19.

60.

「それから……はいこれを」

今度は剣を差し出してきた。

それはかつて愛用していたものだった。

何故に彼女が?

「ああそれは昔父さんが使っていたものなの。実はその形見でもあるの。大事にしなさい。

それとこれは余計なお世話かもしれないけど、 あんたに足りないものがある。

それは何か分かる? ヒントは目。とにかく相手をじっと見つめなさい。

あとは向こうの方が勝手に話を進めてくれるから。以上。後は任せたわ。幸運を祈るね」

意味不明なアドバイスを受けたものの言われた通りに実行するほか無いだろうし、

他に方法も無いため、従うしかないのだ。

それからしばらくして夜を迎えた。

作戦は万全の状態で臨んだつもりなのだ。

「やあやあ、こんばんは。今宵も良い月ですね」

「どうしたんだ急に?」

突然現れたのは仮面を付けた長身の男性。

おそらく彼こそが目的の人物である。

「まあまあそうつれないことは言わずに一緒に飲み明かしましょうや」

強引に誘われてしまい仕方なく同席することになってしまう。

とりあえず、適当に話を振ってみることに。

「あの、あなたの好きな食べ物は何ですか」

「特にはありません。あえて挙げるならば何でも食べます。

嫌いなものも同様です。基本的に食事は必要最低限に抑えているんですよ。

食べるよりも寝ることで疲れを取るようにしています。

睡眠は人間の活動における最も重要な部分であり最も優先されるべき行為ですからね」

「成るほど」

俺は納得してしまった。

どうしよう、全然会話が成立しないんだけど。

どうすりゃん良いんだよ!

とりあえず酒を勧めておくことにしよう。

俺の持っているワインとグラスは高級な代物であると自負しているがそれでも反応は薄い。

「すみませんが僕は酒は嗜まないもので」

「そうなんですか。ちなみに今お幾つなんでしょう」

「二十五ですけど…… あっ!」

「ん?」

どうも彼は年齢の話には敏感なご様子。

ここは一つ話題を変えなくては……。

そう思い、咄嵯の判断で話題を変えてみる。

「そういえば、どうしてあなたはここにやってきたのですか?」

すると意外な答えが来た。

「ふむ……そのことについては僕の生い立ちについて語る必要がありそうなので、

よろしければ聞いて下さい。そう……あれは十年くらい前の事……僕はまだ学生でした」

その話は思った以上に重かった。

要約して説明すると、彼は元々貴族の家系で生まれた少年だったが親の都合による

家庭の事情によって家を勘当された身であったらしく現在は当てもなく放浪の旅をしているのだという。

当然のことながら帰る場所はもう無くなっているのだがその辺については割り切っているようで、

気にせずにいるとのことであった。

ちなみにその時、自分は何歳だったかは覚えていないらしい。

そうして話し込んでいるうちに酔い潰れてしまったのだが、ここで思わぬ展開が待っていたのである。

目が覚めると俺はベッドの上に横になっていた。

あれは夢ではなかったようである。

「お目覚めの気分はいかがでしょうか」

目の前にいるのは件の人物に違いない。

「おかげさまでよく眠れました。ありがとうございます」

「いえ、これも任務の一環に過ぎないのですよ。感謝される筋合いはない」

「ところで昨晩のお詫びとしてプレゼントを用意したので受け取ってもらえませんか」

彼が持ってきたのは綺麗な装飾が施されたブローチであった。

これは宝石の一種であろうか?

61.

「これは、我が家に伝わる宝物のひとつに過ぎません。

本来であれば このような高価な代物を他人に譲渡することは許されないのですが今回は特例とします。

是非とも貰って頂きたい」

「分かりましまた大切に使わせていただきます」

そう言い残し、その場を去ることにした。

この調子なら大丈夫だろうと思い、依頼人の許に向かうことにする。

そこで彼女は優雅に読書をしていた。

その姿は実に美しく、どこか現実離れしたものに感じられたが不思議と違和感は無かった。

「やっほー、無事に取り戻せて良かったね。それでこれからどこに行く?」

行き先は特に考えていなかったがこのまま別れるのは寂しい気がするので、

もう少しだけ彼女と行動を共にすることにした。

そこで提案をしたのが冒険者組合に行こうというものであった。

理由は二つある。

ひとつ目は、せっかく訪れたのだから記念に依頼を受けておこうということと

もう一つは俺のレベルを上げるのに役立ってくれるというものだ。

そうしてやって来たギルドにて、俺は掲示板の前に立ち、

どのようなクエストを受けるべきだろうかと悩んでいた。

そんな俺を見かねたのかどうか定かではないが彼女に声をかけて来たものがあった。

「そこの新入りくん少しは私達の仕事を見ておいた方が良いと思うぞ」

そこにいたのは赤毛の女性であった。

背丈はそこそこ高く年齢は二十歳前後といったところか。

見た目はいかにも体育会系っぽい。

しかもかなりのナイスバディと来れば男が黙っていないのも無理は無いと言える。

ただし本人は恋愛経験が無いと告白している。

だがそれを信じられなかった者が彼女を手込めにしようと試み、返り討ちに遭うという事件が発生。

それ以来女性からの印象は非常に悪い。

ただ一方で同性の女子からは絶大な支持があるらしい。

その理由に関しては不明だ。

そして何故か俺は彼女に好かれているようだった。

そんな彼女の口から仕事に関する忠告を受け俺は素直に聞くことにする。

そして受付へと向かい、そこで俺達はいくつかの依頼書を見比べることにした。

だがその中でひと際目立つものがあり、それを見るなり思わず溜息が出てしまう。

その名は勇者捜索隊というもので行方不明になったリーダーを探して欲しいというものであった。

その特徴は次の通りだ。

1身長180cmで細身の体型、黒髪。

2常に白いローブを着ており、武器は持っていないとの情報あり。

3性格は極めて真面目で優しく人望も厚い

4性別問わず慕われるカリスマ的な魅力を持っている

つまりイケメンであるということだ!

俺が女だったら間違いなく好きになっているな。

とはいえ、男の場合は恋のライバルが多すぎて絶望するだけなのである。

しかもこの手の美青年というのは得をするばかりで苦労など滅多にしないので腹が立つ。

しかし、いつまでも愚痴っていても始まらないので前向きに考える事にする。

まず第一に俺が勇者パーティーから追放された経緯がこのパターンと似ているという点が挙げられる。

62.

すなわち仲間からも疎まれ、パーティーから外されるというものである。

しかも追放のタイミングも同じときたものだから、もはや無関係とは思えない。

次に気になることといえば何故、俺が狙われるのか? という疑問だ。

心当たりとしては魔王討伐の道中では、俺は雑用係に終始していたため勇者一行との

関わりはほとんど無かったはずである。

なのに、何故??? いくら考えたって分からないものは分からなかったので一旦思考を停止させる。

続いて第二の問題に向き合うとする。

勇者の容姿と俺と似通ってきたという共通点は気になるが今は関係無いものとして放置することに決め、

俺は次の項目を読み込むのに集中する。

さっきの説明にも書いた通り、勇者の特徴は2点。

一つ目は顔がイケてる(俺よりカッコいい奴が沢山いるのは認めるがな)

二つ目は白服の戦士だということ。

その格好でいれば確実に注目を浴びること必至だからだ。

だから仮に変装したところで無駄骨になる可能性が高いのだ。

よってその線で探すのは無謀といえるのではないのかという懸念があったがそれはあくまで一般論に過ぎず、

実際にはその限りではなく上手く紛れ込める可能性はゼロじゃないかもしれないとのことだ。

その意見の根拠を聞けば簡単な話。

要は他人の目を誤魔化せればいいのだと。

例えば衣服の色を変えたり、体格を多少弄ったりすることでどうにかなるかもしれないとの見解を述べた。

そうすれば一見すると単なる村人にしか見えないという寸法である。

しかし、それでもやはり不安は尽きず万が一人違いでも起ころうものならばその時点でゲームオーバーとなる。

ただそれでも試さずに諦めるのはあまりにもったいないということで、

ダメ元ながらもやってみようという運びとなり今現在進行形で実行中というわけなのだ。

「そういやまだ名乗っていなかったよな。俺はユウト。一応お前さんと同じ立場に立っているんだぜ。

よろしく頼む」

「そうか俺はジンってんだ」

お互いに自己紹介を終えるなり本題に入ることにする。

早速だが先ほど得たばかりの知識を披露することにする。

それは相手のステータスを調べることが出来る魔法の存在だ。

これがあれば相手のレベルや体力、攻撃力などが数値化して表示される。

さらに相手の詳細データまでも丸見え状態だ。

これによって敵の能力値が一目で把握出来るようになるわけだ。

ただし相手の承諾を得る必要はある。

もし嫌がるようなことならば無理やり見るような真似は絶対にしない。

「俺は構わねえが、その代わりそっちも何か見せてくれないか?」

「ああ、良いとも」

快く返事をくれたので遠慮無く見させてもらおうとしよう。

どれどれどんなも……なんだこれは?

名前に偽りがありすぎるではないか?

何故こんなものが出てくる?

普通こういうときはもっとマシなものが表示されるはずだろ?

何かのバグかなと思って何度か確かめたのだが、それでも出てくる結果は変わらなかった。

どうしよう?

この事を本人に伝えるべきか。

悩んでいる間に、彼の方から話を持ち掛けてくる。

どうやらこちらを不審に思っているらしく俺を疑いの目つきが伺える。

63.

どうするか迷ったが正直に話すことにした。

そうすると意外とあっさり受け入れられたので安堵した。

こうして互いに互いの情報を見せ合った結果、

彼は俺が予想していた通りの人間であることが分かって来た。

彼は過去に様々な功績を残しているらしくかなり有名な存在らしい。

そう言えば例の手紙に書かれてあったような……まあとにかく彼なら信頼に値すると

思ったので同行の許可を出してもらうことに決める。

「へぇ~君ってそういうタイプの男の子なのか。

なんか新鮮で面白そうだし構わないわ。それに……君の力になれそうなことも分かったし」

「えっ…… 今のでどうやって分かるっていうんだよ?」

まさかとは思うが既に俺のことがバレているとかか!?

そんなバカなことあるはずがない。

だって初対面の男に自分の全てを知られるなんてありえないし……まあいいか。

とりあえず細かいことは後回しにしておこう。

「とりあえず今日はもう夜遅いから明日に備えて宿を探すとしよう」

と提案をしたのだが残念ながら空いている部屋が無かったのと資金も底をついていたので、

仕方なく野営を行うことに決まった。

テントの設営を終え就寝の準備を行うのだが……二人きりの夜がこれから訪れようとしている。

一体何をどうしたものか。

とりあえず世間話で盛り上げるべきだよな。

うん、それが一番良い方法に違いない。

と意気込んでみたは良かったが……特に話題が思いつかない。

普段あまり会話していないせいもあって全く話題を思いつくことができないでいた。

結局無難な話題しか選択の余地がなかった訳だ。

だが幸いにも話題が盛り上がっていたおかげで寝付くまでにそれほど時間は掛らなかった。

そうして朝を迎え出発してから暫く経ったが……一向に目的の人物が現れる気配が見受けられない。

そもそも勇者捜索隊は何を目的にしている集団なのか。

「困っている人が居たら手を差し伸べなさい!」

とかいう決まりでもあるんだろうか。

それとも純粋に人助けをしている善人の集まりだという可能性も考えられる。

いずれにせよこのままじゃ何も進展せず時間だけが過ぎる一方だし

何の手立ても無い状態でただ闇雲に歩き回るのはまずいと思う。

ここは少し作戦を変更するとしよう。

そう判断して彼女にその旨を相談することにした。

「俺の考えを言う前にまずは質問をさせてほしい。

この近くに魔物が多く出る場所はないかい? 出来れば洞窟みたいな場所で戦い易い環境があると嬉しい」

そう言うと彼女はすぐに案内をしてくれた。

そこは切り立った崖に囲まれた岩山の一角だった。

周囲には木々などの遮蔽物が殆どなく隠れることが出来ない代わりに

戦闘の際には動きやすくて有利であると言えた。

そして、俺が提案した理由はこうである。

ここに現れる敵は狼型の怪物が大多数を占めており、

なおかつ、ここら一帯は平原なので俺の能力を十分に活かすことが可能だと思われる。

加えて俺が所持するスキルの中には攻撃に特化したものもあるので戦力的にも申し分はないと言えるだろう。

もちろんリスクもある。

もしも、

「あの勇者は偽物だ!!」

などと騒がれた場合には俺は即座に殺されることになる。

それを避けるために俺は彼女達には本当の姿は明かさないことにしている。

あくまでも俺は雑用担当だったということになっているのだから当然の処置とも言える。

また俺自身も決して強くないので勇者に変身した際も、

基本的には回復役や補助役として動くように意識するつもりだ。

また今回の戦いでは勇者に扮する際に使用した仮面を使用する。

ただしこのアイテムは一日使用し続けると精神力を消耗するため注意が必要とのことであった。

そして肝心の勇者の正体だが彼女はまだ分からないと言っているが

俺からしたらほぼ間違いないと確信を抱いている。

俺と彼女以外に勇者らしき人間は現れないからだ。

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