弐第69話 ロカエ港
船員達が慌てふためいて、何かを探しているようだ。
箱……?
「どのあたりに箱を置いてあった?」
「いつもの所っすけど……なれはてだけだったんで、二段だけ積んでて……蓋はまだしてなかったんすよ」
「おい、下の階には持っていってねぇのか?」
「あの青い積み上げ箱は、絶対に持っていきませんって!」
青い、箱……あれ? なんか、見たような……
なれはて、って蛸のことだよな。
あ。
赤い蛸が入っていたあの箱は、青だった気がする。
俺の左むこう脛にあたったのが、丁度二段目だったし。
俺はさっきの屋台に向かって歩き出す。
見間違いかもしれないし、もう一度見たら間違いだって気付く事もあるから確認だけはしておこう。
どうやら、客が列を作っているんで店主は忙しそうだ。焼きながら売っているからだろうな。
子供達も焼く所を覗いている……子供は嫌いみたいだな。怒鳴って、追い払っているようだ。
店の裏側には、俺がさっきぶつかってしまった箱……青、だな。
確認が済んだので、まだあちこちを探していると思われる船員達のところに戻る。
「さっきから探しているのは、青い重ね箱だよな?」
俺が声をかけると、びくっとひとりの船員が驚いたように振り向く。
「あ、ああ、そうだけど……」
「あっちの魚焼きの店の裏で、見たものじゃないかと思ったんだが」
「なんだとっ?」
詳しく場所を言う前に多分一番年上じゃねぇかっていうおっさんが、俺が指差した方にとんでもない勢いで走っていった。
その後を二、三人がわたわたと追いかける。『船長』なんて呼びかけているから、あの船の責任者って事なんだろう。
あの箱で合ってたんなら、きっと蛸目当ての窃盗か。
積み上げ箱なんて港ならどこにでも有るものだから、持ち出しても気付かれないとでも思ったのかもな。
でも、青いってのはあまりないような気がする。船ごとに色を変えて、所有しているのかもしれない。
それなら盗品かどうかすぐに判るな、と思っていたら、その積み上げ箱を抱えた船長が戻ってきた。
あっという間だったなー。
窃盗犯を捕まえて憲兵にでもつきだしているのか、追いかけていった船員達はまだ戻っていない。
「おおっ! ありがとうなぁ! あんたのおかげで助かったぜ!」
船長の抱えている箱には、多分もう蛸は入っていないみたいだから全部使われちまったのか。
折角獲ってきたんだろうに。
「中身、取り返せなかったのか」
「ん? ああー、蛸か。ありゃあこの界隈じゃかなり獲れやすいから、どうってこたぁない。この重ね箱を盗られたら、それこそ
蛸より箱、なのか?
「この重ね箱には、特別な魔法が付与されているんでな。輸送中も鮮度を保つ為には、絶対にこれじゃなきゃいけねぇんだ」
ロカエ港は、王都の中央区……つまり、皇系や貴系の人達が暮らす所に出荷しているんだったな。
なるほど、そこへ運び込む為の、魔法が施されているのか!そりゃ、箱の方が大事だな。
……て事は、王都でも蛸は食べられてるって事なのか。流石だぜ、皇国……
「なんか、礼をしたいんだが……」
「いや、別に気にしないでくれ。偶々見かけたものを教えただけなんだから」
「でもなぁ……そうだ、あんたずっと港を眺めていたが、船は好きか?」
「……? ああ」
「そーか、そーかっ! よしっ、ちょっと来いや!」
船長はやたらご機嫌でグイグイと俺の腕をひっぱり、船着き場へと連れてきた。
高速魔導船とは違う格好良さがあるよな、漁船って……なんて思っていたらあれよあれよと船に乗せられた。
あ、船を見学させてくれるって事か!
それは、ちょっと嬉しい。
操舵室に案内された時には不覚にもすげー! と声を上げてしまい、船長にはにたにたと、船員達にはクスクスと笑われてしまうほどはしゃいでしまった。
……ガキっぽい事をしてしまった。
がくん、と身体が揺れて、何事かと思ったら……船が動いている。
え?
「これから漁に出っから。でっかいの獲って、見せてやるからなぁ! 楽しみにしてろ」
港がどんどん遠ざかり、船は沖合へと進んでいる。
船長が楽しげに船の装置の説明やら、どんな魔法で動いているんだとか教えてくれているのだが急な展開に俺はついていけない。
海とか船とか、暫くは出たくなかったんだよーーーーっ!
なんでこうなったーーーーっ!
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