人の間に、友情と呼べるような仲はない。
あくまで磯崎に対する恐怖から渋々従って俺のところへ来たのはすぐに察した。
だから、俺に対する恐怖が磯崎に対して抱いていたものを上回れば、結果は見ての通りだ。
「うっ、裏切るのかよ、お前ら!」
「そういえば配信活動でも香月さんと同じ一軍だって言っていたけど、それももう古い情報じゃん」
「そうだそうだ、詐欺はダメだよ、磯崎くん」
「…………」
手下扱いしていた友人に手のひらを返された磯崎は絶句していた。
如実に青くなる顔色。現実から逃避するように自然と荷物を背負って、そのまま逃げてしまった。
「あっ、浅丘……くん」
「ぼ、僕達は見逃してくれるんだよね?」
「ん? 何言っているんだ。安心してくれ、俺は黒幕となんて繋がっちゃいない」
「う、うん。そっか。じゃっ、俺には何も――」
「ばかっ、変な事言うな! 僕たちは何も聞いてないから、それじゃあ」
「お、おう」
俺に対して用がない二人もまた颯爽と去ってしまった。
さっきまで磯崎には容赦なかったのに、やっぱり俺の方は怖いのだろうか。
俺も同じ二軍なんだけどな。
「それにしても、黒幕か……」
クラスメイトの噂によると、それはMクラスのカーストを裏から操っている存在らしい。
正体は学年でも数人しか知らないらしい……知っている人物もまた誰なのかわからない。
正に黒幕だ。
Mクラスのカースト自体は学内掲示板に貼ってあるスプレッドシートに乗っている。
時々、シートの管理者である黒幕が生徒の立場を改竄するのだ。
裏でハッキングをして知ろうとする生徒もいたみたいだが、そもそも学内掲示板のセキュリティが高すぎて弾かれたらしい。
高性能AIによって常時監視、完璧な匿名性と言論統制が成された学内掲示板に不正アクセスしようという魂胆が論外だった訳だが。
まあお陰様で軽い脅しになる……俺が本当に黒幕の関係者だろうとなかろうと、だ。
時々くんが以前俺に絡んだ後、偶然にも黒幕が手を下してくれたお陰で、俺が黒幕の関係者だって思い込んでいたみたいだし。
うん……でもこれでまた俺、みんなから恐れられそうだなぁ。
もう手遅れだし、その方が平和でいいんだけどね。
そんな時、背後から足音が聴こえた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます