陸第105話 ロートレアからティアルゥト

 食事も終わって、ラーシュ達がそろそろ教会へ戻ろうかと話していたら、ふたりの腕にあった通信具に光が灯った。

 さっ、ふたり顔色が変わり、俺に詫びつつ走って行ってしまった。


 きっと、何かがあって、呼び出しの報せだったんだろう。

 これは……俺は訓練施設に戻らない方が邪魔にならなくていいかなと思い、方陣門が使えるようになったこともあって一度ティアルゥトへ戻った。



「あれれー? おかえり……? まだ訓練期間じゃなかったっけ?」

「ああ、もう少しある。成婚式の後も今日まで休みなんだ。方陣門が使えるようになったから、カバロの様子見に」

「そっかーー! きっと喜ぶよー、カバロ。寂しがっていたからねー」


 あいつ、タルァナストさんには殊勝な態度でも、俺には怒ってくるからなー。

 えーっと、手にお菓子を持って、見えるようにして……

 厩舎に入るとカバロの姿がなかったので、牧場かとそちらへ向かう。


「カーーバローー、ガイエスが帰って来たよぉー」


 タルァナストさんが叫んでいるが、聞こえねぇだろう……

 全然馬の姿が見えていなかった牧場の向こうの方から、なにやら走ってくる音が……うおおぉぉっ?


 近付くにつれてドカドカドカッと聞こえる足音に、少し尻込みしてしまったが走り寄ってきたのはカバロだけではなかった。

 あの足音がカバロだけだったら、とんでもなく太ったんじゃねーかと思ったから安心した。

 それでもなんだか……ひと回り大きくなっている気がするんだけど?


「うん、最近カバロはよく食べるからねぇ」

「……菓子、やり過ぎていないよな?」


 あ、タルァナストさんがちょっと視線を逸らした。

 一日二枚って頼んでいたはずなんだが、俺の預けた『タクトの作った野菜の焼き菓子』を二枚で、他にも『デルデロッシ医師の馬せんべい』も二枚あげていたんだとか。

 牧場で目一杯運動しているからいいと思ったらしいが、どうやら魔力が多めのカバロは太りやすいらしい。


「馬で魔力が多いっていうのは、溜め込む力があるってことだから元々が大きくなる素養があるってことなんだよ。人は魔法を使うけど、馬は身体を使うことでしか魔力を使わないからね」

「じゃあ、小さい生き物はそれだけ魔力が少ないってことなのか」

「普通はそうだよ。人だけは……ちょっと違うけどね」


 魔法を使うか使わないかで、違うってことなんだろうな。

 だから、家畜医と人の医師では全く治療のやり方が違うのだという。


「それじゃ、カバロみたいに沢山食べれば体が大きくなるってもんでもないのかなぁ」

「んん? ガイエスは多分、丁度いいと思うよ?」

「あ、いや、俺じゃなくって、友達なんだけどさ。近頃かなり痩せちゃってて。本人はちゃんと食べてるって言うんだけど、絶対に足りていない気もするんだよな」

「んー……その人、魔法師?」


 俺が頷くと、タルァナストさんは昔そんな話、聞いたなぁ……と考え込む。

 そして、以前センセルスト医師が診た患者の中に、そういった症状の魔法師がいたと言っていた……と、教えてもらった。

 そうかっ!

 センセルスト医師は確か、魔法師専門だって言ってたっけな!


「話……聞けないかな?」

「んー……患者さんのことだから、どぉかなぁ? 一応、聞いてみたら?」


 教えてもらったセンセルスト医師の病院は、エトーラという岬にある町だった。

 よし、ちょっと行ってみよう!

 えーと……ロカエから連絡船があるみたいだけど……『遠視とおみ』で見えたらその方が早いよな。

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