陸第109話 ロカエ 祭りの屋台広場 - 2
「これだけでは、解らん」
いやいやいや、解らないって言っているのに、なんだってそう自信たっぷりなんだよ、センセルスト医師。
タクトも、なんかないのかな、って感じで困り顔だ。
センセルスト医師は少々鼻息粗く、現状では仕方ないのだ、と続ける。
「魔法師の場合は、理由と原因が多岐に渡り過ぎるのであるからして、一般的にいいとされていても全然効果の見込めないことの方が多いものなのである。だから、行動や習慣など、細かく長期間観察して初めて『もしかしたらこれかもなー?』という原因っぽいものが見えてくる。会ってすぐでは、食べろとか寝ろということしか言えんから意味がないのだよ」
まぁ……そうだよな。
会ったばかりで、しかもこんな広場の片隅だもんな。
うん、確かに仕方ないよなー。
「ただ、君の場合は『質』が、今まで私の診てきた誰とも似ていない。いや……私の診ていない多くの人々の中には、いるのかもしれないが。実際、君とガイエスくんとでも全く違う。君の魔力は……なんというか、粘ついている……? いや、もったりとしているというか……どろりという感じで非常に『濃い』のだ」
「なんだか流脈が詰まっちゃいそうな表現ですね……」
「いやいや、魔力というのはさらりとしてて流れがいいのが良いという訳ではないのだ。むしろ、濃さとか粘りのない魔力だと魔法は弱い者の方が多い。そうだな……うむ、飴を作る時には砂糖を溶かして煮詰めるであろう? だが、砂糖が少ないと良い飴にはならぬし、砂糖を足しながら作ると手間と労力もかかる」
へぇ……そういうものなのかなー。
タクトとライリクスさんが激しく頷いているけど、護衛の人は時々首を傾げていた。
飴の作り方にたとえられても解んねぇよなぁ、普通は。
「つまり……魔法の使用によってもたらされた現象は、そもそもその魔法に必要な分の魔力しか使わないってことなのかな?」
「ほぅ、流石であるなっ! 理解が早い。そしてな、君のように『濃い』魔力を持つ者というのは、ひとつの魔法を作るために必要な分以上の魔力を入れ込みやすい傾向があるのではないか……と思っているのだよ」
なんだか、タクトとセンセルスト医師が解り合えているような、いないような……いや、理解しているのかな?
俺にはセンセルスト医師のたとえ話もタクトの比喩の確認も、どーにも解りづらいんだけど……
具合の悪い本人が、なんとなく原因っぽいものが解っているならいいのかな?
護衛の人も、ライリクスさんも考え込んでいる感じだから、タクトとセンセルスト医師の考え方はやっぱりちょっと一般的でないんだろう。
……じゃあ、結局タクトは『とにかく沢山食う』ってことしか、今はできないってことか……?
俺がそう呟くと、タクトもそうかもなー、返してきた。
すると、何かを思いついたように護衛の人が『自分が子供の頃に食べていたものはどうか』とタクトに提案する。
「え、ウァーレンスさんが……?」
「私も一時期、なかなか体重が増えなかった頃がございまして、その時によく祖父が作ってくれたものがございました。それを食べるようになってから、随分と身体作りが楽になったのです。タクト様にもよいかどうかは解りませんが、私の生まれた町だけで作っている『
タクトは護衛のウァーレンスさんに甘蓼がどういうものかを綴り帳に書いてもらったようで、それが知っていたものだっただけでなくどうやら好きだったみたいだ。
……ってことは……旨いものなのかな、甘蓼って。
初めて聞いたなぁ。
手に入ったら、なんか作ってくれるかな。
「あ、あの……その甘蓼の実を、今後買い取りさせていただけるようになんて……できませんか?」
「召し上がってからでなくて、よろしいのですか?」
「えっと、それでは、いただいてみて、それからでも、取引させていただけるなら!」
それからタクトはガサガサと三椏紙を取り出して、条件書ってのをあっという間に書き上げた。
ウァーレンスさんはその条件書にいたく感激していたから、かなりいい条件だったんだろう。
その様子を診ていたセンセルスト医師が不思議そうな顔をして、俺の横へやって来た。
「君の友人は、魔法師なのか書師なのか商人なのか解らんな」
「どれも、なんだよ。しかも宝具師だし」
「なんとっ? そりゃあ……魔法も使いまくっていそうであるな、うむ……」
センセルスト医師が『なかなか診られない魔法師だ』とか『今後も診続けたら何か新しい理論が……』なんて、ブツブツと言い続けている。
でも、魔法を使うんだとしても、新しい食材の料理は……楽しみにしてていいかな?
タクトの身体にいい食べものだったらいいなぁ。
*******
『カリグラファーの美文字異世界生活』第945話とリンクしています
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます