陸第53話 ダフトからセラフィラント
ダフトに戻り、天幕の中で約定書の下書きを書き上げてタクトに送っておいた。
戻ったらすぐに返事が来るだろう。
デルムト製紙工房の情報をまとめ終わって、焼き菓子を三枚ほど食べた時にタクトから通信が繋がった。
いかん、口にまだ菓子が……
〈あ、悪い、食事中か?〉
「い、いや違う。大丈夫だ」
そっか、もう夕食の頃だったか……道理でちょっと腹が減ってる。
タクトから冒険者組合との契約には『本の定義づけ』を追加して欲しいと言われて、見本を送ってもらった。
その他は、シュリィイーレの商人組合で『問題ない』と言ってもらえたらしい。
トールエスとの契約の方も、タクトがこれでいいと思うよと言うのでこのまま明日契約してしまうことにした。
「解った。じゃあ、これで契約を進める」
〈ああ。楽しみだなー! なんか、面白いものが手に入るといいなぁ〉
タクトがウキウキしているのが解るだけで、なんか上手くいってよかったなと俺も楽しくなる。
どんなものが手に入るだろうなぁ。
「そうだ、三、四日したら、一度シュリィイーレに行く予定だから、ルトアルトさんの宿を頼んでおいてもらっていいか?」
〈おー、いいよー。えっと、十四日くらいからか?〉
「そうだな……十五日から四日間、頼んでいいか?」
〈解ったー。じゃあ、色々詳しいことはその時に……あ、俺、十五日は予定があるからそれ以外の日なら大丈夫ー!〉
それだけ確認できたら大丈夫だな。
明日契約が終わったら、一度ティアルゥトに戻って飼料がいつになるか確認して、えーと……
なんか……不思議だ。
こんなにも『先のこと』が暦帳に書かれている。
明日だけでなく、その先も、その先も。
それが全部楽しみで、何が起きるかワクワクしているものばかりで、数年前に初めてこの国に来た時の俺とは、明らかに俺自身が変わったんだと少し笑ってしまう。
ぐぐぅ……
いかん、夕食、食べていなかったんだった。
何、食おうかなーっと!
翌日、冒険者組合に行ってタクトからの『本の定義』についてを契約書に入れて欲しいと言ったら、組合長達にも納得してもらえたので新しく書き加えられたものに押印した。
なんだか組合長達にめちゃくちゃ喜ばれたんだが……そんなに『文字』の書かれたものが出て来るんだろうか?
タクトが喜ぶからいいんだけど、見つかったらロカエの冒険者組合に連絡を入れてくれるという当初の提案通りで話がまとまった。
もしかしたら『見つけていたけど掘り出してこなかった物』の中に、そういうものが多いのかもしれない。
冒険者組合の前で待っていてくれたトールエスと合流し、商人組合で『筆記伝承買取』の契約を交わして商人組合で承認してもらえた。
こちらはちょっと怪訝な顔をされてしまったが、俺の契約主がシュリィイーレ商人と解ると納得顔になった。
……シュリィイーレって、どう思われているんだろうなー。
さて、これで……大丈夫かな。
タクトに会った時に、複製を作ってもらって持っててもらおう。
よしっ、オルツにもーどろっと。
「……という訳で、これがその剥がれる硬皮用紙」
「相変わらず君は……とんでもない勢いで証拠品と情報を手に入れてくるよねぇ……あ、買い取るからね。後で……冒険者組合は又、口座溢れる寸前らしいから行ってあげてね。今回のは、魔法師組合の方に入れておくよ?」
「そうしてくれると助かる。ロカエには、明日にでも行くことにするよ」
ランスィルトゥートさんといつもの感じでやりとりをして、ティアルゥトに戻る。
昼までカバロのご機嫌取りでガッツリ遊んで、タルァナストさんと昼食……はー、美味しいー。
この数日、ちょっとバタバタし過ぎたよなー。
……なんか……ちょっと爺くさいか……?
だけど、タルァナストさんとのんびりしているとそういう気分になるんだよなぁ。
さて、この後はセレステのみんなに土産を持っていこうかな。
蓋付きの深めの皿みたいな青銅製の入れ物とかが幾つかあったからさ、港湾事務所で飴とか焼き菓子がいつも袋ごと転がってて……フィクィエムが片付けろってみんなに言ってたんだよ。
タルァナストさんみたいに入れ物に入れておくって決めれば、散らかさないと思ったんだ。
気に入ってもらえるかなー。
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『カリグラファーの美文字異世界生活』第888話とリンクしています
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