1章 シルヴェン伯爵家の一騒動①
その日、セルミア王国の
「……お父様が、王女
「
王城からやって来た早馬によってもたらされた
二人の父親であるシルヴェン伯爵は、現国王が王太子だった
だがそんな父が昨日王城で
父はすぐに
知らせを受けたアスラクは整った顔を
「お父様が暴行だなんて、信じられない……いえ、あり得ないわ」
「姉上、
「気持ちは分かるけれど……それは悪手よ」
はやる弟をなだめるリューディアも、
「これは、国王陛下からの
「っ……陛下も陛下だ! どうして、何十年も王家を支えてきた父上をこうもあっさり
「おやめなさい」
ぴしっと弟を
まだ十五歳のアスラクは体こそリューディアよりずっと大きいが、その背中は小さく
「……お母様には、このことは?」
リューディアが問うと、
「……先に、お伝えしております。
「ありがとう。……一番お
リューディアが言うと、アスラクもはっとしたようだ。
父は有能な伯爵だが、城内でも有名な愛妻家でもある。いくつになっても
(ここは、私が
リューディアは現在十八歳で、
だが、父が投獄されたとなるとリューディアの社交もアスラクの騎士団入りも、難しくなるだろう。
(……いいえ、だからといってここでおとなしく泣き暮らすわけにはいかないわ)
「アスラク、落ち着いて確実に動きましょう。……お父様が
「それじゃあ、どうすればいいんだ。裁判の日まで指をくわえて待っているだけなんて、僕は
「指をくわえて待っていろ、とは言っていないでしょう。……もしかすると、事件の
リューディアが言うと、それまでは興奮気味だったアスラクも
「支援者……。確かにそういう人がいれば心強いし裁判になっても
「……ええ。でも、お父様の無実を信じているのでしょう?」
「当たり前だ!」
「きっと同じように思ってくれる人はいるはずよ。……アスラク、謹慎期間が終わったら私はこれまでと変わらず王城を訪問して、情報収集を行うわ」
「そんな……それじゃあ、僕もっ」
「あなたはまだ十五歳の未成年だから、城内を歩き回る許可が下りていないわ。だからあなたは、お母様を支えて
つまり、リューディアとアスラクで役割を分担するのだ。これまでは父や母の指示で動くことはあっても、姉弟だけで何かを決めることはほとんどなかったのだが……父が不在で母が
姉の言葉を聞き、アスラクの
「……裁判は、半年後だよね?」
「ええ、それまでに小さめの
「分かった。……でも、姉上の方が絶対に大変なんだから、無理はしないでよ」
「ふふ、分かっているわよ」
弟には言いつつも……いざとなったらリューディアは、長子である自分が
(それでも。たとえ、味方がいなくても……音を上げたりしない)
それが、伯爵令嬢としてのリューディアの
● ● ●
リューディアとアスラクはそれぞれ、裁判の日に向けて準備を進めた。
間違っても、国王や王女の判断に表立って異を唱えたりしてはならない。だから言葉を選びつつ、相手を選びつつにはなったが、「私たちは父の無罪を信じている」「これからも伯爵家と懇意にしてほしい」ということを貴族たちに伝えて回り、「何かご存じのことがあれば、教えてほしい」と事件当時の情報を集める。
(……だからといって、
父の潔白を信じているのだから、堂々としていなければならない。泣きたくなっても
幸い、逆境の中でもシルヴェン
多少の目撃情報は得られて支援者も見つかったが、裁判で王族の決断を
● ● ●
裁判を約一ヶ月後に
「リュディ、アスラク。すぐにお城に行くわよ」
ここ半年ほどですっかり
王城からの使いが来ていることは、リューディアも自室の窓から見ていたので知っている。父についての
「何か……あったのですか?」
「ええ。……
「え……ええっ!?」
思ってもいなかった言葉に、リューディアとアスラクは顔を見合わせた。
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