弐第36話 王都へ

「それと、おまえの組合口座、そろそろいっぱいだぞ?」

 ボドック組合長にそう言われて、やっと思い出した。

 確認しとけって、言われていたんだった。


「……引き出して、持ち歩いていた方がいいのか?」

「うーん、それもなぁ。ああ、王都に口座を作ったらどうだ?」

「王都……行かないからな……」


 入る時に税金かかるしー。

 貯め込んでる迷宮品は、すぐに売らなくてもいいし。

 てか、売ったら金を預けておくところがないし。


「王都に口座を持っていると、入領税が安くなる。一定額以上だと、無料になったりもする。すぐに使わねぇなら、預けといたらどうだ?」

「引き出しが面倒じゃないのか?」

「他領で手続きができねぇのは確かに面倒だが、おまえみたいに方陣門ですぐ移動できるならそうでもないと思うぞ。役所の手続きは、他と変わらねぇからなぁ」


 そうか。

 一度王都には、行ってはみたかったんだよな。

 カバロを連れて、散歩がてら行くのも悪くないか。

 どんなものが売っているかも気になるし……

 だけど、王都みたいな所って移民や帰化民を嫌がったりしないのか?

 マイウリアの王都は、移民を近寄らせない店が多いって聞いたことがあるんだよな……


「王都に着いたら、まず魔法師組合に行って払い出しをしてもらう。で、その証明書と金を『中央役所』に持っていくと口座を作ってくれる」

「帰化民でも平気なのか?」

「ああ、そういうことは関係ねぇよ。王都にだって、移民も帰化民も大勢働いている。その上、おまえさんは魔法師だし、一等位魔法師からの『特別称号』もあるからな。審査なんかもないだろうし、大歓迎だろうよ。王都の魔法師組合に、話はしといてやるよ」


 相変わらず、つくづく魔法師に甘い国だ。

 大助かりだが。

 気軽に王都に出入りできるようになったら、迷宮品を売りに行くのが楽になりそうだ。

 王都と他領で、どれくらい違いがあるかも知りたいところだしな。

 ……セイリーレは、参考になりそうもないから。


 その日はテアウートに泊まって、翌朝王都へ向かうことにした。

 王都の物見でもしたら、気になっている不殺の魔竜の所に行ってみようと思う。

 冬場はあの辺りの迷宮は殆ど閉鎖になるらしいから、こっそり行ってもばれないはずだ。


 保存食を買った時に、タクトから『不殺の魔竜近くの安全そうな場所に置いてくれ』ってちっこい石を預かったのだが……なんのためか、全く解らない。

 特に何も書いていない、なんの変哲もない石なんだが……あいつのすることは意味が解らんものが多すぎる。

 しまった。

 シシ肉の赤茄子煮込みがなくなってる。

 もう一度、タクトに頼んでおかねぇと。



 翌朝、カバロと一緒にセーラントで俺達が移動できる、最も王都の近くにあるバートムの町へ。

 ここからだと馬なら四半刻もせずに、王都への越領門が通れる。

 この町は銀細工が有名な町だが、最近不銹鋼を使った加工品を作るとかで工房を作っている。


 それ用の不銹鋼を運ぶ時に、手伝ってここまで来たことがある。

 王都で売り出す物を作るのだろう。

 ちょっとだけ、キエムとバイスが悔しそうだった。

 セレステで作ると、王都までは運ぶのが大変だもんな。


 天気が良いのでカバロの機嫌もいい。

 王都の外壁が見えてきた。

 外側から町の中が見えるし、壁って言うより仕切り、くらいの感じだ……

 思っていたよりは、厳重じゃないんだな。

 セイリーレの東門の方が、余程高くてデカイ壁だった。

 国境の町の方が、警戒が厳しいのは当然か。


 ここは出入りが多い分、検問の衛兵数が多い。

 セーラントと接しているこの門は、セーラントの衛兵が検閲している。

 そうか、王都は基本的には近衛と憲兵だそうだからな。

 あ、憲兵隊もいるみたいだけど……衛兵と仲が良いんだな……なんだか、意外だ。

 いや、セーラントの衛兵だからかもしれない。


 領地の格は、領主と次官の格で決まる。

 今のセーラント公は大貴族の中でも序列は一位だというし、次期領主は英傑の再来だ。

 次官のカーテオラ家門は立て続けに聖神司祭を出しているし、今代の皇后がカーテオラの方だもんな。

 衛兵の格も、全領地で一番なのだろう。


 ……馬が一緒だと、結構取られるんだな……入領税って。

 そうか、それで乗合馬車の人が殆どなのか。

 乗合馬車だと、乗車料金の中に入領費が含まれているもんなぁ。

 定期便の業者だと、安くなっているのかもしれない。


 セーラントから入ったのは、町の北側の門がロンドストとも接している王都ノテアース地区という街区の町・カザーエス。

 魔法師組合はどの町にもあるが、中央区まで行った方がいいだろう。

 馬車方陣があるというので、同じノテアース地区の最も中央区に近いウーテという町へ移動した。


 一番中央から遠い広場に繋がっていた馬車方陣を抜けると、雰囲気が全然違う。

 かぽかぽと騎乗したまま歩いて行くと、馬車が何台も通り過ぎ次々と中央区へと入っていく。

 近付くにつれ人が多くなって、なんだかちょっとワクワクしてきた。

 そういえば、ガエスタの王都もストレステの首都も行ったことがなかったなぁ。

 どんな感じなんだろう。

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