陸第49話 ダフト冒険者組合の会議室 - 2

 ニストラト組合長の言葉に、俺は少しばかり失望した。


「君からの要望だが、その通りにはできん」

「……理由は?」


 俺の声に不信感が漏れているのを感じたのか、ニストラト組合長は慌てて『違う、違う』とバタバタと手を振る。

 どー違うんだよ?


「君の条件では、儂等に利があり過ぎるんじゃ!」

「は?」


 いやいや、競りにもかけずに俺に売れっていってるんだぞ?

 どこら辺が、冒険者組合の『利』になるっていうんだよ?


「君の言っていた『文字の書かれているもの』は、冒険者達には全く売れないものなのが殆どなのだよ。だから、迷宮品としての最低価格で冒険者組合が買い上げても、ずっと倉庫にでも入れておくだけのものもある。それを欲しいと言ってくれるのだから、こちらとしてはありがたいと思うだけだ」

「そうそう、そういうものを『態々金段冒険者に足を運んでもらう』上に『買い上げてもらう』なんて……申し訳なくってできないんだ」


 ええぇぇーー?

 だけど絶対、タクトはそういうものを喜ぶんだってー。


「なので、儂等がそれらを回収次第、テルムントから魔導船でオルツ経由でロカエの冒険者組合へ届けさせてもらいたい」

「……あんた達が?」


「うむ。組合管理品になるから、他の誰かに依頼することはできんし確実に君に渡すには、儂等の手で皇国まで届けたいと思う」

「勿論、不要品の処分扱いとなるから、君から『代金』は受け取らん」


 ……想像以上に至れり尽くせりって状態になっちまったが……いいのかな、甘えちゃって。

 だけどなー、無償ってのはやっばりなー。


「それだと俺への『譲渡』になるのだろう? 俺の契約主に取引品として渡すためには、正規の価格での『買い付け』が必要になる。だから無償では受け取れないし、そういう『善意に頼ったやりとり』が長く続くとは思えない」

「う……そ、それは、そうだが……」


「皇国まで持ってきてもらえるのは助かるが、そのための魔導船乗船費などはどうするつもりなんだ?  あんた達が今の立場から変わったとしても、同じように継続されるという保証は?」

「「「「「……」」」」」


「一度や二度の取引にしたくないからこそ、どちらかが損をしていると感じたりせず、これから先も不満が出ないように正しく契約をしたい」


 組合長達は俺への善意とか申し訳なさというだけではなく、ご機嫌取り的なことをしたいのではないだろうかと思った。

 そして、おそらくその予想は、今の彼等の表情を見てても殆ど間違ってはいないだろう。


 もしかしたら、ひとりの冒険者が『冒険者組合と対等に取引する』ということを……恐れているのかもしれない。

 それだけじゃないのだろうが、どうなるにせよ冒険者組合の主導にしたいんだろうな。


 初めは純粋な感謝の気持ちで始めてくれたとしても、次第に気持ちなど変わっていくものだ。

 ならば、最初から感情に左右されない『取引』にした方が、タクトに迷惑がかからない。


「……解った。正規取引として……契約させてもらう。ありがとう」

「俺の提案した通りでいいか?」

「最低基準価格は、こちらで決めさせてもらいたい。いくら君が全て引き取ってくれるとは言っても、我々にも『価値がない』と感じているものを高額で買い取ってもらうというのは……冒険者としての道理にもとる。勿論、君が納得できなければ、価格の変更をさせてもらう」

「解った」


 正式に書類にしてくれるというので、暫く待つことになった。

 そして、その間に……と、やけに慎重にふたつほどの中箱が持ち込まれた。


「こちらに利のある取引になっちまったが、おまえさんの言い分は尤もだった。だが、このふたつは『偽装確認書発見』の礼だ」

「そうですよ、ガイエスくん。これだけは『買取品』ではなく、君への『礼品』として受け取ってください」


 箱を開けると数冊の本と、石板のようなもの、いろいろな箱とか道具と……歪な形の硝子玉?

 どれも、文字らしきものや記号らしきものが書かれている品だった。

 なかなか量があるが、箱の中自体はスカスカだから重くはないみたいだな。


「こういったものは、たとえ見つかったとしても掘りだして持ってくる冒険者は少ない。今後、君が買い取ってくれるとなれば、もう少し集まるかもしれないが……これはここ二百年で、倉庫に残っていたものだ」


 そっか。

 これは……そのまま貰った方が、今後の取引が『対等』にできるかな。


「解った。契約主もきっと喜ぶと思う」


 その後、用意してくれた契約書はしっかり隅々まで読ませてもらうと、あの『タクトが考えた『余白確認』の文言』も書き添えられていた。

 二枚用意されていたそれに『宿でゆっくり確認してからでいいか?』と言ったら、是非そうしてくれと言われた。

 なんだか、ヘストレスティアには変に警戒されたかもしれない気がするが、今更か。


 この『礼品』はタクトも喜んでくれると思うから、この二箱はこのまま渡そうかな。

 だけど、俺も説明が聞きたいから、会った時に渡したいなぁ。

 重くもないし……シュリィイーレに行くまで【収納魔法】に入れておくか。



*******

次話の更新は9/16(月)8:00の予定です

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