陸第104話 ロートレア教会裏庭から食堂
教会の前庭にいたロートレア隊の人に聞いたら、デートリルス隊は南側にいると言われぐるりと回り込む。
ほぼ裏庭にあたる西側に近いところで、備品倉庫から出てきたラーシュを見つけた。
「あれれ、ガイエスさん……どうかしました?」
「忙しいところすまん。ちょっと教えて欲しいことがあって……後ででいいから、話ができないか?」
「俺達この後、朝食に行くんですけど、その時でいいなら」
「朝、食べずに働いていたのかよ?」
すると、ラーシュと、一緒に片付けをしていたらしい衛兵ふたりは照れくさそうに頭を掻く。
どうやら、昨夜セラフィエムス卿からの『祝い膳』を食べ過ぎて全然腹が減らなかったから先に片付けに来ただけだという。
まぁ、あの祝い膳なら、食べ過ぎても仕方ないよな。
鮭も牛肉も、旨かったもんなぁ。
「いやぁ……でも力仕事したら、すぐに腹が減ってきちゃって……他の隊員達もそんな感じだったんで、これから少しだけ食べに行こうってことになって」
「それなら……一緒に食事にしよう。俺も朝、食べていなかったし」
町中へと出て、俺達はぽつぽつと店が開け始めている辺りを歩いた。
今日からは、朝食で開けている食堂もあるみたいで、俺達は少し混んでいるがなんとか座れそうな店に入った。
成婚式の翌日は臣民達の間でも『祝いの料理』が食べられるらしく、その町の特徴的なものが出されるらしい。
ロカエなどの漁港に近い町では当然、魚料理だ。
「最近、この辺りでも『米油』ってのが使われるようになってね。今までの胡麻のものより癖がなくて、揚げものに匂い移りも少ないから魚の味を邪魔しないんだ」
「へぇ……それでロートレアでは、揚げ魚も増えているのかぁ」
「あ、ふわっとしてて旨い」
店の人とラーシュ達がそんな会話をしている横で、これってタクトが作ってた『パンに挟んで食べる揚げ魚』に似ていると思いながら食べていた。
あれは、玉葱がいっぱい入った卵黄垂れだったけど、この甘めの野菜煮つめでも旨いなー。
こっちのは玉子焼きが入ってて、赤茄子の味もするんだよな。
野菜煮つめに赤茄子も使っているんだろう……スゲー好き。
「あ、すいません、ガイエスさん……えっと、話って?」
突然思い出したようにラーシュに聞かれたんだが、こんなに人の多いところで聞いてもいいものなんだろうか……?
ラーシュに『おまえの魔法のことなんだがここで聞かせてもらって構わないのか』と言うと、ちょっとだけ吃驚したような顔をしたがすぐに『構わないですよー』と笑顔になった。
「俺、隠すほどの魔法も持っていませんからね。それに、セラフィラントの衛兵隊で魔法の秘匿なんて真似、殆どの奴がしませんよ」
「そうなのか?」
「ええ。魔法師なら身分階位にも関わるから、全部は言わないでしょうけど、そうじゃないなら。あ、家系魔法は別ですかね」
「そーだなぁ、家系魔法は……まぁ、いろいろと面倒事にもなるから言わないことが多いかな」
そう言って頷くヴィエースという隊員も、ラーシュと同じデートリルス隊だ。
なんていうか……重そうな、ガッシリした体型で初めはラーシュと同じ年齢くらいかと思ったんだが、俺より年上だと言うからちょっと吃驚した
結構……若く見えるんだけどなー。
ふたりが特別任務に選ばれたのは、一部分だけを隠蔽できるような魔法があったからだと言う。
「それ、その『一部を変えられる魔法』っていうのを知りたかったんだ。なんていう魔法なんだ?」
「あ、ヴィエースのは家門の魔法なんで、ちょっと……俺のは【
「それって、色だけじゃなくて形もか?」
「んー……色は全く違う色は難しいですけど、青だったらうんと濃くして黒っぽく見せたり逆に薄くしたりはできますよ。だけど、赤を青にするとかはできないです。形も三角を四角にはできないけど、大きさを変えて見せるってのはできます」
今、ラーシュの瞳の色が『青』に見えるのは、緑から『黄色だけを極端に薄くしてほぼ見えなくしている』からだそうだ。
そうかー……どう考えても、そんなことができるのって上位魔法っぽいなーー。
どこかに方陣でもないかと思ったけど、どうやら無理そう。
タクトに頼めば、あいつなら作っちゃいそうだけど……なるべくあいつの負担になるようなことは、今は頼みたくないし。
暫くは、この身分証の付与魔法で乗り切るしかないかな。
本当に、赤い瞳がどーのこーのっての、なんとかして欲しいんだよなぁっ!
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