7

 ハイドは群れをなす習性を持たない、というのが、今までの経験則だった。過去に襲撃された事例では、いずれも侵入したハイドは一箇所の破壊につき一体だけだったからだ。

『もし、破壊された隔壁から、ハイドが次々に入ってきたら、どうするのか』

 以前、タカナミは上層部に進言したことがある。捕捉装置も、隊員の数も、飽和攻撃に挑むには脆弱すぎた。当時、まともに戦えるジキルは、自分だけだったからだ。

 けれど、公社は取り合わなかった。そんな資材がどこにあるのだと、一蹴された。おまえのそれは想像に過ぎないだろうと。空論に貴重な資金や人材をくわけにはいかないと。

『仮に、そんな事態が起こったなら、それは、想定外だったということだ』

 上層部は言い放った。タカナミはこぶしを握った。想定外、なんて言葉は権力の下で、無知や無力の免罪符として使われるのかと、爪先を睨んだ。

 そんな、いつかの日が、タカナミの頭をぎった。

「おまえら二人は左の二体を仕留めろ。俺は右の三体を片付ける」

 指示を出して、きびすを返す。隔壁の中央から二体、そして少し離れた場所から三体。続けざまに現れていた。既に機能していない捕捉班には退避命令を出した。ハイドの心臓を見上げ、タカナミはナイフを逆手に握り直す。急げ。





「イソラ、怪我は?」

「大丈夫です。あなたも?」

「うん」

 鉤爪かぎづめかすった頬の血を手の甲でぬぐいながら、イソラはトキワと合流する。トキワの後ろには、金属の残骸と化したハイドのからだが転がっている。

「一気に、五体も、やって来るなんて……」

 いつになく表情を消した瞳に、ハイドと、ハイドに破壊された隔壁を映しながら、トキワは、ぽつりと言った。

「ねぇ、イソラ……どうして、公社は、これを報道しないのかな。僕たちが、街のために、ここで、こんなに、戦っていること……どうして、街のみんなに、伝えてくれないのかな」

 最後のほうは涙声になった。かすれた嗚咽おえつ。トキワは顔を伏せた。足もとの影に、ぽつりと雫が滲む。

「治安維持部隊の隊員になりたくて、養成学校に入ったのに……ジキルになんて、なりたくなかった……。街を守れるなら、って、自分に、言い聞かせてきたけど、こんなのは違う……こんなのは、もう、いやだ…………」

 肩を震わせて、トキワは膝をついた。ナイフを握る手の甲を、透明な雫が濡らしていく。その雫を、傍に転がるハイドの心臓が、冷たい光で照らしていた。

 泣きじゃくりながら、トキワは言葉を吐く。

「分かってる……報道されたところで、所詮しょせん、他人事なんだろうってこと……街の人たちは、安全な場所で……あぁ大変そうだねぇ、なんて言って……僕らを眺めているだけなんだ……きっと、そうだ……だって、ジキルになっていなかったら、僕だって、そうだったと思うから……だから、余計に……僕は……」

 ふと、トキワの手に、温かいものが触れた。白く、小さな、イソラの手だった。

「行かなきゃ……タカナミが、まだ、向こうで戦っています。私たちの三倍、引き受けてくれています」

うるさい!」

 乾いた音が響いた。イソラの手を払い除け、トキワは拳を床に叩きつけた。

「思い知らせてやれば良いんだ。公社にも、街のみんなにも。滅びれば良いんだ。こんな、嘘で塗り固めた、はりぼての平和なんか……守り続けて、何になる?」

 払われた手を、ぎゅっと握り込んで、イソラはトキワを見つめた。

「それでも、私は……」

 言いかけたイソラの声に、聴き慣れた足音が重なった。

「おまえら、無事か?」

 静かに、凛と響く声。イソラははじかれたように振り返る。

 壁に右手をついて、体を支えるように、タカナミは立っていた。左手には、明滅する青い光が三つ。相対した全てのハイドの心臓があった。

 退避していた隊員が戻ってくる。すぐに隔壁の穴を塞ぐよう指示を出して、タカナミは軽く咳き込んだ。

「タカナミ?」

 駆け寄ろうとしたイソラの足が止まる。タカナミの様子が、おかしい。どんどん、咳が、激しくなっていく。右手で口もとを覆って、上体を折って。

「……タカナミ……?」

 呼ぶ、声は、返らない。ずるり、と壁を伝う音。どさり、と崩れるように倒れる音。

 誰かの悲鳴が聞こえた。トキワの叫ぶ声も混じっていた。

「どういうことだ⁉」

「汚染か?」

「被曝か?」

「そんなはずは」

「ジキルだろ、こいつ」

「待て! 迂闊うかつに近づくな!」

「公社に連絡を!」

 狼狽うろたえる隊員の声が、わんわんと響く。

「タカナミ」

 震える脚。両手を握りしめて、イソラは床を蹴る。

「タカナミ!」

 駆け寄って、タカナミの傍に膝をつく。閉ざされた瞼。投げ出された掌を染める鮮烈な赤が、イソラの瞳をく。

 手を、伸ばした。タカナミの頬に、そして、吐いた血の伝った首筋に……触れたところで、イソラは金縛りにあったように動けなくなった。

(……冷たい……?)

 誰かが、イソラの体をタカナミから引き離した。トキワだったかもしれないし、そうでなかったかもしれない。ただ、声は遠く鳴り響いている。誰かのわめく声も、タカナミの名を呼ぶ自分の声も。

 セピア色に縛られた色彩の中、したたった赤だけが鮮やかだった。違う、とイソラは胸の中で叫ぶ。その色はいらない。その色は、タカナミの色じゃない。透き通った青は、どこ? 見えない。瞼の向こうに、隠れて、見られない。

 タカナミ。

 いやだ。

 タカナミ。

 返して。

 タカナミ。

 助けて。

「タカナミ……っ」

 混乱の渦の中で、イソラは呼び続けていた。ひたすらに、タカナミを、呼び続けていた。



◇  ◇  ◇



「久し振りだね、サガミ」

 鉄格子の先、パイプベッドに横たえられた痩せた男に、シキナミは微笑みかけた。

「シキナミ班長……?」

 白濁した瞳が、焦点を彷徨さまよわせながら、かろうじてこちらに向けられる。もう、あまり見えていないのだろう。四十二街区で浴びた毒の粒子の影響のひとつだった。

「どうして、私の研究を、公表しようとしたの?」

 シキナミは静かに尋ねた。サガミは笑った。かすれた声だった。

「あなたを、では、ありません……僕が光の下にさらしたかったのは……公社の計画そのものです……あなたを売るつもりはなかった……僕には、仮にも……あなたの班員だったという、自負がありますから……」

「本部が計画した大規模スクリーニングなら、私が止めたじゃないか。あれは……テロメリアは、まだ実験の域を出ていない、未完成だ」

「ええ……確かに、あれは、まだ、その段階ではないでしょう……でも、本部は、水面下で、計画を進めていました……僕は、偶然、それを、知ってしまった」

「どうして、私に言わなかった」

「報告すれば、あなたを、公社に刃向かわせることになると、思ったからです……あなたの研究者生命を……こんなことで潰したくありませんでした…………あなたの研究は、この地下都市の希望ですから……」

 ふふっとサガミは笑みのかたちに目を細めて、静かにシキナミを見つめた。

「シキナミ班長……テロメリアを、僕に、打ってくれませんか」

 鉄格子を握るシキナミの手に、力がこもる。

「それは、できない。きみの体は、適合試験で、不適合と出たはずだ。適合しない体にとって、テロメリアは、即死に至る、猛毒だ」

 きみも知っているだろう、とシキナミは言った。知っているからこそですよ、とサガミは答えた。シキナミは目を伏せる。

「……鎮痛剤と鎮静剤を追加するよう、指示しておくよ」

「シキナミ班長」

 きびすを返そうとしたシキナミを、サガミは呼び止めた。

「あなたの班員になれて……僕は、幸せでした……助教授とは名ばかりの、教授の雑用係に過ぎなかった僕を……あなたは拾って、研究をさせてくださいました……あなたのおかげで、僕は……研究者として生きることができた。あなたの隣で……あなたの研究にたずさわることができて……僕は……」

「サガミ」

 サガミの言葉を、シキナミは静かに遮った。努めて一切の表情をぎ落とした声で。

「私を勝手に聖人にしないでくれ。きみを私のもとへ引き抜いたのは、単に若くて、私と年が近くて、扱いやすそうだと思ったからだ」

 うつむいたまま、シキナミは逃げるように部屋を出た。手放せない杖に、唇を噛む。もし、自分に走れる両脚があったなら、一思いに駆け出してしまいたかった。



 開発棟の階段まで歩いた。誰もいない階段の上を見つめ、噛みしめて赤くなった唇で、シキナミはタカナミの名を紡ぐ。

 軽やかに階段を駆け上がっていく、彼の後ろ姿を見上げるのが好きだった。あの脚は自分が彼に与えたものだと、与えることができたものだと、実感できる、まばゆい時間のひとつだったから。





 シキナミが駐屯地を訪れたのは、昼を少しまわった頃だった。

「はい、これ、イソラの分」

 手土産だよ、とシキナミがイソラに差し出したのは、いつかタカナミがくれた缶入りのココアと同じものだった。

「タカナミは……?」

 両手で缶をぎゅっと握って、イソラは尋ねた。

「大丈夫。落ち着いたし、もうすぐ目覚めるよ」

「本当……?」

 ぱっと顔を上げて、イソラはシキナミを見つめた。黒い瞳を、大きく開いて。

「本当だよ。そうじゃなきゃ、私は、ここへは来られないさ」

 ふふっとシキナミは笑って、自分の缶コーヒーを一口、飲んだ。それは、いつかタカナミが飲んでいたものと同じ銘柄だった。

「……タカナミが」

「うん?」

「タカナミが、前に、言っていました。テロメリアは、そう何度も打つべきものじゃないって……それは、こういうことだったんですね」

「……うん」

 この時間は訓練もなく、見張り以外の隊員たちは皆、休息に入っている。だから、ふたりの声以外に、この部屋に音は存在しない。黙すれば、途端とたんに静寂がふたりを沈めていく。

「テロメリアは、所詮しょせん、人体にとっては、異物でしかないから」

 コト、とテーブルに缶を置いて、シキナミは指を組んだ。

「打ち続ければ、段々、耐性ができてしまう。だから、同じ効果をもたらすために、打たなければならない量が、どんどん増えていく。消費は早く、離脱症状は激しくなる。……まるで麻薬みたいに」

 実験室では分からなかった。人の体で……タカナミの体で、初めて分かった。

「それに気がついたのは、いつ?」

 イソラの問いかけに、シキナミはうつむいた。

「ちょうど、きみが来る……四十一街区が封鎖される、少し前だ。私はタカナミを前線から退しりぞかせた……退かせようとした。でも、それが、四十一街区の封鎖を招いたんだって……結局、タカナミは、また、投入された。彼自身も、それを、望んだ。私は、止められなかった。私は、彼を、守れなかった。こんなことのために、私は、テロメリアを創ったんじゃないのに」

 シキナミの肩が震える。イソラは、じっとシキナミを見つめた。痩せた肩だった。細く、脆く、それなのに、圧し掛かる重さに潰れないよう、今まで必死に耐えて、支えてきた、独りきりの肩だった。

「なら、あなたは、何のために、テロメリアを創ったの?」

 静かに、ただ、静かに、声は差し出されていく。それは問いかけのかたちをした、懺悔ざんげを受けとめる器だった。

「……それは……」

 伏せられていたシキナミの瞳が、僅かに上がる。噛みしめられていたシキナミの唇が、微かにほころぶ。なつかしむような、慈しむような、穏やかさで。

「兄のため、だったんだよ」

「お兄さん?」

「そう。私には、二卵性の、双子の兄がいたんだ」

 過去形だった。シキナミは顔を上げ、イソラと視線を合わせた。

「イソラ、この街には、どうして、こんなにも多くの奇形が生まれるのだと思う?」

「きけい……?」

 知らない単語に、イソラは瞬きをした。シキナミは頷く。

「きみも、よく目にしただろう、生まれつき腕がなかったり、目がなかったり……」

 私のように、左脚が右脚の半分の長さしかなかったり。

 こくり、とイソラは呼吸を飲み込む。手の中の缶に視線を落として。

 考えたことがなかった。ずっと、それが普通だったから。あまりにも見慣れていたから。いや、誰も、この街を異常だと、言わなかった。教えなかった。正常な状態がどんなものなのか、知る人間も、伝える人間も、もう誰もいなくなってしまったのだから。

「毒の粒子のせい、ですか?」

 イソラの言葉に、きっとね、とシキナミは呟いた。

「人が地上に戻れなくなったのは、ハイドのせいだけじゃない。地上そのものが、あの毒に汚染されているんだ。おびやかすものがハイドだけならば、先人は、なにも、こんな行き場のない地下に潜る必要なんてなかっただろうからね」

 そして、あの毒は、地下に浸み込み、地下水に混じった。人々の生活になくてはならない水の中へ。

 公社は決して認めないだろう。絶対に公表しないだろう。かつてかれただろう緘口令かんこうれいは、とても上手に人々を忘却へと導いた。正しい定規なんて、もうどこにもない。たとえ誰かが水に計器をかざしたところで、この値なら安全だと言うだけだ。

「あなたの、お兄さんも、きけい、だったの……?」

「ああ。私とは比べものにならないくらい、酷いものだったよ」

 両脚どころか両腕もなくて、肺は片方しかなかったし、心臓にも致命的な欠陥があった。二十歳まで生きないだろうって、言われていたよ。

「どんな人だったの?」

「すごく、いやな奴だったよ」

 ふふっとシキナミは笑った。場違いなほどに明るく。

「偉そうで、我儘わがままで、甘ったれで、自分が世界で一番不幸だなんて思っていて……私との口喧嘩で分が悪くなったら、二言目には、俺はどうせ二十歳までには死ぬんだから良いだろなんてうそぶく。本当に、ほんとうに、厭な奴だったよ」

 大好きだったよ。

「だから、誓ってやったんだ。兄さんの体を、私が、あるべきかたちにしてやるって。そんな減らず口、二度と叩けないようにしてやるって」

 それでね、とシキナミは微笑んだ。とても、あどけない色で。

「約束したんだ。いつか、ふたりで、空を見ようって」

 自由に走れる脚で、自在に動く手を繋いで、毒に拮抗できる体で、一緒に、空を望みに行こうって。

 でも……と、そこでシキナミは、微笑をあやめた。

「私の研究は、間に合わなかった。やっと開発したテロメリアは、兄の体にはぎりぎり適合はしたものの、適合率は低く、私の体に至っては、全く駄目だった。行き詰まって、焦る私を、嘲笑あざわらうように、その後まもなく、兄の体に……心臓に、限界が来た。十九歳だった。私は、試作段階のテロメリアを、兄に打った」

 兄を、死なせないために。

「身勝手な私の選択が、正しかったのか、間違いだったのか、今でも、分からない。ただ、私は、兄を、三日三晩、副反応で苦しめたあげく、兄から……一切の記憶を、奪ってしまった。私の知る兄さんは、私を知る兄さんは、もう、どこにもいない。私が……兄さんを、死なせてしまった」

 そう呟いて、シキナミは俯いた。ほどかれた黒髪が肩を流れる。くすんだ蒼い瞳が、影の中に沈んでいく。

 ふわり。シキナミの頬を、何かが包んだ。小さな、イソラの手だった。底なしの黒い瞳が、じっとシキナミを見つめる。断罪も大赦も宿さない、闇そのものを抱えたたえるような瞳で。

「あなたがテロメリアを創っていなければ、私は今、ここにはいません。私にテロメリアを打ってくれたタカナミがいなければ、今の私は、ここにはいません」

 正しくても、正しくなどなくても。

「それに、あなたの、お兄さんは、きっと、消えてはいません」

 ゆっくりと、イソラは言葉を続けていく。シキナミが顔を上げる。どうして、と瞳が問いかける。

「私に与えてくれた、名前の意味です」

「意味……?」

 シキナミの瞳が、大きく見開かれる。まっすぐに受けとめて、イソラは告げた。

惟空いそら。空をおもう、という意味です」

「空……?」

 ぽつ、と、イソラの手に、雫が落ちた。温かい、透明な光だった。一筋、流れると、後は止まらなかった。兄さん。兄さん。兄さん……シキナミの声が、兄を呼ぶ。繰り返し、くりかえし、降り続ける涙のように。

 イソラ――惟空。それは、願いの名前だった。ふたりで結んだ、約束の名前だった。

 光が伝う。ひんやりとしたイソラの掌が、頬に集まるシキナミの熱を鎮めていく。

「タカナミのこと、大切に想ってくれているんだね」

 イソラの手に自分のそれを重ねて、シキナミは淡く微笑んだ。慈しみの色にも、悼みの色にも、似ていた。

 イソラは、静かに返答する。

「私を、今の私に……イソラに、してくれた、人ですから」

 生かしてくれた、人ですから。



◇  ◇  ◇



 開発棟の最上階、シキナミの研究室に隣接する、第一治療室。錆びついた扉は、そうっと開けても否応なく軋む。

「……起こしてしまった?」

「いや、少し前に、目は覚めていた」

 ベッドに横たえられたまま、青い瞳がシキナミを見上げる。

「そう。なんにしても良かったよ。あなたが目を開けてくれて」

 軽く首を傾けて、シキナミは微笑んだ。一呼吸、置いて、心を整える。

 一度、軽く目を閉じてから、タカナミを見下ろし、シキナミは切り出す。

「いつから、取り戻せていたの?」

「何を?」

「記憶」

 あなたがつけた、あの子の名前の意味を知ったよ。

 放たれたシキナミの言葉に、タカナミは一瞬、僅かに瞳を見開いて、それから、苦く眉を寄せて、視線をらした。

「……テロメリアに耐性ができ始めた頃だな。関係があるのかは知らんが……」

 まだ断片的で、全てを思い出したわけではないけれど。

「言ってくれれば良かったのに。どうして?」

「思い出すにつけ、ろくな奴じゃなかったようだからな、俺は」

 それに第一、今更だろ。

 噛み潰すように、タカナミは呟いた。シキナミの手が、体の横で、ぎゅっと拳を作る。

「……今更、って、なんだよ。そんなわけないだろ、ばか。なにを、かっこつけてるんだよ。そっちのほうが今更じゃないか。……私が、どれだけ……一体、どれだけ……っ」

 心が決壊する。違う、と胸の奥でかぶりを振る。ばかは、自分だ。兄はもういないのだと、勝手に絶望して、ひとりで先に目を閉じてしまった、自分だ。

「……悪かったな」

 おまえのこと、忘れて。

 もう一度シキナミを見上げて、タカナミは言った。体の奥まで凛と響く、落ち着いた声。変わらない、大好きな声。

随分ずいぶんと殊勝じゃない。成長したね」

「当たり前だろ。見た目は十九のままかもしれんが、中身はおまえと同い年のはずだぞ」

「そうだね」

 シキナミは笑った。ほんの少しだけ、自分をゆるすことを、赦された、気がした。

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