第5話

 翌朝、八時に蓮宮が警察署にやって来た。

「おはようございます」

 まるで、OLが職場に出勤するかのように、靴音を響かせて、颯爽と奥へ入っていった。

「どちらへ行かれますか?」

 蓮宮を知らない女性警察官が呼び止めた。

「あら、ごめんなさい。受付が必要だったかしら?」

 蓮宮が言うと、女性警官は訝し気な表情を浮かべた。

「早いですねぇ、蓮宮さん」

 そこへ、若い刑事が来て声をかけた。それを見た女性警察官は、捜査関係者なのだと悟った。

「今、鑑識からの新たな報告があるそうです。行きましょう」


 捜査にかかわる刑事たちが集められているところへ、蓮宮と若い刑事が入っていった。

「獣の毛と、爪の鑑識の結果、複数の犬のものであることが分かりました」

 鑑識の一堂がそう言うと、ざわめきが生まれた。

「犬の種類は?」

 手を挙げて須藤が質問した。

「ポメラニアン、柴犬、秋田犬。その他にもありますが、まだ分かっていません。いずれにしても、ペットとして飼われている犬種です」

「冴島はペットの犬に殺されたって事か?」

 五十嵐の質問に、またざわめきが起こった。

「そうなりますね……」

 一堂はそう答えながらも、腑に落ちないといった表情を見せた。

「殺したのは、狼男じゃないって事?」

 たまらず蓮宮が声を上げると、一斉に注目が集まった。


「解せないな。なぜ、ペットの犬が人を襲った?」

 会議が終わって、刑事課の部屋で五十嵐がぽつりと言った。

「狼男が操ったのよ」

 蓮宮はまだ、狼男が犯人だと思っているようだ。

「野犬ですよ。やっぱり」

 須藤の野犬説も健在のようだ。

「野犬だとして、奴らはどこから来たんだ? そして、今はどこにいるんだ?」

 五十嵐はそう言って、ハッとした。

「あんたの言うように、犬が操られていたのなら、まだ現場の近くにいるのかもしれない」

 刑事たちを集め、さっそく現場近くで犬を飼っている家を調べ、一件ずつ聞き込みに行った。


「突然すみません。事件の捜査をしているのですか、ご協力願えますか?」

 五十嵐と須藤は、ポメラニアンを飼っている家を訪ねた。警察手帳を見た五十代くらいの女は、眉を顰め、迷惑そうな表情を見せたが、断ることなく、二人の刑事を招き入れた。

「犬を飼っていらっしゃいますよね。見せてもらえませんか?」

 五十嵐にそう言われると、女は急に怯えだした。

「なぜです?」

 犬を見たいと言う、理由を知りたがった。

「先日、野犬に襲われたような死体が見つかりましてね。犬を飼っているお宅を一件ずつ回り、聞き込みをしているんです」

 五十嵐が言うと、

「それは、うちの子じゃありませんよ。だって、ポメラニアンですよ。人を殺すなんて出来ないでしょう」

 女はそう言いながらも、その目は怯えていた。何か隠しているに違いない。

「犬種に関わらず、皆さんにご協力をお願いしているんですよ。今見せてもらえないのなら、改めて、令状を持って来ますが、その時には拒否できませんが、いかがなさいますか?」

 五十嵐の言葉に、女は観念して、奥の部屋から犬を抱きかかえて来た。その犬の前足には包帯が巻かれていた。

「これはどうされましたか?」

 五十嵐の質問に、女は、

「怪我をしたんです」

 と答えた。

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