18.
57.
「随分にぎやかな雰囲気の村になってきたんだねぇ」
と俺は村の長を務める青年と談義をしながらそんな感想を抱いていた。
というのも最初の頃とは雲泥の差といって過言ではなく、当初はまるで死にかけた老人がひとりぼっちで住んでいるかのような感じだったが今では村人同士で会話をしたりしながら暮らしている姿が多く見受けられるようになっていた。
「本当に皆さんのおかげですよ」
彼の感謝の言葉に対して俺は肩をすくめるだけに留めた。
それに関しては全てこちらの手柄だとかそんな意味を込めたつもりで あるから相手もその程度のことはすでに承知の上であった。
「ところで……君は勇者について知っているかい」
唐突に話題を変えてきた。
俺は知らないと答えた。
すると
「君と同じ境遇に立たされた人々の大半はその後の人生において様々な災難に見舞われるケースが散見されているんだよ」
例えば、ある者は突如現れた凶悪な魔王によって家族を奪われ、残された財産をすべて奪われたり、挙句は奴隷商人に売られそうになったりと散々な目に遭うことが多いそうだ。
そうなる前に逃げ出すことも
考える者もいたが、
「この辺りは治安が最悪だからね。どこも安全じゃない」
その一言で押し切られる格好となった。
確かに彼の言うとおりだ。
この街で暮らす者達は基本的に弱い立場にいるのだから。
故に結局は元の世界に戻らずこのままこの世界で一生を終える覚悟をするのが大半を占めるようになったという。
そしてそのせいで帰るに帰れなくなってしまったのが実情という訳だ。
「だからこそ僕は君のことを応援することに決めたんだよ。せっかくの機会なのに手ぶらじゃつまらないよね! 僕が出来る範囲ならば何でも協力するし遠慮無く頼ってくれても構わない。お金については当面の間は心配しないでも大丈夫だと思うけど足りないようなら相談してくれればいくらでも融通を利かせるしなんだったら投資という形で出させてもらうつもりだよ」
「そういえば……あなたはどうしてここに来たんですか?」
俺は質問をぶつけることにした。
何気なしに聞いたことではあるが実は結構気になっていたりする内容でもあったのだ。
だってそうだろう、
「もしも何か困ったことがあったときは是非ともご連絡ください。その時は全力で力になりますのでどうかよろしく頼みます!」
まさかこんな台詞を言われる時が来るなど誰が想像できるというのか。
少なくとも俺は思わなかった。
「私は商売のためにやって来ました。と言っても表向きは本屋なのですけれど……」
……なるほど本屋の経営者ということらしい。
それからというもの彼との交流が始まった。
向こうは俺のことを応援してくれたらしく、彼が持っているコネクションを駆使して本を格安で譲ってもらうことが出来た。
その数ざっと20冊程度。どれも貴重なものばかりであり、今までで一番のお宝といえるくらいの価値はありそうである。
しかし、それ以上に重要なことがある。
それは魔法についての知識が得られる本が含まれていることだった。
58.
「もし良ければ一緒に冒険をしてみないか? もちろん強制はしないし断ってもらっでも一向にかまわない。だけど 実際に会えるのであれば出来る限りは便宜を図ってあげたいし お互いにとって利益が生まれる関係になりたいと思う。それが僕の願いだ」
などと提案をしてきたが、 色々とあって断る羽目になったが、 その理由というのが、
「あの……悪いんだけど……冒険はしばらく休みたいなと思っている。俺自身は、 大した人間でもないし、魔法についても初級レベルで満足してしまっているし、そもそも今の俺の状況で冒険者を続けられるかどうかもよく分からないし。何よりも仮に冒険者として 活動している最中に敵に襲われて俺が死ぬ可能性も充分にある。実際、命の危機を感じた場面に遭遇したこともあるから分かるだろ? こう見えて昔は戦闘経験があるからある程度の対処は可能だと思っていても世の中はそういう理屈通りに物事が進むとは限らないからな」
「ああ、理解は出来た。それでいい、無理強いするつもりはない。それに最初から上手くいく奴なんてこの世にはいないから変に意気込み過ぎるよりは現状維持を目標に頑張ってもらえればいいかなって。ただし、魔法の方はいつか学んでみると良いかもしれないぞ。今後そういった機会が訪れる可能性もあるだろうしあくまで可能性の話でしか無いのだけれどもさ。とにかく人生は何が起こるかわかったもんじゃないんだ。希望を持つだけでも持ち続けてみるのは決して悪くないと自分は思うわけですよハイ! そう考えた上での結論として今回は身を引くことにした」
というようなやりとりがありそれ以降この本と出会ってからは積極的に活用することにしたのである。
今となっては立派なコレクションの一角になっているが、やはり魔法使いを目指す者が読むべきなのは必須であると
判断するわけです。
そんなある日のことだった。
「ねえ、ちょっと聞きたい事があるの!」
と急に声を掛けられたと思ったら例の女性からのものだった。
一体どうしたというんだろうか……。
とりあえず話を聞いてみることにしよう。
彼女は【名探偵】の称号の持ち主で、その名前はルーナ・ディライト。
とある事情から、今は亡き父親の跡を継いで探偵として活動しているとのこと。
何故に探偵をしているのかというと、この世界では憲兵の代わりに探偵と呼ばれる職業が存在する。
といっても、普通の憲兵もいるにはいるのだが、その性質上、魔物などの討伐を主として活動しており、いわゆるモンスターバスター的な側面が強いので、それ以外の事件や犯罪を主に取り扱うのが
探偵の役割となっている。
当然のことながら、探偵は単独で仕事を請け負うこともあり、
「その報酬としてもらった依頼書の中にその魔道具らしきものが 描かれていたのを見てつい飛びついたのよ。そうしたらここに行き着いた次第で……。そういえばあんたの自己紹介がまだ済まなかったわね。あたしも名前を教えたんだし そっちも教えてくれたらいいわ。あ、ちなみにこれは善意で聞いているだけだから別に深い理由があるとかは気にしないように。ほら早く答えなさい」
「分かった分かった。俺の名前はユウト。
それと詳しい事情は言えないが、旅をしていてな。しばらくの間この村に滞在しようと思っていたところなんだよ」
「ふーん、そう」
いまいち興味を示さずに
自分の推理を語り始めた。
「その店は最近流行っているものなの。噂によればなかなか品揃えが良いみたいだし、それに加えて珍しい商品を置いているっていうことで有名なの。そこに行った人がこいつを売ろうとしていたのを見たの。この紙に書かれているものは魔力を増幅させる指輪であることは間違いないはずよ。その証拠に私が鑑定した結果 ではそう結果が出た。ちなみにこいつの名前はヘルバリングと言うの。そいつを持っていった後にどうなったかも調査済みなの。それによると、どうやら他の客とのやり取りの中で売り渡しちゃっていたことが発覚。つまり、あんたが手に入れたのはこれなの」
「つまりお前の勘違いだということだな?」
「いや……うん。まぁ……ねぇ」
少しばつが悪そうな顔をしている。
59.
恐らくだが、
「この話はもう終わり! はい終了!!」
これ以上は喋らないだろうと判断した俺は話を打ち切りにするべく強引に
話題を変えてみたのだがそう簡単には引き下がってくれそうにもないので仕方が無い。
適当にあしらうとするか。
「ところで、ひとつ訊き忘れていたんだがどうしてここまで追いかけてきたんだ」
「えーと、そのー。あれはね」
何故か頬が赤くなっている。
もじもじとしている。
もしかするとお手洗いに行きたかったのかなと思い、
「そう言えば、用件が長引いてすっかり言いそびれていたけど」
そう言いつつスカートに手を掛けようとしている。
「おい待て」
流石にいきなりの展開だったので俺は即座にストップをかけた。
だがこちらの制止の声が届くことなく、目の前でスカートを脱ごうとする姿が映る。
ちなみにこの時俺は素早く目を閉じて視覚情報を遮断していた。
ここで目が慣れてしまうと非常に危険なことになるので本能的に取った行動であった。
そうして、彼女の脱衣シーンが終了した。
ちなみに下着は純白のレースとピンク色の花模様が描かれた代物で見た目だけなら清楚系美少女。
「どうだった私のショーツ姿は?」
「……」
黙秘権を行使させて頂く。
「そっか、そっち方面はあまり好きではないと。となると別の攻め方を考えないといけないか。
こっちの世界では異性愛が一般的だからこういうアプローチの仕方はむしろマイノリティに属するという訳か。
勉強になった。それじゃ改めて聞くことにする」
そこで一度言葉を切り、深呼吸をしてから再び口を開く。
しかも先程以上に声を大きく張り上げて
「ねぇ、抱かせてくれませんか?」
俺は反射的に立ち上がって逃げ出そうとしたが、すぐに回り込まれてしまった。
「ちょ、何で逃げるの。これでもそこそこ名の知れた女なの。捕まえるのは簡単だけど、
後で面倒なことになっても嫌だからきちんと手順を踏ませてもらっただけよ。
というかさっき見たでしょ。私は男に対してはかなり積極的なタイプだからそこは誤解しないで欲しい」
否定はできない。というより嘘偽りのない事実だった。
「正直言うとその気になればいつでもどこでも相手する準備はあるけど、
今はそれより大事なことがある。だからこれからする質問に対して素直に答えることを約束して欲しい。
場合によってはお願いしたいことがある」
俺は渋々了解をした。
「ありがとう。じゃ、早速聞かせてもらうけれど、 あなたは元勇者パーティーにいた雑用係なの?」
唐突にとんでもないことを聞かれた。
どういう訳か俺の正体を見抜いてしまったらしい。
そんな馬鹿な!?
俺はごく平凡な一般人だというのに…… もしかしたら彼女も勇者なのか?
そんな疑問が湧いたが、俺はそれを否定する。
「何を考えているのか知らないけれど、私もれっきとした人間。
生まれも育ちも至って普通。両親も健在だから安心してくれていい」
それを聞けてホッとしたが同時にまた新たな謎が生まれてきた。
俺が混乱していることを悟ったのか、
「説明不足で申し訳無かった。まずはそこから話す必要があるようだね」
そして語り始める。
「私はこう見えても結構凄腕の探偵なの。
だからといってただ単に事件を解決すればいいってだけの単純な仕事じゃない。
時には、尾行をしたり、情報を集めたり、裏工作をしてターゲットを追い詰めたりも したりするの。
そういう地味な作業を地道にこなしていくことで信頼を積み重ねていくのが重要なポイント。
さらに今回の場合は特定の人物が起こした問題を解決するのが一番の目的になる。
そう、今回君が引き受けたのは単なる泥棒退治という訳ではない。
そもそも君の知る窃盗犯は犯人本人ではなく、協力者の方だ。
でも、君の話を聞く限りだと協力してくれる気配は無いと見て良さそうだよね」
俺は小さく首肯する。
「それがそうでもないの。何せ相手が怪盗アルセーヌ。
こいつは厄介極まりないことで有名なの」
何が問題なんだ? まさかとは思うが……
「彼の使うスキルは相手の記憶を書き換える。そう、文字通りのチート級のもの。
具体的に言うと目撃者の記憶を弄ることだって出来るし、逆に関係者全員を消すことさえも可能。
さらには、その気になりゃ世界をも改変出来るほどの力を持っている。
まさに最強にして最悪の能力の持ち主ってこと」
「なるほど……」
「それだけに対処法も限られてくる。その対策を練るためにもこうして直接接触を試みたってわけ。
それにしてもまさかこんなに可愛い女の子が出てきてくれるなんて思わなかったでしょ」
その通りだ。
「嬉しいこと言ってくれた礼にいいものを見せてあげる。
この薬を使うといい。一時的に身体能力をアップさせることができる」
差し出されたものを飲めば体が軽くなり、力が沸々と湧き出してくる。
「これで大抵の問題は解決できるはずだから」
なるほど、確かにその効果は絶大だ。
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