弐第37話 王都中央区-1
ウーテの町から中央区への門をくぐると、すぐに石畳の町中へと入る。
なんだか、既視感……あ、セイリーレに似ているんだ。
真ん中にある小高い丘の上の建物が、皇城と中央教会の大聖堂。
セイリーレは山沿いの土地だからか北に向かって高くなっていたけど、ここでは坂道だが勾配はそんなでもない。
道はセイリーレほど真っ直ぐではないけれど、建物が全部石造りでびっちりと並んでいる。
ノテアース地区側より、北側や西側の方が少し高めなのだろう。緩やかな上り坂になっている。
憲兵と思われる男に、魔法師組合の場所を聞いて歩き出す。
この辺りではロンドストやセーラントからのものだけでなく、コレイル領の染料や色墨なんかも売られている店が多い。
色墨は結構高いけど、買い足しておいた方がいいかもしれないな。
この間、キエートで結構使ったし。
方陣札を書く時は、基本的には色墨を使って描く。
俺が【方陣魔法】で付与するように描いたものは、俺自身の魔力が半分以上入っていないと消えてしまう。
札の方陣は三割だけの魔力にしてくれと言われたので、そうすることにした。
……なんでも、魔力を入れ過ぎると、それで売れ行きが変わるから一律にしているのだそうだ。
色墨が並んでいる店先を覗くと……なんか、やたら沢山種類がある。
俺、黒と青と赤くらいしか知らなかったが?
こんなに色があったって、何に使うんだ?
あ、絵の具みたいに絵を描いたりするのかもしれないな。
ふぶっふぉんっ
カバロの奴が、退屈してきたみたいだ。
しょうがねぇだろ、流石に町中じゃ走れないって。
仕方がないな、買い物は後にするか。
はい、はい、宿でも探すかな。
中央区の宿は、いくつかの印が玄関扉に掲げられている。
その印で『厩舎がある』とか『鉄証のみ』とか『長期のみ』とかが解るようだ。
宿によって、かなり条件が違うらしい。
これは魔法師組合に先に行ってから、どこかを紹介してもらった方がいいかもしれない。
魔法師組合は中央区の少し南側、旧教会と呼ばれる場所の近くにあった。
旧教会近くが、やたらと混んでいる。
建物が古いから歴史的な価値でもあるのかもしれない。
物見の客が随分と大勢いて、旨そうなものを売っている屋台なんかも並んでいる。
横目で見ながら魔法師組合に入ると、既に俺が金を引き出して中央役所に預けたいということが伝わっていたようで金と証明書が用意されていた。
「こちらでお間違いございませんでしょうか?」
にこやかに差し出された払い出し証明の金額を見て……身体が固まった。
なんだ、この金額?
「どうして……こんなに多いんだ?」
「いやぁ、ホント、引き出していただけてよかったですよ。今日入ってきた金額も、お預かりするには多過ぎまして」
「は?」
方陣札が売れたにしたって、そんなにとんでもない額になんかならないはずだが?
「リバーラご領主様より『キエート村における土砂災害への魔法使用代金と謝礼金』、同じくリバーラの衛兵隊より『窃盗犯捕縛の協力謝礼金』が届いておりましたので」
いや、キエートのはほぼ俺の押し売りで飯を大盛にしてもらったし、捕縛協力ったって『あっちで見たよ』程度だったはずだ。
「それといつものオルツ港湾事務所からの『書状類受け渡し礼金』に加えて、海衛隊の『護衛協力時の魔法使用代金』などが重なりまして、とてもではございませんが組合金庫でのお預かりが難しくなっておりましたからねぇ。あ、中央役所にもこの金額をお持ちすると連絡してございますよ!」
なんだか二重、三重に報酬をもらっている気がするんだが……冒険者組合の方は護衛の分ってだけで、魔法使用に関しては魔法師組合なのか。
明細を眺めていて、迷宮品を売ってもこの金額より上にはならないんじゃないか……などと、若干虚しささえ感じてしまう。
ま、迷宮に行くのは、金目当てじゃないからな、俺は。
「それと、二泊くらいしたいんだが、宿を紹介してもらえないか?」
「左様ですか! はい、ご紹介できますよ! えーと……このお近くがよろしいですか?」
「厩舎がいい所にしてくれ。馬がゆっくり休める宿なら、少し遠くてもいい」
「では、三、四軒ご案内できますから、行ってみてください。空き状況まではここでは解らないので……」
「解った。助かる」
歩いて探すよりはずっとましだ。
早速行ってみたが、この近くの一件目は今日が満室だった。
もう少し南に行った所は、厩舎がいっぱいで入れず。
……やばいな。
王都の人の多さを、舐めていたかもしれない。
三軒目。
「あ、はい、大丈夫ですよ。二泊、厩舎もご利用ですね」
よかったーーーー。
あ、カバロの奴、嫌がったりしないよな?
ヒヒン、ヒン、ヒン
かなりご機嫌だな……だよなー。
ここ、今まで泊まったどの宿より、ぶっちぎりで高いもんな!
じゃあ、俺は役所に行って口座を作ってもらおうか。
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