陸第56話 ケレアルからレーデルス

 セレステから戻って、すぐにカバロと一緒にシュリィイーレを目指す。

 久し振りに表を走るからか、カバロはやたらと上機嫌だ。

 うん、楽しいよなぁ、皇国内を思いっきり走れるのは。


 途中で休む時もカバロは川の水を飲むし、ぺたんと草の上に座り込んだりする。

 のびのびし過ぎだろ、おまえ……


 ヒヒヒン、ヒンっ


 まぁ、楽しそうだからいいか。

 タルァナストさんは牧場で蓄音器を使っていろいろな音楽を流しているからか、どうにもカバロの鳴き声まで歌みたいに聞こえてくることがある。

 俺の気のせいだと思うんだが、機嫌がいい時だけなんで本当に歌っているんだとしたら……うちの馬、凄ぇ。


 馬では走りにくいロンデェエスト領はサクッと『門』ですっ飛ばし、エルディエラ領に入る。

 出発が少し遅かったから、越領してすぐのケレアルで天光が陰ってしまった。


 でも、この町からレーデルスまでなら、カバロと走って半日ほどで着ける。

 そういえば、ケレアルってちゃんと歩いたことなかったなぁ……

 明日は町を少し見てから、レーデルスに向かおう。



「ああ、部屋も厩舎も大丈夫だよ」


 相変わらずカバロが立ち止まった宿は、すぐに泊まれる部屋があった。

 しかも、厩舎が凄くでかい……居心地いいんだな、よかったな。


 翌朝、宿の食堂に行ったらイノブタ肉がたっぷり入った甘藍と一緒の甘煮だった。

 うわぁ……とろって口の中で崩れるくらい柔らかくって、一気に口の中全部が旨いーー。

 あ、これタクトのとこの食堂で食べた『イノブタの角煮』って奴に似てる。

 だけどこっちの方が甘いなー。

 どっちも好きだなぁ。


 ふぅ……朝からやたらいっぱい食べてしまったが、ちょっとカバロと散歩しながら町を歩こうか。

 町中は騎乗せずに並んで歩いていたのだが、それでもカバロは楽しいのかフヒンフヒンと機嫌のいい時の声を漏らす。

 ……もしかして、ウァラクの神泉宿に行くと思っているんだろうか……

 シュリィイーレでも神泉湯には入れるから大丈夫か?


 ケレアルの町はのんびりとしていて、イノブタの牧場がある。

 腸詰めとか燻製肉を作っている工房も多く、ウァラクとシュリィイーレに入れているらしい。

 そういえば、と保存食になってる包みプパーネの材料を見たら『ケレアル産イノブタ肉』と書かれている。

 なるほど……なんだか似ているって思ったのは、産地が同じだったからかもしれない。


 長閑な町をくるりと回って、あまりの平和さにすっかりのほほんとした気分になってしまったが、昼少し前にレーデルスに向けて走り出した。

 途中の道は少しずつ上り坂になっていったが、馬車も通れる道だったからカバロも難なく進んで行く。

 こうしてみると改めてシュリィイーレって高地にあるんだな、と思う。


 なんだか今日は、街道をレーデルスに向かう馬車の数が多くて、辿り着くまでに随分とかかってしまった。

 まぁ、どちらにしろレーデルスで泊まる予定だったからいいんだけど……こんな遅くに宿が空いているかという心配だ。


 確かこの町には、宿が一軒だけだったはずだ。

 駄目だったら、前みたいに魔法師組合で頼んでみるかなぁ……


「おや、あんたツいていたね。最後の一部屋が空いているよ」

「えっと、馬も平気か?」

「ああ、大丈夫。この町に来る人は馬車が多いから、厩舎が広めだからね」


 ……やっぱり、カバロといると宿に入れる。

 もしかして、馬に加護を与えてくれる神ってのもいるのかな……?


 ヒヒンっ

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