陸第41話 ダフト町中から競売場

 朝、天幕の中で目を覚ますとタクトから『望遠部品』というものが送られてきていた。

 撮影機に取り付けると、タクトにも遠視とおみと同じくらいの大きさで見えるらしい。

 ……凄いな……近くに行かなくてもいい撮影ってことか。


 朝食を食べてから撮影機を取り付けて、起動させておく。

 競売場に着いてからだと誰かに見られるかもしれないし、そうなったらいちいち説明などする訳にもいかないし。

 町中が撮影できるなら、タクトはそれも面白がるかと思って。


 昨日より簡単な受付でいいから、少しばかりゆっくり町中を歩きつつ向かうことにした。

 ダフトはいつも晴れているが、空気が乾いてて喉が渇くんだよな。

 いや、ヘストレスティアはどの町でも大抵は乾いてるな。


 シュリィイーレで買った湧泉の水筒は、他領や他国では水が湧かないって言ってたけど本当なんだなーと思いつつ『清水の方陣』で水を満たして飲みながら歩く。

 そういえば……旧ジョイダールの方が水が豊かだったな。

 やっぱり『地下に迷宮がない』方が、川や湖が多いとかあるんだろうか。



 競売場に着き、すぐに二階へと上がっていく。

 座席は、昨日と同じ『青五番』なので、その前の扉へ。


 受付の女性に『迷宮核の競り参加者は、ガイエスさんを含めて四人です』と告げられ、何故か頑張ってくださいね、と言われた。

 絶対に落とすと息巻いていた奴でもいたんだろうか。


 その間に態々斜めがけにして持ってきた鞄の中身を見せ、金をちゃんと持っていること、危険な武器を持っていないことを確かめてもらってから中へと入り、席に着く。


 昨日より二階は人が多そうだ。

 少しばかりざわざわしているから、まだ誰も消音の魔具を使ってはいないのだろう。

 俺は消音を起動させて、タクトに通信を繋いだ。


「見えてるか?」

〈ああ、問題ない。思っていたより広いんだな〉


 よかった、ちゃんと見ていたみたいだ。

 返事が返ってこなかったらもう少し待とうと思っていたが、タクトは町中を歩いていた時から見ていたようだ。


〈その一覧表、借りてもいい? すぐに返すから〉


 今日の品書きが映ったのだろう。

 確かにこれは手元で見てもらった方がいいなと、すぐに転送する。

 ……そして、あっという間に帰ってくる。

 あいつって本当になんでも複製できるんだなぁ。


〈へぇ……迷宮核って……これか〉

「迷宮核だけは事前入札だったんで、俺の他には三人に競りの権利があるらしい」

〈解った。金はちゃんと用意してるけど……もしも皇国小金貨で五十枚以上になったら、大金貨ならまだまだあるからな!〉

「……そんなには、ならねぇって……」


 こいつ、競売場ごと買う気なのかな……

 流石にどんなに『本』の価値が解っている奴が参加していたとしても、皇国小金貨で三枚以上になんて滅多にならないだろう。


 競ってくる三人も、おそらく皇国人の商人か商会と契約している冒険者だろうとは言ったが、それも単なる想像に過ぎない。

 二階では『誰がどこにいるかすら解らない』んだからな。



 暫くして幕が上がり、進行役が出てきた。

 ……今日は護衛の数が多いなぁ。

 昨日より、高額設定の品が多いってことかもしれないな。

 一階席の連中が徒党を組んで、進行役から品物を奪ったりしないようにってことだろう。


 二階からも度々かかる金額提示の声が、昨日より随分と多い。

 一階にいる連中は、買いに来たと言うより『どんな品にどれくらいの値が付くか』を確かめに来たんだろう。

 自分達が迷宮に入って、取ってくる品を選ぶときの目安にするために。


 ここらの中級は品数が多いと言っていたから、選んで取ってきているってことだな。

 まぁ『武器の形の飾り』なんてものを欲しがる冒険者は少ないもんな。

 商人達に売れるものってのを見定めておこうというのは、当然だ。


〈へぇ、あの鉄橄欖石てつかんらんせきは、結構いい石だなー〉


 タクトがそう言って、俺もその品を遠視で確認する。

 ……良さがイマイチ解らない……『遠視の方陣』を使っている時って、鑑定技能が使いにくいんだよな。

 欲しいのかと思って買うかどうか尋ねたら、錆び付き山の方がいいものが採れると笑う。

 だろうなー。


〈鉱石関連はあまり食指が動くものはないけど、使われている金属は面白いものがありそうだな〉

「……よく見えるな……取り付けた部品で近付くからか?」

〈それもあるけどね。この席がいいんだよ。間に何もないだろう? 人もいないから魔眼で視やすいんだよなー。おまえだって『遠視の方陣』が使いやすいだろう?〉


 確かにそうだ。

 間に人がいたり、何かに視界が僅かでも遮られると『遠視』は凄く見えづらい。


「ああ。でも『遠視』で視ながらなんて、鑑定できないって」

〈だからさ『遠視』を『方陣として使って』みろよ。そうすると技能の方陣でも魔法に引っ張られないから、鑑定の段位が低くてもちゃんと働くぞー〉


 え、そうなのか?

 俺……まだ【方陣魔法】で方陣を使っているってことか……意識していたはずなんだけどなー。

 その後も出て来るものに使われている石を鑑定してみながら、タクトが色々と教えてくれる。

 初めて聞く石の名前も幾つかあったけど、タクトの説明は解りやすくて面白い。


 その説明してくれたものの中で、タルァナストさんとかセレステのみんなとかが喜びそうなものがあったのでちょこちょこ値をつけた。

 ……殆ど競りにならずに手に入っちまったから、ちょっと高く付け過ぎたのかもしれない。

 でも、皇国貨だと銅貨以下って使わないんだから、感覚がヘストレスティア貨と違うのは仕方ないと思うんだよなぁ。


 その後、出て来るものが高額になってきて皇国大銀貨での声もちらほら上がる。

 一階席からは『武器より高い価格が付く』ってことが解って、自分達が今まで取らずに置いて来たことを悔しがっているような声も上がっている。

 さて……そろそろだよな、と一覧表を確認してタクトに声をかける。


「タクト、次だ」


 すると、耳元で『よぅっし』と小さく聞こえ、競りに備えているようだ。

 大丈夫だって、おまえが手元の金を使う事態になんてならないからさ。


*******

『カリグラファーの美文字異世界生活』第876話とリンクしています

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