陸第102話 訓練施設

 夕食時間まではまだ少し間があったのだが、披露のあとも屋台はまだまだ盛況で魚焼きをふたつ食べてしまった。

 だけど、夕食は座って食べたいから、部屋に戻って保存食でも食べようかなぁ。

 普通の食堂は休みだし、陸衛隊訓練施設も今日まで食堂が開いていない。


 併設の宿舎には、ぼちぼち衛兵達が戻ってきている。

 今日の夕方の訓練は休みのはずだったんだが、ルシクラージュさんからちょいちょいと手招きをされた。


「見つかってよかったよ、ガイエス。ちょっと付き合え」


 そう言われて一緒に行ったのは、衛兵隊訓練事務所の屋根の上……?

 あ、屋上にもうひとつ小屋みたいのものがあるぞ!

 いや、小屋……というには、ちょっと大き過ぎるかも。


「これって、もしかして『見張り櫓』?」

「ああ。ロートレアもだが、セラフィラントの町は何処も歩哨が造れるような壁がないし、高い建物が少ないからな。だから、衛兵隊の関連施設ではよく屋上小屋があるんだよ」

「いいのか、俺が入っちゃって」

「何、言ってんだよ、今回の警備協力してくれたんだから、今日は平気だよ。さ、こっちだ」


 中は思っていた以上に広くて、ロートレア側とロカエ側に見張り台が別れている。

 その真ん中の部屋に入ると、幾つもの卓の上に並べられた大皿にたっぷりと料理が入っていて、文官の人達が突き匙や匙の準備をしている。


「お、ガイエスも来たか!」

「ほら、こっち座って!」


 手を引かれて真ん中近くの席に座ると、目の前に次々に料理が盛られていく。

 なんだかワクワクするな、こういうの!


「あ、だけど、今日って食事のない日じゃなかったのか?」

「ああ。いつもの食堂は休みだよ。これは、セラフィラント公からの『祝い膳』だからね!」


 それって、衛兵隊員全員にってこと?

 俺が吃驚していたら、セラフィラントの全ての衛兵達向けに各地で振る舞われているらしい。

 すっげー……

 警備や巡回もあるし、交代でみんなが食べられるようにしているというから、とんでもない量と手間だろう。


「俺まで食べていいのか?」

「勿論だよ、ドゥレロート武官もガイエスを探してこいって言っていたし、セラフィエムス卿からは、協力者達にもちゃんと振る舞って欲しいって言われているからな!」


 そうか。

 お腹空いてて、すぐに町中に戻っちゃったからなぁ。

 あ、だけど魚焼きだけだったから、まだ全然入りそうだし丁度いいかも。


 隊員達は入れ替わり立ち替わり、用意された祝い膳を楽しんではまた巡回や監視へと戻っていく。

 みんな、働き者だなと思っていたのだが、今晩から明日の王都への『奏上の儀』に発つまでの間もかなり危険だと思われているようで、このまま公邸と教会周囲の警備に入る人もいるらしい。


「だけど、今回は『撮影機』があちこちに付けられていて、映像を使った『監視』ができてるからまだ楽だよ」

「そうだな。公邸の中で全部の映像が見えてて、通信で報せてくれるらしいぞ」

「通信の魔法って、町の外まで使えるようになったら便利なんだけどなぁ」

「そりゃ、魔力がいくらあっても大変だろうよ。セラフィエムス卿くらい魔力がないと、倒れそうだぜ」


 ……そうなのか……

 俺とタクトが大丈夫なのって、そういえば『使用者完全限定』だからって言っていたな。

 ここでは通信で繋ぐ衛兵隊員の数が多いから、場所を限定するってことなんだろう。


 みんなと今日の婚姻式の話を聞いたり、披露の時に見た場所で随分印象が違ったとか話をしていた。

 そして、ロンデェエストでの『奉迎ほうげいの儀』とロートレア教会での『誓婚せいこんの儀』は全て撮影されていて、編集ってのが終わったらセラフィラント中の教会で上映をするんだそうだ。


 貴族の婚姻式の様子が見られるってことか……!

 だけど編集って奴、タクトがやるんだよなぁ?

 あいつ、大丈夫なのかなぁ……


 なんか旨いものとか、身体に良いもの探しておいてやろうかな。

 シュリィイーレに行く前に、アメルティラ医師に相談するか。


 あ、明日と明後日はまだ公邸に行ってるんだっけ。

 セラフィエムスだもんな、アメルティラ医師も。

 じゃあ、訓練期間が終わってから、病院に行ってみようかな。



*******

次話の更新は12/2(月)8:00の予定です

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