伍第75話 ピリルェット、王都

 宿で入った『冷泉』というものも、今までの神泉とは違った気持ちよさだった。

 カバロの気持ちがちょっと解る……

 流石に水に浸かるのは無理だったけど、広い湯部屋では『掛水かけみず』がいいよ、と主のおじさんに教えてもらって試してみた。

 頭の天辺からざばーーって掛けると、全部が浄化されるみたいですっげ気持ちよかった……


 その後にタクトから貰ったタオルで拭くのも、めっちゃくちゃ気持ちいいんだよ。

 カバロに使ったものも半刻間も天光に干していたら、元通りふあんふあんになって顔を埋めたくなるほどだ。

 このテルメの神泉粉、いっぱい買っておこうっ!

 水に溶く方がいいって言ってたよな。

 他の神泉粉より溶けやすいらしいから、手軽に使えそうだ。



 翌日には神泉組合でこの町の神泉粉を買い占めてしまうほどの勢いで買い付けてしまい、金の使い方を知らない成金の買い物みたいだったと後で少々落ち込んだ。

 まぁ……成金というのも強ち間違いではないから、仕方ないと諦めることにしてそのまま少し南西にあるピリルェットを目指す。

 馬で半日ほどで着くというので、カバロと楽しく走りながら。


 ピリルェットは王都との越領門があるから、ちょっと越えておくのもいいだろう。

 神泉もある町なので泊まる予定で到着後すぐにカバロを宿に預け、王都側に入った。


 王都側の町はレトラスという、町中にも川が通っているくらいで特に何があるという訳でもない『中継の町』のようだった。

 ここより南方にあるリュイトと共に『教会関連の施設』が多い印象だ。

 だが、王都からすれば『外れ』という位置にある町なのに、どうして教会関連の施設が多いのだろうか……


 そしてやたらと憲兵の数も多いんだな。

 越領の町でも、町中までこんなに多いのは珍しいなぁ。


 あ、折角王都に入ったんだから、タクトに支払う分の金を中央口座から下ろしておこう!

 小金貨以上になると、どうしても領主の町の魔法師組合とかでも数が少ないらしいから。

 すぐさま『門』で、中央街区の旧教会前に移動する。


 愛想の良い中央口座の担当者にタクトから貰った魔石を幾つか見せ、これだったらどれくらいの価格で取引されるものだろうかと尋ねてみた。

 中央口座では物品の一時預かりなどもやっているし、その品の価値に応じての手数料を取ると言われていたから鑑定も確かだろうと思って。

 担当者は見た途端に目を剝き、すぐに目に突き刺さるんじゃないかと言うほどに近付いて唸り声を上げる。


「これは……これほどの魔石は、滅多に出回るものではございませんよ!」


 ……やっぱり。

 タクトの価値観は、ちょっとぶっ壊れ過ぎていると思っていいんだよな。

 俺の方が、まだ一般的なのだなとひとり頷いてしまう。


「ガイエス様……こちら、お預けに……?」

「いや、今すぐに預けたい訳じゃないんだが……もし預けるとしたら、手数料を聞いてみたくて」

「左様でしたかぁー」


 明らかにほっとした様子の担当者。

「拝見した五つ、全てシュリィイーレ産とお見受けいたします」

 凄いな、よく解るもんだ。

「どの石も混じり気がなく、透明度も一級……いえ、特級です。そして整えられた形、磨き、共に完璧ですから……」


 うん、そうだろうな。

 シュリィイーレの一等位魔法師で宝具師というか、神具師の作だからな。

 多分、神具師でいいと思うんだが、あいつはなんも言わんからよく解んないけど。


「もしもお預けいただくとなった場合には、事前に魔法法制省院内の『魔石宝具管理登録院』にて、どれほどの価値のものかの認定と所持登録を戴いてからでないと、わたくし共では保管保証ができないのですよ。どんなに安く見積もっても……手数料だけで三十万くらいはいきそうですから……」


 は?

 手数料って……確か一割以下と聞いたんだけど……?

 そこまで大事おおごとになる品なのか?


「はい、場合によっては魔石という素材に近いものであっても、新設の賢魔器具統括管理省院での登録も必要かもしれません」


 どーしよ……そんなことにまでなるなんて……っ!

 この間あいつが送ってきた魔石、こんなのばっかで五十個くらいあったんだけどっ?


「まぁ、販売なさったり、これで魔道具をお作りになったりなさらず、ガイエス様が『魔石として』お使いになるだけでしたら、なんの問題もございませんよ。ですが、どなたかに差し上げたり貸与なさる場合には、必ず、必ずっ、魔法師組合の組合長か、その町の役所の所長などの立会いで行ってくださいね!」

「……解った……気を、つけるよ……」


 あああああっ、こんな高価過ぎるもの、絶対に返すべきなんだろうけどっ!

 もう既に一回は魔力がからになるくらいまで使っちまっているから、そういう訳にもいかないしっ!


「あの、もしも、魔石としては役に立たなくなったとしたら……どれくらいまで値が下がるものなんだ?」

「シュリィイーレ産の石は殆ど下がりませんよ。小さく整え直せば、また魔石としても魔道具の素材としても使えるものばかりです。精々、一割くらいしか価値は変動しません」


 もうっ!

 本当にとんでもねぇ町だな、シュリィイーレっ!

 久々に実感しちまったじゃねーかっ!


*******

次話の更新は5/27(月)8:00の予定です

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る