陸第48話 ダフト冒険者組合の会議室 - 1

 翌朝はまたダフトへと入った。

 あの確認書の件で頼んだこと……何処まで吞んでもらえるだろうか。


 朝食はタルァナストさんの所で食べてきたから特に腹は減っていないんだが、今日はやたらと町中に屋台が出ているのが気になる。

 あ、明日が競りの日だからか。

 前日から泊まりがけで来る人達が多いってことは、また面白いものが出るんだろうか。


 冒険者組合に入り、ちょっと次の競りの内容を確認する。

 武器、防具、貴石……

 そっか、冒険者が喜ぶものばかりってことか……うん、これはいいや。

 今回のは、迷宮核も出ないみたいだしな。


 貼り紙を見上げていた俺をみつけた組合長が、声をかけてくる。

 軽く挨拶をして……すぐに奥へと通された。

 ……そこには、四人の男……各町の組合長と思われる人達がいた……なんで?


「まずは、礼を言わせてくれ」


 ひとりがそう言うと全員が立ち上がり、俺に『皇国人みたいに』頭を下げる。

 ヘストレスティア人やガウリエスタ人では、あまり見ない『礼』だ。

 いや、冒険者では、かな。


 部屋にいたのは、面識のあるカース冒険者組合のレツィオ組合長、テルムントのレクシオ組合長。

 初めて見たふたりはカトエラのリエーク組合長と、現在冒険者組合の統括であるというエカロト冒険者組合のニストラト組合長。

 俺を招き入れたダフトのトゥングス組合長が、俺に椅子を勧める。


 そして改めて全員が席に着き、俺も腰掛けるとちょっとだけ吃驚した。

 ……ヘストレスティアでふわっとする椅子なんて、初めて座ったかもしれない。

 すぐに、ニストラト組合長が、話を始める。


「あの確認書が使われるようになってまだひと月ほどだったが、被害にあった冒険者や代理人は十数名いた。だが、今後は防止できるだろう」

「そうか、それなら良かった」

「まだ調べの途中だが、今の時点では皇国籍の方々にまでは使われていなかったらしい。君が初めてだったようだ」


 皇国の商人の代理だったとしても、ヘストレスティア人や元他国人の帰化冒険者にだけで契約主が国内にいない者にだけ使っていたということか。

 俺が単独で買い付けに来ている『帰化冒険者』とは解ったらしいが、帰化先を皇国だと解っていなかった……ということは、それを知っている冒険者組合と商人組合が関係してはいないだろうということで、役人達に絞ったみたいだった。

 どうやら俺に対応した役人から、芋づる式に上役達までの関わった連中が捕らえられたらしい。


「ただね、君がどうやってあの仕掛けに気付いたか……それだけ教えてもらえないだろうか?」

「皇国の衛兵隊に聞いたんだよ。違法に契約を迫られた皇国の冒険者が『裏までびっしりと文字の書かれた契約書』を持っていたって。だから、裏を気にしてて……控えをもらったら、なーんか嫌な感じがしたから」


 五人は『皇国の衛兵隊に知られている』ということに焦りを感じたのか、顔色が少し悪くなる。

 どうやらその『剝離式硬皮用紙』がヘストレスティア内で作られていることは明らかだが、作っている場所の特定ができていないようだった。

 そして、政府主導のせこい詐欺なのか、一部の役人達の短慮な事件なのかも調査中ということだ。


「このことは、我々ヘストレスティア冒険者組合から皇国の衛兵隊に知らせたいと思っているが……我々の調査結果を、皇国側は何処まで信頼してくれるだろうか……と」


 組合統括が心配するのも尤もだろう。

 なにせ、冒険者というのは『職業』としては皇国に認められていない。

 そしてこの国の衛兵団の冒険者に対する信頼のなさと差別的な扱いを知っているから、その衛兵団が崇拝しているような皇国の衛兵隊が相手にしてくれるはずはないと考えていても仕方ないと思う。


「……絶対に全てを信用してくれるとは言えないが、少なくとも皇国側は無視したり疑うことから始めるような真似はしない。皇国の冒険者達は衛兵隊の訓練講習に参加できるし、それで実力がつけば、ちゃんと『認定』だってしてくれる。冒険者だということだけで、信頼しない理由にはならないだろう」


 普通の皇国民達は、冒険者というだけで毛嫌いする人も、怖がる人だっているだろう。

 だけど、むしろ衛兵隊や教会には、偏見を持たない人達の方が多いと思う。

 きっとそれを見極められる『目』や『技能』があり、何があっても阻止できるという自信もあるからかもしれない。


 本当に『強い』人達は、懐も深い……ってことかもな。

 だけど、まぁ、すぐにヘストレスティア側に信用しろって訳にはいかないよなー。


「今回の件を持ち込んだのは、俺だからな。俺でよければ……『正式書簡』なら、預かるぞ? オルツの海衛隊になら、間違いなく届けられる」

「……すまない、君に何もかも頼んでしまうことになって」

「いいや、俺としても皇国に報告することで恩が売れれば、動きやすくなるからな。これからもいいものが出れば、俺の契約者は欲しがるだろうし」


 別に皇国側に恩が売れるとは思っていないし、そんな必要も感じてはいない。

 動きやすくなるのも、彼等は『皇国で』と考えているだろうが、俺としては『ヘストレスティアで』という意味だし。

 だが、冒険者達の常識的な考え方をすれば、こう言っておく方が信用されるということだ。


 それに、これでそれこそ『ヘストレスティア冒険者組合が恩を感じて』くれたら、俺が出した要求はもっと通りやすくなるだろうしなー。

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