陸第106話 エトーラ
ロカエとセレステの間には、少しだけ突きだした岬がある。
その岬にある町がエトーラだ。
ロカエ側とセレステ側の両方の海岸に小さい港があって『エトーラ北港』からはロカエに入らなかった魚や魚介が入ってくる。
俺がロカエから『
そして『エトーラ南港』はセレステの船渠がいっぱいの時に待機している船や、小さい漁船の修理などをしている。
漁港と船舶修繕港のふたつを持つ、活気のある町だ。
ここの市場はロカエ港に入ってくるものと殆ど遜色のない魚が入ってくるが、ロカエ港より安くて水揚げ港に拘らない臣民達はこっちの町で魚を買う。
まぁ、ロカエのものはたいてい領主様の所か王都に運ばれるから、庶民が買うことなど殆どできないのだが。
王都のものは、ロカエ水揚げだから特別ですよっていう差別化をするためってのもあるだろう。
だけど、ロカエに入ると高くなっちまうから、数の揃わないものや少し形の悪いものなどを低価格で売らせるために、別の港をセラフィラント公が造らせたんだなんて話も聞いた。
もしかしたら、領民達のための『抜け道』的にこの港を使って、ロカエと同等のものを売っているのかもしれない。
そりゃ、セラフィラント公達としては、王都の奴等より領民に旨いものを安く売ってやりたいだろうし。
センセルスト医師がいる病院は、セレステ側にある南港の近くだ。
この町では魔法師が多いらしいが、殆どが船大工との兼業だという。
そのため、普通の町と違った症状の出る患者も多いみたいで、魔力流脈だけでなく身体と魔法の関わりについても詳しいのだそうだ。
えーと……タルァナストさんが描いてくれた地図、ちょっと解りづらいなぁ。
路地が多い町だもんなぁ。
こっちかな?
あ、いや、違う、こっちだ。
……この地図、どっちが北だ?
ここがあの雑貨屋だよな……じゃ、こっちのこれが赤い屋根の食堂……?
ええー?
ないぞ、赤い屋根ーー?
「おにーちゃん、まいごー?」
「この辺は、滅多に来ない人だと迷うんだよねー」
う……ちょっとウロウロしてしまったら、近くで遊んでいた子供達が集まってきちまった。
どうやら俺は、何度もこの子達の前を横切ったらしい。
何処に行きたいのかと聞いてきたので、センセルスト医師の病院だと言ったら、全員が『にぱーー』と笑いを浮かべる。
「センセルストせんせーは、おひるまでは、いちばだよー」
「市場?」
「そーなの、せんせい、くいしんぼうなんだーー」
「「「きゃはははっ!」」」
「さっき俺、一番西側の羊肉の店で見たよ」
「市場ってあそこだよな。羊肉もあるのか……」
どうやら魚だけじゃなくて、近くの牧場での羊肉も売っているらしい。
教えてもらった店まで行くと、丁度買い終わって出て来るところだったセンセルスト医師に会えた。
「おおおっ、ガイエスくんではないかっ!」
「すまん、ちょっと聞きたいことがあって……」
「何っ? あ、だが少々待ってくれ! ご成婚祝いの安売りをやっておるから、まとめ買いをせねばならんのだ!」
安売りでまとめ買い……?
あ、そうか、昨日まで休みだったから、食べ物が家になくなっちゃったのか!
急にぴたっと止まって、俺の外套の襟を凝視するセンセルスト医師……何?
「んむむっ? なんだね、その徽章は?」
「ああ……
「そうか。なかなかいいな、その徽章は! しかしシュリィイーレでは買えんか……っ! おっと、いかん、徽章ではなく、食える方の魚を買いに行くぞ! ガイエスくん、手伝ってくれたまえっ!」
その後、魚、野菜、乾酪、菓子と買いまくるセンセルスト医師に付いて歩き、ついでに荷物持ちもしながら自宅兼病院へと向かった。
センセルスト医師は【収納魔法】を持っていなかったみたいだけど、これ……ひとりで持ち帰るつもりだったのか。
てか、買いすぎじゃねーか?
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