陸第39話 ダフト野営場と競売場

 入札も済んだし、迷宮核競りの参加証ももらった。

 どうやら希望価格は上回れたようだ。


 競り市は強制的に二日分の参加費だったが、一日目は買いたいものがなさそうだから様子見だけだろうな。

 タクトと通信を繋いで撮影するのは二日目だけだが、しっかり食べて魔石も確認しておかなくちゃ。


 さて……ちょっと遅くなってしまったから、今日のところはダフトで宿を……と思ったが、二日間の競り市ということでめちゃくちゃ混んでいてどこも満員だ。

 うーむ……最近どうしてこうも『宿』が取れないんだ……

 まさか、カバロがいないからか?

 いやいや、それはないか。


 仕方ないので町外れの『野営広場』を使わせてもらおうか。

 冒険者組合で申請したら『金段の方を野営広場になんて!』叫ばれてしまった。

 だが、天幕があるから、とゼイク時と同じようなやりとりをして野営に向かった。

 馬がいないからゼイクの時よりは狭いけど、充分な広さだ。


 ひとり用の傘天幕を開くと、これまたゼイクの時のように注目が集まってしまう。

 無視、無視。

 腹が減っているんだよ、俺は。


 夕食は何にするかなー。

 あ、パティーグの赤茄子煮込みがあった。

 じゃ、これを温めて、パンはちょっと硬めの奴がいいなー。

 えへへへー、旨ーい!


 そうだっ、柑橘のふあふあした焼き菓子もあったはずだよな!

 上に塗られているの、橙杏とうあんの煮詰め?

 うん、全部旨いっ!

 この焼き菓子、少し酸味があるからか甘めの珈琲と一緒だともっと旨い。


 なんかヘストレスティアだと、宿が取れない方がゆったり寛げる気がする……

 天幕の中は【清浄魔法】で空気がいいから、そのせいなのかもしれない。

 それで食べものまで、旨く感じるのかなー。



 翌朝、まだ空はぼんやりとしてて暗さの残る頃だったが、天幕の外に出て身体を伸ばす。

 えっと、アフェルがやってた『ちくおんきたいそー』ってのは……こんな感じだったか、と身体を動かす。

 あ、これ結構気持ち良いぞ。

 腰も伸びるし、目が覚めていいなー。


 スッキリしたので朝食にと、この間保存袋に入れていた魚焼きを取り出す。

 凄ぇ、まだ温かいままだ。

 あっこの魚焼き、中に鶏肉が入ってる!

 うわぁ……葱もいい塩加減で旨いー。


 もう一個は蛸が入っている奴なんだよな。

 ロートレアの蛸入りは、甘藍の刻んだものも一緒に入ってて好きなんだよ。

 あ、生姜も入ってる!

 これは初めてだけど、いいな、生姜の味も!


 しまったー、味噌汁なくなっちゃってたー。

 んー、玉葱茶だとちょっと違うー……旨いけどー。

 少し足りないから、玉子焼き挟んだパンを食べちゃうかな。

 玉葱茶飲むと、やっぱり玉子が食べたくなるんだよなー。



 満腹になったので、一日目の競りを見に競売場を訪れた。

 参加証を見せて建物の中に入ると、かなり盛況だ。

 一日目は武器や防具が主な品だから冒険者ばかりかと思ったが、ちらほらと商人らしき人達もいる。


 広い前室から競売の会場に入る前に『所持品』と『所持金』の検査があり、冒険者も商人も組合証を提示する。

 武器の携帯は禁止で、控えている冒険者組合組合員に預けるか【収納魔法】にしまっておくらしい。

 そういえば、競りの途中でも暴力沙汰が起きるって言ってたっけな……


 検査の順番になって、係の組合員に組合証を提示した途端『金段の方はそちらの階段の上へ』と言われてしまった。

 ……あ、書いてあった……見てなかったな。


 二階に上がると下にたむろしていた奴等とは違い、おそらくヘストレスティアの商人達とその護衛……皇国商人との代行契約などをしている冒険者もいるだろう。

 明らかに、金を持っていそうな人達ばかりだ。

 そうか、確かにあの荒くれ共の中に、金持ちとか商人を危なくって一緒には入れられないもんな。


 所持品と所持金の確認をされると、途轍もなく驚かれた……うわー、目がはち切れんばかりだなー。

 いかん、久々に見ると目がでかいだけで笑っちゃいそうだ。

 そーそー、ヘストレスティアの吃驚顔はこういう人が多かったっけ。

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