陸第40話 ダフト競売場

「ようこそ、ガイエスさん。競売場は初めてでいらっしゃいますよね」


 驚きから立ち直り微笑む組合員に案内され、少し広めの席で隣との間に衝立があり見えないようになっている。

 どうやら二階は全てこういった仕切りのある座席らしく、緩やかに前の方が下がっていて競りが行われる一階正面を見下ろす形になっている。


 そうか……ここに来るのは金を持っている人達ばかりだから、互いに顔などが解らないようにしてあるってことか。

 一階からは全く、二階席が見えないみたいだし。


「ここからだと、声が届かないよな?」

「はい、ですから、こちらの『伝声管』にお話しくださると、進行役の両脇にございます拡声管から声が聞こえますから」


 どうやらこれも魔道具らしく、蓋を開けて声を発すると舞台上に設えられているそれぞれの管の出口から、声が会場に響くらしい。

 それって隣の奴の声が煩そうだな……あ、それで仕切りがあるのか!


 目の前にある卓の上には、おそらく皇国から仕入れたと思われる『消音』の魔道具がおかれている。

 仕切りごとにこれを稼働させておけば、舞台上の伝声管から聞こえる声以外は二階席の声は聞こえないということだ。

 きっと高額で買い付ける場合には相談をしたり、計算したりするだろうからだろう。


「金額を伝える時は、こちらの承認番号……ガイエスさんのお席は『青五番』ですので『青五』と先に言ってから金額を言ってください」

「解った。青……というのは、ここの欄干の色か」

「はい。皇国での正式な取引契約があり、所持金が『全商品の希望価格の合計額』を上回っていらっしゃる方々のお席です」


 ……しまった。

 皇国大金貨を一枚だけ見せ金で入れておいたからか。

 まぁ……いい席だから、よかったかも。


「金額の申し伝えは『皇国貨』か『ヘストレスティア貨』か、そしてどの種類かと枚数をお願いいたします」

「えっと、じゃあ『皇国貨で大銀貨一枚、銅貨三枚』……とかか?」

「はい、そのように。何も指定がなく金額のみですと、一階と同じ『ヘストレスティア硬貨』と判断されてしまいますのでご注意くださいね」


 なるほど、一階の連中はヘストレスティア貨の価格でっている訳か。

 そーか、そりゃ二階に入る冒険者は、商人と契約がなきゃ金段以上ってなるよな。

 金段だと、冒険者組合からの報酬はほぼ皇国貨になるだろうからなー。


 目当てのものは全部明日だから、今日は試しにひとつくらい参加してみようか。

 それでやり方を掴めれば、明日戸惑わないで済みそうだ。



 その後、始まった競りは活況を呈し、結構みんな景気が良いんだなと楽しく見ていた。

 一階は……かなり煩かったけど、面白がって態と言い合いのように値をつり上げていく奴等もいて、ある意味祭りだなと思うほどだ。


 俺も試しに紫色の石が付いた金属製の丸い箱に値をつけたら、同じ『青欄干』の奴が競ってきた。

 だが、皇国小銀貨三枚以上出す気はなかったようで、すぐにケリはついてしまったが。


 受取は、皇国貨での支払いの場合だけ全部の競りが終わった後なので、明日の競りが終わった後になるらしい。

 なんかこういう買い物も、ちょっといつもと違うから面白いな。


 ただ……やっぱり席から正面舞台が遠いんだよな。

 手元に全部の品の『精画』をもらえるけど、絵だと解りづらいしタクトに見てもらう映像も……あ、映像は借りたままの『頭部装着』の方にしよう。

 俺のは座っちゃうと欄干しか映らなそうだし。


 俺は『遠視とおみ』を使えば、進行役が手に持っているものを視られるけど撮影機に『遠視の方陣』を描いたら大きく視えるもんなんだろうか?

 タクトに聞いてみるかなぁ。

 手紙、送っておこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る