伍第76話 王都中央・魔法師組合
取り敢えず、金は下ろしたのだが……大金貨なんてものを持っての移動はちょっと緊張する。
いつもはさ、魔法師組合とか冒険者組合で預かっても袋に入れたまんまで、中を見ないで中央口座に預けちゃってたから……
まぁ【収納魔法】の中に入れちゃってるんだし、タクトから貰った袋で軽量化されているから重さ的な実感はないんだけど。
そして、中央役所から出る時に、魔法師組合が方陣札を欲しがっていたと聞いたので寄ることにした。
魔法師組合では待ってましたとばかりの大歓迎を受け、浄化だけでなく清浄も頼めないか、と言われたのでそれも預ける。
「ありがとうございますーーっ! あの『血赤布事件』から、どうも色のきついものは【浄化魔法】をかけてからでないと売れなくなっているとかで、消費が大きくてー」
大袈裟に喜ぶ組合の受付で対応してくれたのは、あの浄化したタルフ布で手巾を作ってもらったと言っていたリセプシオさんだ。
「まだ、危なそうなものが出回っているのか?」
「いえいえ、違うのです。一度『派手過ぎる色は毒性がある』という情報が回ってしまいましたでしょう? だから、買い手側が神経質になってしまって。で、店側としても色鮮やかなものについては『その場で浄化する』という実演販売をやっているのですよ。その方が、客も安心して買ってくれる上に『きちんとした店だ』という評判になりますので」
そう言ってちょっと苦笑いのリセプシオさんが見せてくれた時事記紙には、正しく浄化をしている商会なんてものの格付けが書かれていた。
なるほどなー、こういう『煽り』で余計に浄化が流行っているってことかもなぁ。
実演販売って言うと、タクトの所での菓子の印象しかなかったけど、こういうのもあるのかー。
「ガイエスさんの札は、憲兵隊が使っていますから人気が高くて。いや、本当に助かりますっ!」
どうやらコデルロ摘発の時に、まだ客が居る前で俺の札を使っての浄化をしたようだ。
そのせいで『憲兵隊と同じ方陣札使用』というのが、信用にもなっているのだと言われて……ちょっと、俺も苦笑いが漏れる。
皇国って本当に、衛兵隊とか憲兵隊を信頼しているんだなぁ。
ヘストレスティアとかだと絶対に『あいつ等が言うことや、やることには裏がある』って言う人が、半数以上はいそうだけど。
「ですからね、ガイエスさん……ちょっと気を付けておいて欲しいのですが……」
改まった真面目顔のリセプシオさんが言うには、最近はまた『魔法師と独自契約をしたがる商人』が増えているのだそうだ。
以前、スポトラム商会という所で行われていた契約があまりに酷くて、禁止になったり規制がかかったりしているのだが『方陣札』に関してまでは、まだ法整備が整っていないのだという。
「方陣は『生活に必要ではあるが絶対必需品と言うほどではない』という認識でしたから、まだ間に合っていないのですよ。でも、近年新しい方陣や強力な方陣が使われるようになり、商人達は『方陣の描ける魔法師』の囲い込みをしているのです」
「囲い込み?」
「はい。方陣札の買い取り価格を魔法師組合や魔道具屋より高く設定する代わりに、専属での作製を強要したり常に充分な量を作らせるために、移動制限を認めさせたりしているのです」
どうやら『雇用』という形態にすることでの『買い取り額保証』と引き替えに、方陣札を占有しようと言うことのようだ。
「中には非常に悪質なものもあって、ただの単発契約だと思っていたのに数年にわたるものだったとか、方陣札だけの契約だとしても魔法師組合への委託なども含め、個人使用も一切の筆記を認めないなんていう無茶なものもありました。特定の方陣については『自分達以外と契約したり、販売、譲渡したら契約違反金を取る』という文言がしれっと『裏側に小文字で記載』されているなんて詐欺紛いのものまであったのです!」
興奮気味に怒りの抑えられないといった感じのリセプシオさんだったが、俺もムカムカが湧き上がっていた。
商人っていうのはどうしてこうも、次から次に『法の穴』を突くようなことを思いつくんだろうなぁ。
いや、法に触れないと言い張っているだけで、実は詐欺行為ってこともあるみたいだが。
方陣は、個人が発現する魔法ほど守られているものではない。
誰でも描けるし、誰でも使えるものなのだから『占有』を考えることなど今まではなかったのだろう。
でも、その理由のひとつは『大して強くない魔法』『そんなに珍しくもない魔法』だったからだ。
だが……きっと、タクトの作り出した方陣や描き直した方陣が出回り始めて、状況が変わった。
方陣という魔法が認められることは俺としては嬉しいし、今後もそうであって欲しいと思うが……それによって不自由が生まれるというのは……ちょっと困る。
「ですからね、ガイエスさんも『契約』を持ちかけられても立会人なしでは絶対になさらない方がいいですよ。立会人も、ガイエスさんの味方で絶対に信頼できるという人でなければ、許可するべきではないです。最悪……拉致しようと企む奴等だっていないとは言えませんからね」
「拉致まで考える奴なんて、皇国にはいないだろう?」
「……いますよ。たとえ皇国人だったとしても、理解できない倫理観を持っている人だって。それに『商人の協力者』がいるのは、皇国だけではないですからね」
確かに、その通りだな。
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