17.

53.

目的地はここから遠く離れた田舎町。

そこで冒険者ギルドに所属している人たちと一緒に、薬草採取の仕事をすることになる。

徒歩での旅となるので到着するまでかなりの時間を要することになるだろうが、

仕方がないことだ。

荷車に揺られて、山道を抜けていく。

道は平らになっているが、やはり馬車のような乗り心地とはいかない。

かなり揺れるので乗り物酔いを起こす人も出てくるくらいだ。

途中、休憩を挟むことになり、各々自由に過ごす。俺もその一人である。

するとそこにやってきたのは

リアリスである。

さっきの一件もあり、彼女と顔を合わせるのはかなり躊躇われていたが、ここで避けていても意味が無いので、なんとか覚悟を決めて向かい合ってみる。

そして互いにしばらく無言の状況が続く。先に動いたのはこちらだった。

「えっと昨日は話の途中で勝手に帰って悪かった。反省してるよ」

そう言って、深く頭を垂れる。

しかし、謝られた側は何を言われたか分からず呆けた顔をしていたが次第に落ち着きを取り戻したらしく

「うん、いいのよ気にしてないわ。私だって急に来て変なこと聞いちゃったし」

と俺の謝罪を受け入れて。

そして彼女なりの見解を述べ始めた。

それは今朝話していたことを纏めたもので、俺がどうしても信じられなかったものでもあった。

つまり、あの子は過去に誰かから無理矢理何かを奪われたのだと思う。

恐らくその人物は貴族か何かで、少女を攫って自分に都合の良い人形にしたんだと想像がつく。

どうしてその結論に至ったかというと、単純にあの子の容姿とその内面が一致していない点が多かったのが原因である。

例えば食事時の雑談中に、たまにぽろりと言葉が出てくることがあったがその中身はまるで夢見る乙女みたいな内容で違和感しかなかったわけである。

そして、今回確認できたのはそれだけじゃなくて 、それは初めて出会った場所と同じ村だという可能性が高まっているということだ。

それが事実なら、彼女をもう一度救い出せばきっと笑顔を取り戻してもらえるような希望が生まれるはずだ。

そう考えるとやる気が増してきて自然と頬の緩むのを感じた すると横にいた女性がからかい半分に絡んで来た。

どうやら顔に出ていたらしい。

普段の行いが悪いせいなのか疑っていると思われたみたいだけど。

そんなこんながあって楽しく道中を過ごすことが出来ましたとさ。

結局出発してから数日の間は野宿が続いていた。そのことについては特に不満はない。

ただ少しだけ心配なのはこの辺りの治安があまりよろしくないという情報があったからである。

なんでも、夜になると怪しい影があちこちで目撃されているようで、その中には人を襲うものも少なからず存在しているとか。

なので夜の見張りの際には、交代制にして皆で起きておくことになっている。

俺は一人だと狙われやすいので、二人以上で組むように言われておりエレナと組んでいる。

そして寝床についてだが、基本的には交代で番をしつつ他の人と交互に休む形を取っている。一応男女別で分かれていて、男の方では俺以外の三人で順番に回している。

で、今回は俺のところにやってきたのはユリィ。女の子と一緒なんてドキドキしてしまい眠れるか不安だったが意外とあっさりと眠りにつくことが出来た。

というのも緊張や興奮が収まり安心感を覚えたのが原因で 。

そういえば俺のステータスが上がっていたことを思い出したので確かめてみると、レベルが6まで上がっていた。

これは中々凄い成長の速さのようだ。

その反面、俺の体力や筋力といったパラメーターは伸び悩んでいたりする。

54.

「なんだかなぁ……もっと強くなりたいぞ」俺は思わず口走っていた。

今の自分では決して届かない領域に届いてこそ真の意味で強者となれると

俺は確信している。

もっともそれを達成するにはそれなりの才能と努力が必要なので決して

楽ではなかったが。

まあそんな感じで翌日は午前中に軽く身体を動かすため訓練場に行き、それから午後からは薬屋に向かって店の売り上げに

貢献していた。

主に商品の補充のためのものだ。

「これで大体大丈夫かな」

お客が少ない時間帯を狙って店の棚からありとあらゆるポーションを買い占めるように

購入する。

それを眺める店員の視線が生暖かいのは俺が金遣いの荒くかつ大量のお金を所持しているためだろう。

「全く君のおかげでウチの財布はすっからかんだよ」

彼女の口から愚痴が漏れた。

それでも怒っていないのは俺とそこそこ親しくなっているからであろう。

俺はこの街でやることが終わり次第、旅立つつもりだから関係を切ることも考えれば今の内に仲良くなっておくのは

損がないと思った。

それから支払いを終えると

今度は教会へ向かった。

こっちは用事の関係で訪れなければならなかったからな。

まずは受付の人に声をかけて用事を済ませることにした。

内容はこの街にいる人外と戦う機会を増やすというもので、要は魔獣狩りの仕事を受けましょうという誘い文句であった。

「申し訳ありませんが、危険度の高い仕事が多いために紹介できるのは現在、1つしかないんですよ」

と言ってきたのでとりあえず詳しく話を聞かせてくれるよう頼み込むことにした。

で、聞き出せた話が以下の通り。

依頼主の名前はアーシア・イライザ。

性別は女性で年齢は30代半ば

ぐらいの見た目をしている。

元々はこの教会の神父であった人物で、最近になって独立して商売を始めたらしい。

で、

「魔物討伐をメインに扱うことで安定的な利益を上げてきたんですけど……」

ここまで説明すると一呼吸入れてから再び続きを語り出す。

最近の世の中は物騒なので、安全の確保するために強力な装備を買って貰えるとありがたいとのことだった。

ただしこれには条件があり、

「まずは私の店を気に入ってくれること。

もし、購入されたらその後は贔屓にして欲しいということ。

その他もろもろ……ま、ざっくり言えばお得意様になってほしいということですよ」

お得でしょ、と笑いかけてくる。

確かに値段が安いので儲けはあるのだろうがリスクを考えたら割に合わない気がするが。

とはいえ別に構わないけど。

それにしても彼女のような存在もいるということは まだ世の中には色々な意味で救われて生き残っている人もいるのかもしれない。

その後も幾つか会話を交わした後、俺は立

ち去って自宅に戻る。

55.

そして部屋にこもった後、

とあるスキルを発動させる。

【超解析】。

その効果はアイテムの効果を知ることが出来るというものである。

勿論、相手の名前が分からないことには調べることは出来ません。

さらに使用回数が限られるので気軽に使えるものではない。

しかし、これが非常に便利な能力であることは確かです。

仮に自分が使えないものでも他人が使っている場面を見れば何が出来るのか

分かるのだから。

でも、逆に自分の欲しいものが既に持っている人が近くにいれば手に入れる方法を教えてもらえるのだから。

そう。

俺が手にしたいものは

間違いなくあるはずなのだ。

早速試しに使ってみるとしよう。

対象は回復系の回復魔法が記された本。

ジャンルは【空想小説】

この2つで検索をかける。

すると、該当する項目がヒットした。

それは全部で3冊あったが、

その中でも一番薄いのを選ぶことにする。

題名は

『女神の微笑み』

著者名はアイシャとなっている。

どんなものか興味があったがまずは買ってみてからのお楽しみということにする。

続いてはリリスとの再会に備えるために

【肉体改造】を習得するべく 鍛錬を始めようと試みる。

方法は至極単純明快なもの。

それは己を鍛え抜くのみ!

まずは【肉体強化】から始めていく。

そのあとに【精神操作】。

そして最後に【特殊技能】を取得。

これによって準備は完了だ。

明日は早いから今日は早めに切り上げて、

部屋に戻るとする。

いつものように朝を迎える。

窓から差し込んでくる太陽の光によって

起こされる形で目を覚ます。

「よし、やるとするかね」

1階にある食堂で食事を摂ったあと、

外出の準備をするため自室に戻った。

これから向かう場所は街の中心地。

そこにはギルドと呼ばれる組織が存在し、

そこを訪れると冒険者として登録することが出来るのだ。

この世界の身分証を手に入れるためには絶対に必要であり、無いと色々と

不便だったりする。

で、今は早朝。

まだ殆どの人は眠っている時間。

俺が行く理由は、昨日購入した本がいつの間にか手元になくなっているからだ。

恐らく盗まれてしまったのだろう。

となると、犯人の可能性があるのはこの時間ならまだ起きている可能性が高いギルドの関係者かもしくは別の組織の人間ということ

になる。

いずれにせよ、捕まえて締め上げる必要があるわけだ。

「さて、いきますか!」

俺は愛用の大剣を持って街に出た。

目的はもちろん盗難の被害届けを出しに行くことである。

【名探偵】で追跡した結果、犯人たちの拠点はここから遠く離れた場所だということが分かり、転移を複数回重ねてなんとか辿り着くことに成功した後は見張り番をしていた相手を適当にいたぶったりして、相手が意識を失っている隙を見計らって盗品の入った鞄を奪取することに成功した。

で、無事に【偽装】で所有者を書き換えて元の持ち主に戻してあげると その場から離れようとしたところ、ふと疑問を抱く。

【創造】を使えばこういったことも出来るのではないだろうか? と……。

実際、出来るか出来ないかという部分だけで考えたら余裕で可能だ。

56.

「んーやってみるか」

ということで実験を

開始することにしました。

といっても、さすがに街中ではやばいと判断したので人気のない場所に

移動して行う。

幸いにもそこは廃墟になった建物で人の気配は全く感じられなかった。

そこで早速取り掛かる。

使用するのは以前作ったオリジナルレシピのポーション類である。

その数は100以上に及ぶ。

それらを全部分解して、必要な成分を抜き取る作業を繰り返し行うことで

遂に完成した。

所要時間はおよそ5分と

いったところである。

「ま、こんなもんでしょう」

ちなみに出来たものの効果だが、

端的に言ってしまえば自身の魔力を一時的に増やすものになる。

つまりドーピングのようなものである。

この世界にはステータスを上げるための道具がいくつか存在しており、そういうものを揃えることで自身を強化していこうという考えである。

他にも属性付与が可能なもの、毒を無効化するものなど様々なバリエーションが

存在している。

そのあたりは追々、考えてみるとしてひとまず今は戻るとします。

帰りはもう面倒だったので普通に帰ろうと門を通り過ぎてそのまま通り抜けて村まで

帰ってきた。

その道中に思ったのが、どうせならレベルをもっと上げたいということだ。

今のままでもいいといえばいいのだが、

「やっぱり高い壁があるなら越えたくなるのが人間の心理だよな?」

なんてことを言いながら森に入ると先日の教訓を活かしてより慎重に進んでいく。

途中で何度かモンスターに遭遇することもあったが難なく倒すことが出来ていた。

そして夜が明けた頃にはレベルが8まで上昇していた。

相変わらず体力や筋力といったパラメーターの伸びが悪いが、それもじきに慣れていくことだろう。

そう思いつつ次の日の朝を迎えた。

この日は朝早くから行動を開始した。

というのも早くしないと売れてしまう可能性が高くなるからである。

その店は郊外にあり、立地的にはそこまで恵まれているわけではなく、更にはその店が扱っている商品の種類がまた特殊なためなのかあまり知名度は高くないみたいで、

「あまり良い買い手が見つからないですね」

店員の女性が呟く。

ちなみに店主でもある彼女がここの責任者のようである。

一応、前情報によれば商品自体はちゃんとしていて質も良いと評判なんだとか。

それでも売り切れてしまいそうなのでこうして足を運んでいる次第。

そして店内には多種多様な商品が並べられているが お目当てのものは

まだ発見できていない。

だがここで諦める訳にはいかないので、店員さんに案内されて店の奥へ。

「これとこれを」

そういわれて指差されたのは一組の指輪。

銀色に輝くシンプルなデザインをした代物で、石には赤色の輝きを放つ宝石が

使われている。

「ほうこれはなかなか。ではこれでお願い致します」

「かしこまりました」

こうして目的のブツを手に入れてほくそ笑むのであった。

あれから数日が経過したが、特に問題が起きることなく日々が平和に流れていった。

村で過ごして分かったことはここは意外と田舎ということだ。

人口はそれなりにいるが、人外による被害が目立つことから住人同士の距離感が非常に近くて皆で助け合いの精神が

根付いているようだ。

しかもその関係で小さな子供の面倒を見たりしていることも多く、中には赤ん坊を抱えている母親の姿も見受けられた。

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