弐第88話 ミトゥーリス
冒険者発祥の町、ミトゥーリスには町の中心にデカデカと冒険者組合がある。
出入りしている冒険者も多いようだ。
入る時に何か言われるかと思ったが、俺の身分証と袋の中身を簡単に見ただけですぐに入れた。
……しかも、門番の兵士はやたら笑顔だ。
理由は多分、俺が持っていた電気石だろう。
こんなに大量に採れる鉱床が見つかったのか、とか、流石皇国の掘工師だとか言ってたからな。俺がこの町に、採った電気石を売りに来たと思っているのかもしれないな。
残念ながら、この石は全部タクトの所に送っちまうつもりだが。
この調子で鉱石拾いとかしていたら、鑑定技能が上がっていい鉱石が見つけられるようになるかもしれない。
そうしたら……タクトから、菓子が送られてくるのも増えるかも。
この仕事の後も、アーメルサス内で鉱石集めをやってみてもいいかもしれない。
袋に入れている電気石はほんの一部で、大部分は【収納魔法】の中だ。
それなのに彼等が『大量』と言うのはおそらく、北東側ではあまり採れないと思われていたというだけではないだろう。
全体的に、この石が採れにくくなっているんじゃないのか?
技術・技能大国といわれているアーメルサス。
その源がアーメルサスでしか採れないとされる『電気石』だ。
魔力量が少なく、方陣さえまともに発動できないこの国の人々はこの石で日用品を使う。電気石は魔石と違って、元々この石の中に『雷光』が閉じ込められているかのような力がある。別の石や金属と組み合わせると、魔力を使わずとも熱を発したり明るくなったりするらしい。
マイウリアでもとんでもない価格で売りに出されることがあったが、買ったからといってもこの電気石がなければ全く用をなさない。
燈火や湯を沸かす道具、温かいまま冷めない皿……なんてものまであるらしい。
電気石の燈火は皇国にもないものだ、なんて言われていたけど……全然必要ないんだよな……皇国では。
最も基本的な魔法と、簡単な方陣で燈火は点くし、魔石さえちゃんとあれば湯もすぐに沸くし。
魔力が必要なくてもその電気石を見つけ出すのが難しいのなら、あんまり皇国では売れなかったのも当然だろう。
売りたかったんなら、ストレステとか皇国以外に売り込むべきだったんだろうなぁ。
どうしてアーメルサスは皇国以外の国とは、碌に付き合おうとしないんだ?
あ、他の国々からは買いたいと思えるものがないからって事なのか?
そんな事を考えつつ、ミトゥーリスを東から西へと歩く。
町の中央に役場などがあるかと思ったのだが、見当たらない。
仕方がないので、ちょっとその辺の食堂にでも入って聞いてみよう。
食堂か……と思って入ったところは、食堂どころか店ですらなかった。
いきなり中にいた数名の男共にぎろり、と睨み付けられた。
「すまん、食堂かと思ったんだが」
「……食堂は、隣の扉だ」
「そうか、悪かった」
それだけ言って、扉を閉め隣を確認する。
……なんもないが? あ、反対側か。
何だったんだろうさっきの奴等……一瞬『首都』と『閉じ込め』……って聞こえたんだが。
アーメルサス語は、皇国の言葉と良く似ている。
今の奴らが話していたのはアーメルサス語だったので、一部しか意味が判らなかった。
それにやっぱり、ちょっと発音が違うものもあるので、彼等が話していたのが皇国語だったとしてもかなり聞き取りにくい。
ロートレアで皇国語の聞き取り練習させてもらってて良かった……
もし以前のままだったら、アーメルサス語は更に解らなくて小さい村なんかだったら会話にならなかったかもしれない。
嫌な予感がするので早めに首都に向かった方がいいのではないかと、俺は食堂には入らずに西門へと向かった。
その途中で何人かに『この町に皇国人はいるか?』と聞いた。
しかし、一年ほど前にはもう全くいなくなり今は首都にしかいないと思う……と、誰もがまるで判を押したように答える。
……まだ、いそうだな、この町にも。
もう少しで西門……という時に、声を掛けられた。
衛兵か……と思って立ち止まる。
厳密にはアーメルサスには皇国で言うような『衛兵』というものはいない。『兵士』と呼ばれている奴等が、そういう仕事もするらしい。
「おまえは皇国人だな? どうしてまだこの町にいる?」
「昼少し前に着いたんだ。通り抜けて首都へ向かおうと思っている」
「そうだったのか。なるべく早く、首都に入れよ」
怪訝そうだった顔が、俺が首都に向かっていると言った途端にニヤリとした笑顔に変わった。その兵士の後ろの方に、さっき食堂の隣にいた男達がこちらを睨んでいるのが見えた。
俺は西門から出て、もう一度ミトゥーリスを振り返る。
兵士は『皇国人』だから、声を掛けてきた。『なるべく早く首都に入れ』と言ったのも、皇国人だから、だ。
皇国人を首都に集めているというのは、何か理由があるのだろうが……集めたからと言ってどうするつもりなんだろう?
首都で、何があるのだろうか。
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