陸第103話 訓練施設の一階
翌朝、昨夜あんなに沢山食べたのに、もう腹が減ってて吃驚した。
昨日はなんだかんだいって緊張したから、魔法を殆ど使っていなくても疲れたってことなんだろう。
だけど今日までは、訓練施設の食堂では食事が出ないんだよな。
じゃあ、まだ祭りもやっているから外に食べに行こうか。
でもなー……座ってゆっくり食べたい気もするなー。
町に出る前にドゥレロート武官に会った。
俺が接触したふたりが元々はタルフ人であり、マイウリア人の一部と協力していたということが解ったと教えてくれた。
そうか……俺はマイウリアの方のミウーアだと思っていたんだが……タルフだったのか。
あ、だけど、あのオルツに来た女の人を『裏切り者』みたいに言っていたから、タルフだったら彼女が『タルフじゃない』って否定したのも解るな。
「あいつ等は何故か『瞳の色』を、とにかく意識して重視している。おまえのような濁りのない赤い瞳は、かなり危険だと思われる」
「危険……って、仲間だと思われるということか?」
「それも勿論あるが、そもそも仲間でなかったガイエスのことを仲間だと思い込んでいる奴等が『おまえは裏切り者だ』と襲いかかってくるということもあるってことだ」
えええー?
人違いされて勘違いされて、更にそんな思い込みまでされるって?
「皇国にいる間は大丈夫だと思うが、東の小大陸とエンターナ諸島、オルフェルエル諸島は暫くの間は絶対に、何があっても行かないことだ。あいつ等は『赤い瞳の仲間』と『赤い瞳の生贄』を同時に探しているらしい。そして、あいつ等の組織の中では、ガイエスを『仲間』と思い込んでいる者達も『贄』と信じている者達も……どちらもいそうだ」
「生贄、か」
「その言い方が適切かは解らんがな。それが見つかり、証明されれば自分達のしていることの『理由』と『責任』をなすりつけられると思っているようだ。何がどう『証明される』のかは全く解らんし、隷位とか賤棄だなんてことになったらあいつ等自身の罪が確定するだけなんだが、その辺までは頭が回っていないようでなぁ……」
奴等の原動力となっている詳しい理由までは、まだ解っていないってことなんだな。
俺はあいつ等が漏らした『旧ポルトムントを取り返す』と言う言葉が気になっていた。
あの国の連中の瞳は……何色だったのだろうか、と。
しかし、ドゥレロート武官は残念ながら記録を見たこともないと首を振る。
あまりにも全てが脆弱だったが故に何処にも痕跡が残っていない国だと言われていたり、全てヘストレスティアとなった時に抹消されてしまったのだろうとも言われているのだそうだ。
でも、港があった国だ。
皇国になら、いや、セラフィラントになら、某かの記録が残っているかもしれない。
そうなると……それに一番近いのは、やっぱりタクトだろうなぁ。
文書とかがあるとしたら、古代文字の可能性もあるだろうし、それらを正しく読めるのはまだタクトだけだし。
だけど、あいつには今、あまり無理をさせたり急がせたりしたくないんだよな。
せめてもうすこし身体が回復してから……そんでもって、あいつの手が空いた時、だよなー。
タクトっていっつも忙しいの、なんでなんだか。
だけど、瞳の色が赤いというのは、そんなに目立つものなんだろうか。
皇国では、あまりいないからっていうのは確かにありそうだけど、そんなにも違いが解るんだろうか。
……身分証入れ、あの黄色い方に入れ替えて瞳の色を変えておくか……
変えるっていっても、少し暗い色になるだけで赤といえば赤なんだけどなー。
やらないよりやっていた方がいいだろう、と隠蔽のかかる方の身分証入れを使うことにした。
そうだ……ラーシュって瞳の色を変える魔法があるっていってたな。
なんていう魔法か、聞いてみよう。
俺は衛兵隊事務所に行って、デートリルス隊のラーシュがまだロートレアにいるかを聞いてみた。
「ラーシュは……ああ、今日はロートレア教会の片付けを手伝っていますよ」
「そうか、解った。行ったら話すことってできるか?」
「ええ、特に秘匿する任務でもないでしょうから、問題ありません」
そう言われて、俺はすぐにロートレア教会に向かった。
えーと……ラーシュはどこかな?
あ、しまった。
朝食、食べ損ねた……ま、いーか。
持っていた菓子を幾つか口の中へ放り込み、俺はラーシュを探して教会の前庭へと入った。
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