弐第6話 取引島の回廊迷宮 3

 なんとか並ばずに昼飯を済ませ、一度船室に戻った。

 方陣札を用意しておくためだ。


 あの池みたいになっている場所から水を抜くには【制水魔法】の方陣が必要になる。

 水を操り、動かすことのできる魔法だ。

 それと『門』を描き足して『採光』も作っておこう。


 最近は、光の剣の明るさだけで迷宮を歩いていたから『採光の方陣』を殆ど使っていなかった。

 でも迷宮核を掘り出す時は、光の剣を持ちながらってのは無理だからな。

 よし、準備完了。


 雨は激しくなっているようだが、風がないせいか船の揺れは全然ない。

 まぁ、多少の雨くらいでは、皇国の魔導船がどうこうはならないだろうけどな。

 一応乗組員に、雨で船が港を離れることがあるかどうかだけは確認したが、どうやらその心配はなさそうだ。

 では、再び迷宮へ。



 迷宮核の部屋に辿り着くと、うっかり忘れていて放置していた魔獣の上半身が殆どなくなって頭だけになっていた。

 ちゃんと光の剣で分解しておく。

 それにしても『清浄水』だと、魔獣の身体に残っているだけでも効果が発揮されるんだなぁ。


 ……水系の魔獣には、かなり有効だな。

 魔獣そのものにあたらなくても、水さえ浄化しちゃえばいいってことだもんな!

 ふっ、これで俺の苦手克服に大前進だな!


 制水を発動させて、たいして深くはない池の水をすべて外へ出してしまう。

 流れ込んでいかないように、池の周りを【土類魔法】の方陣を使って盛り上げておいた。

 おおー、清浄水が辺り全部を浄化していくぞー。

 ……結構、隅っこの方にあの苔っぽい、魔虫だか卵だかがあったんだな。


 池の中からすっかり水がなくなり、清浄水のおかげで浄化も全部完了している。

 さーて、迷宮核を掘り出すか!



 かなり硬い岩の地面で、とんでもなく時間がかかった……

 だが!

 それに見合うものが掘り出せたぜ!

 久々に石板だ!


 しかも、全く読めないし、殆ど見えないが、方陣があったようだ。

 新しい方陣は久し振りだな!

【方陣魔法】で覚えた新しい方陣を描き出してみたが……やっぱりまだすぐには読めない……古代文字だ。

 船に戻ったら訳してみよう。

 どんな魔法かなぁ。

 あ、技能でもいいなぁ。


 ずん、という響きが身体に感じられた。

 迷宮が閉じる時の合図みたいなものだが、まだ平気。

 核を持った俺が迷宮内にいるうちは、道も入口も閉じない。

 それでは、もう片方の入口に向かって歩き出すか!


 俺は空っぽになった池の、反対側へ続く上り坂を歩き始めた。

 また蛇系の魔獣がいると嫌だったので何も見ずに『殲滅雷光』を放ち、蛇も苔も鳥もいない道を進んでいく。

 こうなると採光で明るくして歩きたいところだが、回廊型だと採光では先まで明るくはならないので無駄だ。


 光の剣を『槍』の長さにして進む方が、先まで見渡せる。

 普段これにしていないのは、やたら先の方の魔獣まで分解しちまうことが多くて素材回収ができなくなるからだ。

 だが今は既になんにもいないから、この灯りが一番、ということだ。


 やはり回廊はうねうねと蛇行していて、上りではあるものの高低差のある道が多い。

 分岐をいくつか入ってはみたが、ほぼ行き止まりだったので部屋を作る途中だったのかもしれない。

 だとすると、こちら側は『階層型』になる途中だったということだろうか。


 なら、違う魔獣がいたかもなー。

 しまったー、全部消し飛ばしちまったなー。

 面白い奴がいたかもしれなかったのに、残念なことをした。


 そしてなんとなく空気が変わり、出口が近くなっている感じがする。

 小走りに登っていくと、右手に折れる道と真っ直ぐに行く道に分かれている。

 真っ直ぐな方は……どうやら出口だ。

 しかし、右手に行く方も覗いてみると遠くに明かりが見える。


 二カ所の出口。

 右手の方の明かりの小ささを考えると、かなり離れていそうな気もする。

 まずは真っ直ぐの方に進み、迷宮から出ずに様子見……かな。


 出口から見える明かりは間違いなく『外』で、どうやら雨は上がったようだ。

 そのまま少し道を歩いて行くと、森の中のようで木々が見える。

 ならば、これ以上近付かずに……


 俺は【収納魔法】から弓矢と『門』の方陣札を取り出した。

 札の方陣に傷をつけないように矢に刺して、そのまま射る。

 太めの木に命中した。


 あれが獣や鳥なんかに破られないうちに、もう片方の出口から出て場所を記憶してから『門』であの札に移動だ。

 そうしたら二カ所、辿り着くことができる。

 俺は右手の分岐に入り、出口目指して走った。


 思っていたより遠かったが、なんとか出られた。

 小高い丘の崖上の出口だったその下に……町が見える。

 そしてその町のはるか先に、ぼんやりと壁が見えた。


 タルフの壁だ。


 石造りが一部だけで、あとは木で作られている『壁』。

 ということは、ここはタルフの本国内ってことか。

 では、もう一カ所はこの小高い山の裏側か?


 ずずず……と音がして、迷宮が閉じていった。

 俺が通ってきた道は完全になくなり、土塊が盛り上がって山の一部になった。



 俺は方陣門で移動し、先ほど矢を刺した木の前へと辿り着いた。

 まだ獣たちに見つかっていなかった方陣札を回収し、高台か開けた場所がないかと歩き出す。

 上まで登っていくと、なんとか見晴らしのいい場所に出られた。


 あれ?

 海?

 ぐるりと見回すと、別の島に船が着いているのが見える。

 あれは『疾風の魔導船』だ。

 そして本国側だろうタルフの壁が、海岸線まで達していて途切れている。


 ここはどうやら、タルフ近くの小さい島のようだ。

 俺がいる場所からタルフと取引島が見えるが、取引島の北側なのだろう。

 島に降りると、小山と森に隠れてここは見えないんだと思う。


 まずはこの島を探検でもしてみるかな。

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